13.殿下(SIDE レヴィナイス)
今回は短めです。
セラが父親である魔術師長に連れ去られた為、俺は思い掛けず時間が空いた。経済の勉強はセラが戻ってからすることになったからだ。
天気も良いことだし、俺は庭に出ることにする。
ぼんやりと歩いていると、どこからか小さな話し声が聞こえた。気になって歩を進めると、薔薇園の中にファリナがいて、そのファリナに向かってエスナーが手を伸ばそうとしている。
「勝手にコイツに触ろうとするな!」
意識する前に、俺の口から腹立だしい気持ちが言葉になって迸った。大股で近付いてファリナの細い手首を掴み、自分の方に引き寄せる。ファリナは驚いたように瞳をまんまるに見開いて呟いた。
「…………でんか………………。」
えっ?!殿下っ?!
これまでファリナは俺を『おうじさま』と呼んでいた。この国の王子は俺1人にも関わらず、俺のことを『王子様』と呼ぶのはファリナだけ。皆『殿下』もしくは『レヴィナイス様』『レヴィン様』と名前で呼ぶ。他国の重鎮連中と会う時でも『レヴィナイス王子』が普通。だからファリナにはずっと俺を『王子様』と呼んでいて欲しかった。そして自分がファリナにとっての王子でありたかったのに…………。何気に凄いショックだ。
言葉を無くしてファリナを見つめる俺に、エスナーの声が割り込んだ。
「さわるなって、レヴィンにいさん、どういうこと?」
コイツは脳も筋肉でできているらしく、時折意味の解らない言葉の使い方をする。
「どういうこと、とは?」
聞き返しながらエスナーに視線を移すと、不機嫌そうな顔をしていた。
「シリルはセラのいもうとだから、セラにおこられるのならわかるけど、なんでレヴィンにいさんがおこるのさ?!」
「何ででも良いだろう?!」
「よくないよ!レヴィンにいさんはこんやくしゃがいるからいいかもしんないけどね、オレにはおんなのこのともだちをつくるきかいなんてめったにないんだよ?!せっかくであったおんなのことなかよくなりたいとおもったっていいじゃないか!」
そうだ。すっかり忘れていたが、俺は顔も知らない隣国の姫と婚約させられている。ファリナにとっての王子様にはなれないんだ。
「ふーん。そうか、エスネラードは女の子の友達が欲しいのか。」
二の句が継げなくなった俺の背後から、面白がるような、なのに不快感の滲み出ている声が割って入った。
「にいさま。」
そう。セラだ。クリスティーン魔術師長との話は終わったのだろう。俺を捜しに来たに違いない。
振り向くとセラは、輝くような笑顔を浮かべていた。あんなに黒い笑顔を輝かせることができるなど、セラ以外には不可能に違いない。
「エスネラードが女の子の友達が欲しいなら、いくらでも紹介してやるよ。」
言いつつ、ファリナに近付き、その背後から彼女を抱き締めた。その細い肩に顎を乗せて、笑顔のまま、鋭い視線をエスナーに向ける。
「だが、シリルには近付かないでくれないか?!シリルが勿体ない。」
「もっ、もったいないって…………。」
狼狽えるエスナーにセラはニヤリと笑った。さっきまでの輝くような、でも黒い笑顔でなく、完璧に黒い、恐ろしい笑顔。
「こぉんな可愛いシリルを、お前なんかに譲ってやる気にはなれないんだ。他の子で手を打てよ。」
エスナーはぶんぶんと首を振った。
「いやだ!いやだよ!だいたいセラのまわりのおんなどもって、セラにしかきょうみないじゃないか!それに、はらぐろなセラにむらがるおんなどもも、セラににて、はらぐろっぽいから、いやだ!」
「ほー。俺を腹黒と。」
「あっ!ちっ、ちがっ!」
エスナーはかなり慌てているが、俺に言わせればセラに面と向かって『腹黒』発言した時点で、負けが決まっている。まず間違いなくセラは、取り巻きの中で特にセラが面倒がっている女数人を、エスナーに押し付けるだろうと思った。
今回レヴィナイスの考えるシリルにとっての『王子様』は、
恋愛的なものというよりも、
小さい女の子が絵本などで見る『王子様』に対する感情、
つまり憧れの気持ちを持って欲しいという意味です。
(今のところは、ですが)。




