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9. 加奈とお友達

 

 宿に残った加奈とカボ太郎。外道神に取り憑かれすぎた加奈は、高熱を出し横になっていた。カボ太郎は、横でそれを見守っている。


 しばらくすると、加奈は起き上がり座布団の上に座って。


「おい、水飲んどけ。熱でてんだからよ」


「ありがとう、カボ太郎」


 と、加奈は水の入ったコップを受け取ると、両手で少しずつ飲んだ。


「なあ加奈。あんた、いつから外道神に取り憑かれてたんだ?」


「土庄町についてすぐだよ」


「はぁ? ずっと引き連れてたのか?」


「うん。だんだん増えちゃったけど」


「引き寄せすぎだろ、お前」


「そうかも。でも、私じゃなかったら、皆お払いしちゃうでしょ?」


「だろうな。というより、それが普通だろ、取り憑かれたら最悪死ぬんだからな」


「だったら、私が相手になってあげないとね!」


 そもそも外道とは、無縁様の霊に対する名であり、小豆島では外道神に憑かれるという。つまり、外道とは、ガキ仏のように、供養されずにさまよう霊たちのことである。


「お前、連れてかれても知らねえぞ」


「大丈夫、みんなお友達だから!」


 というと、加奈は机に突っ伏した。さすがに、高熱は加奈にとっても、しんどいようだ。カボ太郎は、半分呆れた様子で、その光景を眺めていた。


 加奈は心の中で、順番に外道神と一対一で対話していた。生きているときに何があったのかだけでなく、今周りはどんな風になっているのか、それに加奈自身の話もする。 そうして、一人一人お友達になると、外道神は満足して成仏していく。多くの外道神に対して、加奈はじっくりと順番にお話しを続けていった。


 しばらくして、加奈の熱も引いてきた。顔色も良くなってきたように見える。


「おい、もしかして終わったのか?」


「ううん。あと一人だけまだいるよ」


「はぁ、すっげぇなあんた。良くできるな」


「私にとっては普通だから」


 と、話していると、残り一人の外道神の姿が実体化した。カボ太郎にもその姿がはっきり見える。


「うお、急にでてきた」


「彼はね、土庄町についたときから、ずっと一緒にいるの」


「はぁ。なんでずっといるんだ?」


「生前、寂しかったんだって。だから、私と一緒に、迷路のまちとかを一緒に回っていたの」


「……那月のやつは、そのこと知ってるのか?」


「ううん、知らないと思う」


「折角二人の旅なんだから、那月の相手に集中してやれよ」


「えへへ、どうしても放っておけなくて」


 と話していると、その少年の霊が口を開いた。


「お姉ちゃん、遊んでくれてありがとう」


「うん! また、あったら遊ぼうね!」


 加奈がそう言うと、少年の霊は笑って消えていった。加奈はしばらく、その余韻に浸っていた。しかし、直後急激な疲労感に襲われ、後ろに倒れこんだ。


「はぁ~、楽しかったけど、やっぱり疲れるよね」


「そりゃそうだ。でも、たいたもんだよ、あんたは」


「えへへ」


「あんた、もしかして、いつもこんな感じなのか?」


「そうだよ!」


 と、加奈は大の字に腕をのばしながら、笑って答えた。


「なるほどな。確か、妖怪の友達がたくさんいる、っつてたが。納得だよ。それに、あの怖い那月の奴がお前にべた惚れするのわかる気かするぜ」


「そうなのー?」


「まあ、加奈のことは覚えといてやるよ」


「そうだよ~、友達なんだから、忘れちゃ駄目からねー!」


 と、加奈はそう言いながら、那月に終わったから少し休む旨のメッセージを送信した。


「それじゃあ、私はちょっと寝てるね。何かあったら、起こして」


 と、加奈は眠りにつくのだった。




 加奈は安眠の中で、初めて那月と妖怪について本格的に話したときのことを思い出していた。


 場所は地元の学校の最寄りのカフェ。そこで、加奈と那月はお話ていた。


「那月、ちょっといい?」


「ん? どうしたの?」


「那月って、オカルトって信じてる?」


 他愛もない会話の途中だけれど、加奈の表情は真剣で、真っすぐこちらを見つめている。


「オカルトかぁ、信じてるよ」


「本当!」


「うん! 加奈はどうなの?」


「実は私ね、オカルトを信じってるていうよりは、実際に体験したことあるの!」


「へぇ、興味ある。聞かせてよ」


「色々ありすぎてね……ええと、まず私ね、生まれながらにしてオカルト的な物事を引き寄せやすい体質みたいなの!」


「ふむふむ」


「幽霊はもちろん、妖怪さんとかも見たことあるの」


「今どき、そんなに妖怪に会えるの?」


「家の近くには結構自然があってね。川で河童に会ったこともあるの」


「え、引きずりこまれたりしたんじゃ」


「最初はちょっと怖かったけど、すぐお友達になれたの! 泳ぎ方教えてもらったりもしたの」


「すごい、そんなに直ぐ仲良くなれるんだね」


「那月はさ、私の話信じてくれるの?」


「うん! 加奈は嘘つかないしね!」


「えへへ」


 そして、那月は少し間を開けると、口を開いた。


「実はね、私も似たような話があって」


 と、那月は加奈に自分の不思議な力について話した。


「て、ことなんだ。その……どう思う?」


「凄いと思う!」


「怖くないの?」


「うん! だって、どんな不思議な力を持ってたとしても、那月は那月でしょ?」


「ふふふ、そうだね! 私は私だから!」


 那月はそう言って笑顔を見せていた。




 懐かしいなぁ、と持っていると、ふと強い気配を感じ目を覚ました。

 

 すると、目の前には、那月のドッペルゲンガーが立っていた。




 時は少しさかのぼる。宿を出た、那月と近江屋は江洞窟へとやってきていた。洞窟には建物を通じて夕日が差し込んでいる。二人は階段を降りて、弁財天が祀られている場所までやってきた。


「どう、近江屋さん?」


「うーん……何も聞こえないな」


 二人はしばらくそこいたが、特に何も起こることはなかった。途中で、加奈が無事外道神たちとのお話を終えたという連絡が入っただけだ。


「もしかして、もういないのか……」


 そう呟く近江屋の横で、那月は祀られている弁財天をまじまじと見つめていた。


「近江屋さん。もしだよ、もし弁財天が近江屋さんを助けるために声をかけたんだったらさ、まだここにいるよね」


「うん、そうだね」


「声が聞こえないということは、ここにはいないってと。つまり、声の主は弁財天じゃない。ということは……」


「やはり、封印されていた悪魔なのか?」


「どうだろうね。もしそうだったら、封印から逃れたことになる。でも、たまたま通りすがりの存在が近江屋さんにここで力を与えるとも感じないし」


 那月がそこまで口にしたところで、近江屋の顔は急に青ざめた。


「まさか、そういうことか」


「え? 何かわかったの?」


「封印だ。封印の原理はわからないけど、ボクの術を利用して、抜け出したんだ!」


「離魂の術。そっか……確かに、ありえるかも」


「だとしたら、悪魔がこの小豆島に野放しになっているのか。最悪の場合、もう島にすらいないか」


「うーん。離魂の術島全体にかけるって条件だったし、島にはいるんじゃない?」


「だとしたら、悪魔は封印から逃れた後は何を目指すんだろうか」


「離魂の術を利用するんだったら、魂の一部だけ封印の外にいるのかな? だとしたら、体が欲しいとか?」


「……誰かに取り憑くか。それだったら、もう取り憑き終わっているか」


「でも、40日という条件があったし、すぐに取り憑けないのかもよ」


「取り憑くのに適した人物が現れるで待っているかももしれないね」


 近江屋がそう口にしたとき、那月はハっとした様子で声をあげた。


「待って! 取り憑きやすいってことだよね」


「うん。そうなると思うけど」


「今、小豆島にいる人で一番取り憑きやすいのって」


「どうだろう、小豆島に住んでる人にもよると思うけど……まさか!」


「加奈だ!」




 場面は戻る。目を覚ました加奈の目の前に立っていたのは、那月のドッペルゲンガーだった。加奈は状況が呑み込めず、ただ那月のドッペルゲンガーを見ていた。那月のドッペルゲンガーは狐の面を被っている。


 少しすると、那月のドッペルゲンガーは狐の面を取り、加奈の頭に手を伸ばした。そして、優しく加奈の頭を撫でた。意外な行動に、加奈はただ那月のドッペルゲンガーのことを見つめていた。ただ、那月のドッペルゲンガーの表情はとても優しく、全てを包み込むような抱擁感があった。


 そして、那月のドッペルゲンガーは再び狐の面を被ると、窓から飛び出し、姿を消した。


 那月があっけにとられていると、横から震えた声でカボ太郎が声をかけてきた。


「お、おい。大丈夫なのか?」


「え? もしかして、何かあったの?」


「ああ、あんたが眠っているときだ」


 と、加奈が眠っているときのことを話始めた。




 加奈が外道神たちとのお話を終えて、眠りについてしばらくしてからのことだ。横でくつろいでいたカボ太郎は、異様な気配に飛び起き身構えた。あの、那月のドッペルゲンガーと出会ったときに感じた、身の危険を感じるような圧だ。その圧は窓の方から感じられた。


 窓の方を注視していると、人型の黒いもやもやが、窓をすり抜けて侵入してきた。実体のない単なる黒いもやもや。だが、カボ太郎にはこれが相当ヤバいものであると感じられた。


 カボ太郎は、すぐに加奈を守るために動こうとするも、体が動かない。


「ぐっ! 逃げろ加奈!」


 と、必死に口を開け声をあげた時だった。


 突如窓が開き、風が流れ込む。それと同時に、何かが颯爽と部屋に入りこみ、黒いもやもやと加奈の間に割り込んだ。割り込んだのは、狐の面を被った那月のドッペルゲンガーだった。那月のドッペルゲンガーは一歩も引かず加奈の前から動かなかった。すると、黒いもやもやはきびすを返すように、窓から外へと出て消えていった。


 そしてその後、加奈が目を覚ましたのだった。


「て、いうわけだ。すまねぇ、俺は何もできなかった」


「ううん。大丈夫だよ、カボ太郎は。でも、那月のドッペルゲンガーにお礼言えなかったなぁ」


「やっぱり、あいつのドッペルゲンガーは、あんたの言うようにあんたのことを守ってくれてるのかもしれないな」


「うん、きっとそうだよ! あれ? じゃあ、その黒いもやもやって何なのかな?」


 と、話しているときに、加奈のスマホが鳴った。出てみると、それは那月からの電話であった。


「もしもし、那月? どうしたの?」


「加奈! そっちで何かに襲われたりしてない?」


「うん! さっき襲われかけたみたいだけど、那月のドッペルゲンガーが助けてくれたんだよ!」


「私のドッペルゲンガーが? ……いや、それよりもだよ。その襲ってきたやつ。どんなのだった?」


「カボ太郎が言うには黒いもやもやだって」


「もしかしたら、そいつが江洞窟の悪魔かもしれない」


「ええ! そうなの?」


「うん。江洞窟には既に声の主はいなかった。だから、既にどこかに移動してると思うの。それで、近江屋さんの離魂の術を利用してるんだったら、魂だけが封印から逃れている。だとしたら、誰かに取り憑くんじゃにかって」


「それが私?」


「うん。加奈、取り憑かれやすいから」


「えへへ、確かに」


「もう、笑い事じゃないんだから。私たちも一度そっちに戻るね」


「うん! 気を付けてね!」


 と、通話を切った。


 加奈はカボ太郎に報告した。


「あれ、江洞窟の悪魔なんだって」


「江洞窟の! 封印されてたろ」


「近江屋さんの離魂の術を利用して逃げたって」


「はぁ……厄介だな」


「知ってるの? 江洞窟の悪魔」


「いや、見たことはねえ。ただ、災厄の象徴だとか色々言われてる見てぇだな。あの、弘法大師が直々に封印したんだからな」


「弘法大師は知ってるんだね」


「あたりめぇよ」


 加奈と、カボ太郎は那月たちが帰ってくるまで大人しく待つことにした。





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