14.妹が纏う頭の痛い現実(SIDE セラヴィノーイ)
お兄様は心配性?!
妹、シリルも五歳になり、来月から学校に通う。
俺は学校には行っておらず、将来的にレヴィンの右腕になるべく、彼と共に王宮で、必要だと思われるあらゆることを学んでいる。
だがシリルの場合は、貴族の令嬢として、普通に学校に通うのだ。
これが、例えばレヴィンの妃候補として挙げられていたり、あるいはレヴィン以外にも王子がいて婚約者という立場になるのであれば、王宮で妃になる為の教育を受けるということもあるのかもしれない。だが、幸か不幸か、レヴィンには兄弟はおらず、更にはシリルが、婚約者のいるレヴィンの妃になる可能性も、今のところ全くない。
甘いと言われようが、シスコンだと罵られようが、俺はシリルを学校に通わせたくないと思っている。
シリルは前世の記憶の断片を心に隠していると思われる。そして前世での経験がシリルとしての人格の中にあるせいで、本来の年齢よりも大人びて、素直に甘えることができずに他者と距離を置いているように感じる。兄である俺に対しても壁を感じるのだから、赤の他人では全く心を開けないのではないだろうか。学校で親友と呼べる相手もできずに孤立する可能性に、とても心配になる。
更に、客観的に見てもシリルはおとなしくて女の子らしい美少女だ。幼くて頭の弱い男共が、そんな可愛いシリルの気を引こうと意地悪したり、けなしたり、といった幼稚な行動に出ないとも限らない。そして、そんな事態になっても、離れた場所にいる俺では、今までのように護ってやることができないのだ。
また、忘れてはいけないのが、というか最大の難関は、言うまでもなく雷。シリルが学校にいる間は雷がならないように、なんてことができる筈はない。そればかりではない。雷属性の魔力の持ち主という存在も無視できなくなってくる。
そう。この世界では全ての人間が、力の大小の違いこそあれ、魔力を持っている。光、闇、炎、水、風、土、そして雷の七種類。そして、1人の人間が持つ魔法属性はひとつ。
ここだけの話、土属性の父上が魔術師長の地位にいるのは、同時に幾つもの国を壊滅させうる程の地震を起こすことができる、そんな強大な力を持っているからだ。更に土属性故、炎は効かず、半端な水の魔法は自分の魔力へと変換することができ、当たり前のように風をやり過ごす。光や闇の影響も受けにくい。倒すことが可能だと言えるのは、広大な大地を流せるような桁違いの水の魔術師か、地面を抉るような鋭い雷を止めどなく打てる魔力の持ち主に限定される。そして、それが実行されたならば、世界は破滅を迎える以外にないだろう。となると、そこまでのことを実行する力と覚悟のある人間がそうそう存在する訳がなく、よって父上の存在が、他国に対する大きな脅威となり、この国の平和は保たれているのだ。
因みに、母上は水の魔力を膨大に持つ。父上が大きな力を使う場合、側にいて際限なく水の力をチビチビと父上に流す。それ故、世界最強夫婦の名を欲しいままにしている。
その二人から生まれた俺は闇属性だ。闇というのは、相手の視覚を奪ったり眠りに落としたりはできるが、それは攻撃とはいえない。俺が父上の後を継いで魔術師長を目指さない理由はそこにある。どんなに強い魔力を持っていても、俺がその位置に就いたところで、他国に対する抑止力にはなりえないのだ。
話はややズレたが、つまり俺が言いたいのは、魔力の量というのは身体に受け入れる器があって決まるものなので、ある程度遺伝しうるから、俺もそれからおそらくシリルも大きな魔法力を持っているだろう。が、属性は遺伝しない。各々の資質や性格からくるものなのだ。そして、先程父上から明かされた、シリルの魔法属性が雷で、その恐怖により無意識の内に力を封印している、という事実。となれば、シリルは自分で自分を護る術が無いということになる。更には、いずれ無意識に抑え込まれた魔力が暴走する可能性がこの上なく高いらしい。それ程に彼女の魔力の量が膨大なのだ。前述した、父上を倒す力を持つ類い希な人間のひとりだと断定できるくらいに。自分でコントロールできない莫大な魔法力を持つ娘、それだけで、利用価値を求める者には、最高の餌となりうる。つまり、この秘密を隠さねば、シリルが危険に晒される未来が待っているのである。
そう考えると、益々、1人で学校に通わせたくない。
そう思いつつ、レヴィンを探しに庭園に出た俺は、やはりシリルを1人にするべきじゃないと確信した。俺の可愛い妹は、案の定エスネラードなるガキンチョに捕まり、レヴィンに庇われていたからだ。しかもガキンチョは俺を腹黒呼ばわりしやがった。完璧に報復決定である。
腹黒なりに、いろいろ考えているようです。




