11.可愛い女の子(SIDE エスネラード)
視点がコロコロ変わってごめんなさい。
今回はエスネラードです。
オヤジとオフクロが陛下に呼ばれた。今回はオレにも関係することなのか、オレも一緒に王宮に来たんだが、謁見したのはオヤジとオフクロだけ。オレは待っているように言われたが、退屈だから庭に出ることにした。今の時期なら、薔薇園が花盛りの筈だからだ。
薔薇園に行くと、お姫様か妖精か、とにかく可愛い女の子が立っていた。緩やかな曲線を描く栗色の髪、煌めく紺碧の瞳、柔らかそうな薄桃色の頬、薔薇の花びらのような唇。薄いオレンジのドレスから覗く腕や脚は折れそうな程細くて、儚く見えた。声を掛けたら夢のように消えてしまいそうで、それでも声が聞きたくて我慢できなくて、オレは躊躇いがちに声を掛けた。
「おまえ、だれだ?」
振り向いた少女は消えることなく、それどころかオレの心にしっかりと焼き付いた。
その少女、シリルと話していてまず驚いたのは、彼女があの腹黒セラヴィノーイの妹だということだ。だが、見た目の良さは確かに腹黒セラと似通ったところがあるが、彼女はアイツと兄妹だと思えない程優しい空気を纏っていて、一秒毎に心が暖かく疼く。たまに会うセラは、笑顔で辛辣なことを言うからかなり苦手なんだが、この子は本当に可愛くて、このまま一緒にいたい、ずっと二人きりで話していたい、そんな気持ちになった。
歳を尋ねたら、オレのひとつ下だと判った。思わず笑みがこぼれる。今から動き出せば、いずれオレのヨメに迎えることも不可能じゃないだろう。
この国ではここ十年程の間、女の子供の出生数が男の子供の三分の二程度に落ち込んでいて、いずれ結婚できない男が増えるだろうと言われているらしい。騎士団長を務めているオヤジが、今後少しでも自分の縁談を優位に進められるよう、騎士団に入って手柄を立てようとする青年が増える可能性を、何かの折りにオフクロに話していた。勿論オレは、こっそり立ち聞きしたんだが。
そんな中に、シリルのような柔らかい空気を纏う可愛い女の子がいたら、凄絶な争奪戦が繰り広げられることは避けようがない。だからその前に仕掛けるが勝ちだ。
ただ問題は、言うまでもなく、少女の兄であるあの腹黒セラだ。ヤツを出し抜くことができなければ、シリルを手に入れることはできない。ある意味、父親である魔術師長よりも厄介な存在だ。
そんなセラと対峙する危険は最後の最後まで回避して、今はとにかく彼女を知ること、そしてその心にオレの良い印象を植え付けることから始めることにする。
「シリルはどんなようじでひでんかにあうよていだったんだ?」
「ちいさいときにえっけんして……それからなぜか、つきにに、さんかい、ひでんかとすごすようになったんです。」
「それからずっと?」
「はい。」
「ひでんかもおいそがしいはずなのに、だいぶきにいられたんだな。」
シリルはちょっと困ったような顔で微笑んだ。そんな表情もやっぱり可愛いと思ってしまう。
「…………きっとひでんかもシリルがかわいいとおもってるんだ。」
「えっ?!」
彼女の驚いたような声に、オレは無意識に内心を吐露していたことに気付いた。思わず顔が熱を放ち出す。
「いっ、いや、オレ、シリルはかわいいとおもって!」
慌てて口を開いたオレは、誤魔化すどころか、更に本心をぶちまけてしまった。益々顔が熱くなる。
「………………そんなことないとおもうけど…………、でもありがとう…………。」
頬を染めて恥ずかしげに微笑むシリルは、本当に、本っ当に、身悶えしてしまう位、可愛かった。少しだけ、ほんの少しだけでも良いから触れてみたくて、恐る恐る手を伸ばした。
「勝手にコイツに触ろうとするな!」
割り込んだ声に、オレは大きく肩を揺らした。
振り返るとそこに、オレの従兄弟でもあり、この国の第一王位継承者でもあるレヴィンにいさんがいた。




