11. 元凶を追う!
宿を出た、加奈たちはひとまず西へと進み始めた、カボ太郎は途中で、離脱し、仲間へと報告へ向かった。
加奈たちがしばらく移動していると、突然目の前に狐の面を被ったカボソが姿を現した。よく見れば、それはカボ太郎のドッペルゲンガーだ。それは黙ったまま、加奈たちの前に立っている。それに対し、加奈が口を開いた。
「あの! 私たち、江洞窟の悪魔を封印するために、えっと、那月のドッペルゲンガーさんと合流するために、西に向かってるんです! 案内してくれませんか?」
というと、カボ太郎のドッペルゲンガーはこくりと頷いた。そして、背を向けると歩き始めた。
「ついてきてってことだよね?」
那月が尋ねると、加奈は答えた。
「そうだと思うよ!」
そして再び加奈たちは歩き続けた。江洞窟の悪魔の移動先もその都度変わっているのか、向かう方向もしょっちゅう方向転換がはいった。
このように、ゆっくり進んでいると、カボ太郎も合流した。
「よ、お待たせ。って、俺のドッペルゲンガーじゃねえか!」
「今案内してもらってるの。あ、触ったらだめだからね!」
よく考えれば、本人とそのドッペルゲンガーが出会っているのだ。今回の事例の場合は、近江屋の説明によると、本体がドッペルゲンガーに触れた場合、ドッペルゲンガーは本体の方に戻ってしまうのだ。
そうして、加奈たちはジグザグと歩き続けた。もう何時間も歩いている。加奈と那月にもさすがに少し疲れが見えてきた。近江屋は地図を取り出し、カボ太郎のドッペルゲンガーに見せて尋ねた。
「今、どこらへんかな?」
すると、カボ太郎のドッペルゲンガーは、地図を指さした。宿からは結構西に歩いてきているようだ。
「ちなみに、江洞窟の悪魔は今どこにいるの?」
と、尋ねるとまたもや地図を指さした。もう少し西の方に現在いるらしい。というより、カボ太郎のドッペルゲンガーはずっと、自分たちといるのに、なぜ江洞窟の悪魔の位置がわかるのだろうか。ドッペルゲンガー間で、意識が共有でもされているのだろうか。
そのとき、カボ太郎のドッペルゲンガーが急に足を止めた。
「あれ? どうしたの?」
加奈が尋ねるも反応はない。しばらくすると、カボ太郎のドッペルゲンガーは近江屋のもつ地図のある場所を指さすと、走り出し消えてしまった。
「あれ? いまどこ指さしてました?」
「ここだよ」
と、近江屋が指して見せた場所は江洞窟であった。
「そこに行けってことだよね」
「恐らくね」
加奈たちは、カボ太郎のドッペルゲンガーの指し示した場所、江洞窟へと向かうのだった。
江洞窟の建物には、すでに多くの狐の面を被ったカボソのドッペルゲンガー集まっていた。彼らは、加奈たちに階段を下って、洞窟に入るように促した。
「ここに江洞窟の悪魔がいるってことだよね」
「うん。加奈、取り憑かれないように気を付けて」
「大丈夫! 近江屋さんも準備はいいですか?」
近江屋も頷いて答えた。
「大丈夫だよ。ここで終わらせよう」
加奈たちは、階段を下り、江洞窟の中へと向かうのだった。
中は、いつも通りで変わりない。しかし、弁財天が祀られている箇所の奥に、妙に空間が歪んでいる場所がある。加奈には見覚えがあった。妖怪が自分たちの住処を守るために結界を張ることがある。この歪みはその類だ。だが、中に入るにはいつも何か条件がいる。決まった道順を通るとか、呪文を唱えるとか、内容は様々だ。
「え、どうやって入るんだろう?」
と、加奈が悩んでると、那月はおもむろにその歪みに近づき、手を伸ばした。
すると、歪みが消え、はっきりと先に続く空間が見えるようになった。
「え! 那月、どうやったの?」
「なんとなくわかったの。これは、九尾が作った結界だから、私でも直感的に入り方がわかったの」
そして、加奈たちは、意を決して結界の中に入った。
周りは壁から天井まで岩に囲まれており、ここが洞窟の中であることがわかる。ただ、結界の中といだけあり、広い。
そこには那月のドッペルゲンガーと数体のカボソのドッペルゲンガー。そして、奥には人型の黒いもやもや存在、江洞窟の悪魔がいた。様子を見るに、那月のドッペルゲンガーが、江洞窟の悪魔をこの場所まで追い込んだのだろう。でも、やはり完全に封印に戻すには、離魂の術で魂を封印の中に戻すしかないのだろう。
那月のドッペルゲンガーの横に、加奈たちも駆け寄ると、江洞窟の悪魔が語り掛けてきた。
「おい。いいのか、会えなくて、妹に」
これは、近江屋に言っているのだろう。近江屋はすかさず答えた。
「会えなくていい。これ以上、みんなに迷惑はかけられない。それに、会えるというのは、嘘なんじゃないのか?」
「全てが嘘ではない。転生なぞ、するときはする。だが、前世の記憶をはっきりと持つことなど、滅多にない」
「……僕の離魂の術を利用して、封印から逃れたのか?」
「そうだ。お前の術は、この封印と相性がいい。魂だけなら、すり抜けられる」
「やはり僕を利用していたのか」
「渡したはずだ、対価は。力という、対価を」
「確かにそうだ。でも、お前は天川さんの体を乗っ取るつもりなんだろう。それは、見過ごせない」
「自由に、動きたいだけだ。窮屈なのだ、ここは」
「それはできない相談だ。封印に戻ってもらう」
「仕方あるまい」
そう、江洞窟の悪魔が告げた瞬間、加奈たちに何とも言えぬ悪寒が走った。江洞窟の悪魔が臨戦態勢を取ったのだ。それを受けて近江屋も身構えた。那月のドッペルゲンガーも九つの尾を広げ臨戦態勢を取った。そのときだった。
「待ってください!」
加奈がそう言って、数歩前にでた。それを即座に那月のドッペルゲンガーが制止しようとする。
「ごめんなさい、ちょっとだけ話がしたいんです」
そう答える加奈を、那月のドッペルゲンガーは少し見つめると、後ろに下がった。それを受けて、江洞窟の悪魔も臨戦態勢を解いた。
加奈は、更に江洞窟の悪魔に近づき、声をかけた。
「悪魔さん。私に取り憑いた後、何したいの?」
「自由に動く。そして、災厄をもたらす」
「えーと、災厄もたらすのは、やめてもらないかな?」
「存在意義、災厄をもたらすこと」
「でも、災厄をもたらすせいで、自由に動けないんだよ」
「なんだ。災厄をもたらさないなら、その体を差し出すと?」
「うん!」
「ならば、もらい受けよう」
と、江洞窟の悪魔は少しずつ加奈へとにじり寄る。それを見て、那月が加奈を後ろへ引っ張った。
「加奈! 身体をあげるって本気で言ってるの!」
「うん! 自由に動きたいって言ってたから」
「嘘かもしれないじゃん! 加奈の体を使って、悪さするかもしれないし」
「そのときは、皆に迷惑かけないように、私事封印してくれたらいいよ!」
「だったら、最初から封印すれば、加奈が危険に合うことはないって!」
那月はさらに加奈を強く引っ張り、自分の下へ引き寄せた。
「加奈はいつもそうだ。皆と友達になるためって言って、自分がどうなかなんて考えてない! 今日だって、外道神にわざわざ取り憑かれてたし……加奈の気持ちは否定しないけど、だけど、私を一人にしないでよ!」
那月の目は少し涙ぐんでいる。加奈は思わず黙った。そして、
「ごめんね、那月。自分のことしか考えてなかったかも」
「ううん、いいの。皆と友達になりたいって加奈の考えは素敵だと思ってる。でも、そのために自分をないがしろにしないでほしい」
「うん。わかった」
そう答えた時、那月のドッペルゲンガーは、江洞窟の悪魔の背後に回り拘束した。そして、近江屋の方を見た。それを受け近江屋は速やかに江洞窟の悪魔の正面に立った。
「ぐ、うぐ」
いくら、江洞窟の悪魔といえど、魂の一部だけでは全力を出せないようだ。近江屋はそれを剥離させるために、手を伸ばした。だが、見えない何かに阻まれ、江洞窟の悪魔まで手が届かなかった。
「なんだ、見えない壁が」
よく見れば、那月のドッペルゲンガーが江洞窟の悪魔を拘束している箇所にも少しの空間がある。江洞窟の悪魔が見えない障壁を張っているのかもしれない。
「悪あがきか」
「ぐぐぐ」
江洞窟の悪魔は粘っていた。場は膠着状態となっていた。そのとき、加奈はある違和感を抱えていた。なぜ、悪魔は災厄という存在意義に縛られているのか。それに加えて、なぜ弘法大師の封印が、離魂の術ですり抜けられたのか。もしかして、弘法大師は何かを意図して封印したんじゃないかと。
そこまで、考えた時、加奈の考えはまとまった。加奈は、江洞窟の悪魔に対して、声をかけた。
「悪魔さん。もしかしたら、封印は悪魔さんが更生するのを待つためのものなんじゃないかと、思うんです」
「なんだと」
「だって、魂の一部だけすり抜けられる封印て変ですよね。だとしたら、わざとそうしてたんじゃないかって」
「……」
「存在意義が災厄をもたらすことだって悪魔さんは言ってたけど、それは悪魔さんだって望んだわけじゃなくて、生まれつきだったと思うの。だから、その存在意義を捨てられたときはじめて、災厄とは無関係な魂として、自由になれるんじゃないかなって」
「……」
江洞窟の悪魔はしばらく黙った。すると次の瞬間、力がほとばしり、那月のドッペルゲンガーを拘束を解いて、脱出した。他の皆が再び身構えるなか。江洞窟の悪魔は何もすることなく奥へと消えていった。
「気配が消えた」
近江屋はそう口にした。
「そっか、悪魔さん。自分で封印に戻ったんだね」
どういう気持ちの変化があったかはわからない。だが、江洞窟の悪魔は、自ら封印へと戻り、再び一つとなったのだった。




