10. 真の黒幕!
しばらくして、那月と近江屋が宿に戻ってきた。那月は直ぐに加奈の傍に駆け寄ると、加奈の目線に合わせて座り込んだ。
「加奈! 大丈夫だった? どこも怪我してない?」
「大丈夫だよ! ありがとう、心配してくれて」
そして、四人は再び机を囲んで座った。開幕、近江屋が口を開いた。
「さて、これからどうするかだけど。やるべきことは二つある。一つは、江洞窟の悪魔を再び封印すること。もう一つは、出雲さんのドッペルゲンガーを処理すること。でも、天川さんの話を聞く限りは、出雲さんのドッペルゲンガーは、天川さんの味方になってくれそうだね。だから、今は前者の江洞窟の悪魔の封印に全力を尽くした方が良さそうだ」
それに対し、カボ太郎が口を開いた。
「封印するたってどうするんだ? あんたら弘法大師じゃないだろ」
続けて、加奈も口を開いた。
「どこにいるのかもわからないよね」
いま江洞窟の悪魔についてわかっているのは、近江屋の離魂の術を利用して封印から逃れたこと、そして加奈のことを狙っているということだけだ。
「じゃあ、私が囮になれば……」
と、加奈が口にすると、那月が即座に拒否した。
「駄目! そいつは、危ない奴なんだから。確実に封印できるとかじゃない限りは……それでも、加奈には囮はやってほしくないけど」
「封印か……」
と、近江屋は呟いた。
「確証はないんだけど、江洞窟の悪魔は僕の離魂の術を利用しているはずだ。だったら、いつもドッペルゲンガーを処理するみたいに、江洞窟の悪魔も元の場所に戻せるかもしれない」
「処理ってどうやるの?」
「僕がドッペルゲンガーに直接触れて、無理やり魂を引っ張り出す。そうしたら、元の肉体に戻っていくらね。ちなみに、本人だったら、触れるだけでドッペルゲンガーは消えて魂はもとに戻るよ」
「うーん……悪魔に通用するのかな。それに、近江屋さんが直接触れられるチャンスがあるかどうか」
と、那月が考えていると、カボ太郎が元の姿に戻った。加奈はびっくりして声をかけた。
「え、カボ太郎? どうしたの?」
「俺も仲間に知らせてくるよ。江洞窟の悪魔の行方を追うんだったら、各地で見張らないとな。それに封印するにしれも、数はいた方がいいだろ」
「ありがとう、カボ太郎!」
「気にすんな! あんが言うには俺らは友達ってやつなんだろう? だったら、俺も人肌脱いでやるよ」
と、カボ太郎は意気揚々と部屋を飛び出していった。
「加奈ってば、すっかりなつかれてるんだね」
「えへへ、小豆島でもお友達ができたの!」
と、相変わらず加奈は嬉しそうだ。
「でも、結局どうやって封印しようかな」
那月がそう言うも、なかなか名案は出てこない。弘法大師が現代にいて、力を貸してくれたら簡単だったかもしれない。だけど、江洞窟でも反応がなかったことから、自分たちで何とかするしかないようだ。そのとき、加奈はいいことを思いついたと言わんばかりに、声をあげた。
「はいはい! 封印はね、みんなですればいいんだよ!」
「みんなって?」
「私と那月と、近江屋さんでしょ。それに、カボ太郎を含めた妖怪さんたち。あとは、那月のドッペルゲンガーと、カボソたちのドッペルゲンガー!」
「ん-……加奈が言うと現実味があるね!」
近江屋も特に加奈の意見を否定することはなかった。確実な方法がない以上の、使える手段はすべて使うべきだからだ。
「近江屋さん! 離魂の術って、封印を破るわけじゃなんだよね!」
「そうだね。あくまでも、江洞窟の悪魔は魂の一部だけが封印をすり抜けたってだけだと思う」
「それじゃあ、厳密には封印のそとには出られてないんだ」
「そう。だから、魂の器として君を狙っているってところかな」
「そっかー、じゃあ悪魔さんとお友達になれても、結局は封印の中に戻るしかないんだね」
「こればかりは仕方ないよ」
と、江洞窟の悪魔への対処法を練っていると、カボ太郎が部屋に戻ってきた。そして、また少年の姿へと戻った。
「あれ、カボ太郎。はやかったね」
「おうよ。俺が言うまでもなく、他の奴らも動いてくれてたみたいでよ。で、わかったことがあるんだ。加奈、地図出してくれ」
カボ太郎に言われ、加奈は観光用の小豆島マップを机の上に広げた。
「今俺らがいるのが、土庄町から少し西にある宿だな」
と、ペットボトルの蓋を目印として置いた。
「それで、仲間から聞いた情報なんだが。俺らのドッペルゲンガーの動きがある程度わかったようなんだ」
と、ペンを取りマップに書き込み始めた。
「初めて出たのは迷路のまちだ。那月のドッペルゲンガーが出た時にはもういたらしい。で、その後だ。俺らのドッペルゲンガーは10体いる。そのうち5体が、ずっと加奈の周りを動いてた。ルートとしてはこんな感じだ」
とペンを走らせる。迷路のまちから、この宿へ。次の日は再び迷路のまちへ行き、その後はずっと宿周辺にいる。丁度、加奈が動いた経路と一致している。
「大事なのはここからだ。残り5体は基本的に那月のドッペルゲンガーと一緒にうごいているらしい。で、最初の動きがこうだ」
と、ペンを迷路の街から南へ走らせた。
「俺と加奈が宿に向かった方角とは反対だ。でその後はこうだ」
と、ペンを走らせる。南から宿の方に向かったと思えば手前で、東へ行き、また向かったと思えば、北東へ。次に迷路の街へ向かったと思えば、手前で西に行っている。で最後は、この宿に現れ、今は西に向かってる。
「これがどういうことかわかるか?」
「どういうことなの?」
「俺にはわからん!」
と、カボ太郎はペンを置いて座り込んだ。
那月はため息をつくと、その指でその経路を指示した。
「はぁ。こういうことでしょう。私のドッペルゲンガーは何かを追いかけ続けている。その追いかけている対象は、何度も加奈に近づこうと試みてる。そして、最後には、それは加奈に接触した」
「ということは」
「そう。私のドッペルゲンガーは、江洞窟の悪魔を追い続けていた」
そう言われて加奈は思い返した。あの夜、迷路のまちではじめて那月のドッペルゲンガーに会った時のことを。那月のドッペルゲンガーは、明らかに九つの尾を広げ、臨戦態勢を取っていた。だけど、それは加奈に対してではなく、江洞窟の悪魔に対してだったのかもしれない。あのとき、江洞窟の悪魔が忍び寄り、知らず知らずのうちに、加奈は危険な状態にあったのかもしれない。そうすると、那月のドッペルゲンガーはあのとき、江洞窟の悪魔を撃退して、加奈を守ってくれたのだ。
「そっか……あのときも、那月のドッペルゲンガー、私を守ってくれてたんだね」
「そうみたいね」
と、那月は微笑を浮かべて加奈に同意した。那月自身も自分のドッペルゲンガーが加奈を傷つけようとしたと知ったときはショックを受けていたが、実際は加奈を守ろうとしたと知ってホッとしたのだろう。それと同時に、自分に秘められたもう一人の自分は、凶悪な九尾ではなかったと、安心もできたのだろう。
「カボ太郎は、今は西に向かっているんだったよね?」
と、近江屋が尋ねた。
「そうだ。江洞窟の悪魔も那月のドッペルゲンガーも西だ」
「だったら、今こそ僕たちも動くべきだね」
この発言に、那月も頷いた。
「そうだね。西なら、江洞窟も近いから、封印に戻しやすいかも。加奈はどう思う?」
那月の問いかけに、加奈は力強く頷いた。
「私もいいと思う!」
加奈がそう言うと、カボ太郎はも答えた。
「よし、じゃあ俺も仲間に伝えるよ。全員で西へ向かってな!」
カボ太郎の発言に、三人は頷いた。
日は落ち、もう夜となっている。加奈たちは、小豆島のドッペルゲンガーの元凶、江洞窟の悪魔の封印のため、宿を出るのだった。




