16.敵は兄さま
「なんだかおとこのこばっかりで、おんなのこはすくないね。」
教室で指定された席に座ると、横の席に座っていた女の子が話し掛けてきた。
「うん。そうね。」
頷くと、彼女から笑顔が返ってくる。
「わたし、ナリサティーヌ・カヴァーデルっていうの。ナリサってよんで。あなたは?」
「シリルファリナ・クリスティーンよ。よろしくね。」
「よろしくね。ねぇ、シリルってよんでいい?」
「うん、もちろん。」
二人で笑い合っていると、鐘が鳴って、程なく先生が入ってきた。すっごい美人でナイスバディな女教師。この学年は、前世での幼稚園年長組の年齢の筈。こんな子供達の間に、先生のような美女が佇んでいるのは妙に違和感がある。執事カフェやホストクラブでイケメンなオニイサン達に囲まれている方がずっとしっくりくる感じだ。
「おい、ガキども。揃ってるか?!」
綺麗な唇から出た驚きの言葉遣いに、思わず目がテンになる。あの~ガキどもだけでなくて、教室の後方にその親もいるんですが……。
思い掛けずこんな綺麗で化粧もバッチリな女性を見て、前世で屋上に私を閉め出したと思われる女性社員達のことを思い出した。けれど、この男前な先生には、彼女達のような嫌な感じはしない。多分、口調通りのサバサバした人なのだろう。
この先生の引率で、入学式が行われる講堂へと向かった。
式典が始まって早々、上級生の女の子達の歓声が上がることになる。というのも、来賓の中にレヴィナイス殿下が陛下の名代として招待されていたのだ。しかも、その側近としてセラ兄さまが斜め後ろに控えている。無駄に輝いている二人である。私は二人が並んでいるのを小さい頃からよく見慣れているけれど、他の女の子達にとっては目の保養、眼福に違いない。まさか兄さまが入学式に現れるとは思っていなかったけれど、特別変わったことも起こらず、無事に入学式は終わった。そう。入学式は………………。
教室に戻り、教科書が配られたり、明日からの説明を受けたりしていると、何故か廊下からざわめきが聞こえてくる。しかも、それは徐々に近付いてきていた。
カラッ。
教室の、前の扉が軽い音を立てる。
「すみません。失礼します。」
満面の笑みで入って来たのは、何とセラ兄さまで…………。先生に輝くような笑顔で会釈した後、兄さまは真っ直ぐ私のところに歩いてきた。
「ん~~~。シリルっ、可愛い!制服姿も最高だよっ!」
私が硬直している間に、兄さまは両腕を広げ、私をすっぽりその中に収めてしまった!『きゃ~!』というよりは『ひゃあ~!』という声が教室中から上がっている。
「にっ、にいさまっ…………。」
私が戸惑っている間にも、兄さまは教室にいる男の子達を見回して、黒い笑顔で威嚇した。
「君達、順風満帆な人生を歩みたかったら、私のシリルには無駄に手を出さないように、しっかり肝に銘じておいて欲しい。」
先生はこめかみを押さえながら口を開いた。
「いきなり乱入して、何なんだ!少年!」
けれど兄さまが答える前に、教室の後ろに立っていた筈の母さまの、低い声が割って入った。
「……何やってんの、セラヴィノーイ…………。」
その心臓に響くような低い声に、兄さまの肩がぶるりと震えた。母さまが名前をフルで呼ぶ時は、恐怖の女帝化している。大人びているとはいえ、まだ十歳の兄さまが敵う相手ではない。
カラッ。
「失礼します。」
まるでタイミングを見計らったように、今度はレヴィナイス殿下が現れた。
「やっぱりここにいた。」
そう言って私達のところまでやってくる。目が合った私に瞳で微笑んだ後、兄さまの襟首を掴んで、まるでペットを連れ出すかのように引きずって行き、扉のところでもう一度振り返った。
「お騒がせしました。」
先生に軽く礼をして、殿下は兄さまを引きずったまま、去っていった。
良い男の話題は、音が響くように一瞬で広範囲に伝わる。今日中に兄さまのことが噂になるだろう。
私は明日からの学校生活に不安を感じざるを得なかった。
セラヴィノーイは牽制(威嚇?)の為に現れました。
レヴィナイスは、シリルファリナが目立ちたくないと思っているのを見越して、
側近候補の回収に現れました。




