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8. ドッペルゲンガーの真相

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 今から約1か月前。近江屋は旅行で小豆島に来ていた。とある事件を解決した後、リフレッシュのために小豆島に来ていたのだ。


 近江屋は小豆島に着くなり、宿へと向かった。加奈たちが泊まっている宿と同じ宿だ。加奈たちと同じオリーブ牛を中心とした夕食を済ませ、また部屋に戻っていた。


 一人旅であるため、自分で何かしなければ何も起こらない。だが、近江屋は何もせず、ただぼーっと外を眺めていた。小豆島という場所がら、窓からは星空が見える。その日は朝日が昇るまで、外を眺め続けていた。


 次の日の朝。近江屋は小豆島の地図を開いて見ていた。折角来たのだから、どこかには行ってみるべきだ。そうでなければ、妹に土産話の一つもできない。もし、妹がこの場にいれば、近江屋が何もせず部屋で過ごしているのを見れば怒るだろうか。いや、無理矢理にでも近江屋のことを引っ張って連れ出したのかもしれない。


 現実的でないことを考えてしまったと、苦笑いを浮かべながら、どこか適当な観光スポットを探してみる。そのとき、ふと西側にある観光スポットに目が止まった。江洞窟と呼ばれる場所で、弁財天が祀らられている。また、パワースポットでもあるそうだ。


 場所的に混んでいなさそうだし、パワースポットなら何か良いことがあるかもしれないと考えた。そして、近江屋は立ち上がり荷物をまとめると宿を出て、江洞窟へと向かった。


 海外線に沿って歩いていくと、赤い柱で建てられた、小さな建物が見えてきた。剥き出しになった岩壁に沿って、それは建てられている。


 建物の中に入ると、洞窟の中へと降りていく階段がある。そこを下っていくと、頭をぶつけそうな圧迫感のある岩の天井の下、ご本尊の弁財天が祀られている。

 

 事前情報無しにこの場所へときたが、どうやら首から上の病気にご利益があるそうだ。


 自分は病気などしていない。弁財天が祀られているパワースポットだといのだから、力を分けて貰えるかと思ったのに、と近江屋は弁財天に背を向けて立ち去ろうした。


 その時だった。微かに声が聞こえた。


「お前の術を島全体にかけろ。そうすれば転生した妹と会える」


「誰だ」


 近江屋は振り返るも、周りには誰もいない。だが、声は聞こえ続けた。


「失望するな。力は分け与えよう。さすれば望みは叶う」


 まさか、弁財天が? いや、何かの悪戯か。でも、自分の考えが見透かされている。


 近江屋は意を決して、尋ねた。


「……僕の術は、二重人格や、凶悪な内面などしか剥離できない。転生した妹と会えるなんて、信じられない」


「その術は、前世の記憶、つまり前世の人格にも作用する。島全体にかけろ」


「……妹が転生しているというのか」


「ここ40日ほどの間にする、この島に。産まれてすぐは、前世の記憶が、強く残る」


「本当なのか!」


「本当だ。まずは力を分けよう」


 その言葉とともに、何やら力が湧いてきたように感じられる。試しに離魂の術を周辺全体を対象にかけてみると、すんなりとかけることができた。それどころか、想像していたよりも広範囲にそれは広がった。


「本当に、できた……これなら、島全体に最大出力でもかけられる。だけど、そんなことをしたら、ドッペルゲンガーが溢れかえってしまう」


「弱めたらいい。強いものだ、前世の記憶は」


 近江屋の気持ちは、密かに高揚していた。また、妹と会えるかもしれない。また、話せるかもしれない、と。


 本来、こういった力は私利私欲のために使うべきではない。だが、いまそれのために力が与えられた。そこまで思って、ふと気になった。


「対価は、何なんだ」


「いらん。ただ、術をかけ続けろ。会えるまでだ。破ったときは、願いは叶わないと思え」


 とその声は言い残した。それから、再びその声が聞こえてくることはなかった。


 近江屋は約束通り、離魂の術を少し弱めたものを島全体にかけた。


 そして、近江屋はまずは宿に戻り、泊まる日程を40日に延ばした。それから彼の日課は決まった。術を島全体にかけ続ているため、体力は徐々に亡くなっていく。そのため、昼から夕方はなるべく休む。そして、夜から明け方にかけて、ドッペルゲンガー探しのために、小豆島を歩いて回る。


 ドッペルゲンガーは基本夜の方が動きやすい。また、夜は人通りがほぼないため、ドッペルゲンガーを見つけやすい。また、近づけばその人物がドッペルゲンガーかどうかはわかる。これは、自分で術をかけた性質上、自分の術の一部がドッペルゲンガーの体に残るからだ。


 近江屋は連日、夜中は小豆島を歩いて回った。中には、力を弱めたにもかかわらず、普段通りのドッペルゲンガーが現れている事例もあった。


 たまたま小豆島を経由して逃亡していた凶悪犯や、いじめられて心が追い詰められていた子供など。そういったドッペルゲンガーは危険なため、遭遇次第、すぐにドッペルゲンガー本体に対し術を解き、消滅させる。


 このような生活を、加奈たちと出会うまでの1か月ほどの間ずっと、続けてきた。しかし、出会うドッペルゲンガーは危険なドッペルゲンガーばかり。転生した妹は愚か、前世の人格が分離したと思しきドッペルゲンガーにさえ遭遇できなかった。近江屋は、前世の人格も分離できるというのは嘘のではないかと疑うようになった。


 そんなとき、ドッペルゲンガーを調べている加奈たちと出会った。自分が原因であるものの、約束もあるため術を解くこともできない。それ故、加奈たちのことは様子を見ることにしていた。


 しかし、事態は急変した。出雲那月が気を失い、彼女のドッペルゲンガーが現れた。ましてや、そのドッペルゲンガーは九尾の力を持っている。


 これは、もう近江屋ひとりの手で終える問題ではなかった。こうなった以上、安全のためには島全体になけている術を一度解くしかない。しかし、そうすれば江洞窟の声との約束を破ることになり、もう妹と会えなくなるかもしれない。


 那月を宿に運び寝かせた後、その横で近江屋は葛藤し続けていた。だがそのとき、うなされている那月の顔を見て、思い出した。


 那月は言っていた。何があっても、加奈の安全を優先してほしいと。そして、近江屋はそれを約束した。もし、ここで術を解かなければ、彼女との約束を破ることになる。


 そしてそんなことをしたら、妹は怒るだろうと思った。もし、妹が生きて目の前にいたら、葛藤していることにさえ怒って、ビンタを喰らわしてきたかもしれない。いや、そうしてきただろう。


「そうだよな……本来、この力は私利私欲のために使うべきではなかったんだ。お前もそう思うよな」


 そう口にすると、近江屋は深く息を吐いた。


「出雲さん、すまなかった。君との約束は守る」


 と、近江屋は島全体にかけた離魂の術を解いた。


 たが、既に現れたドッペルゲンガーは近江屋が直接取り除かなければならない。そのため、那月のドッペルゲンガーを探したが見つからない。


 しかも、カボソのドッペルゲンガーまで大量に現れ始めたのだ。全ては近江屋のコントロールを外れてしまったのだった。


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 と、今に至るまでの経緯を近江屋は全て話した。


「こういうわけだ。すまない、僕のせいなんだ」


 と、近江屋は加奈たちに頭を下げた。それに対して、那月は静かに口を開いた。


「いいよ。私だって同じ立場なら、ギリギリまでそうしてたかもしれない。だから、約束守ってくれたことは、感謝してる」


「すまない、出雲さん」


 そう謝る近江屋に対し、那月は優しい微笑を浮かべて返した。そのとき、加奈が尋ねた。


「えーっと、結局、誰にやらされてたんですか?」


「誰って……」


 近江屋は言葉に詰まった。確かに、弁財天が祀られており、パワースポットである江洞窟で聞いた声の主だろう。だか、名前は聞いていなかった。


「……弁財天じゃないのか?」


「それにしては、なんか恣意的じゃない?」


 那月の言う通り、出会えるまで術をかけ続けろ、会えるまでは最大40日くらいなど、色々何か恣意的だ。


 そのとき、加奈が大きな声を上げた。


「あーっ! もしかして、悪魔さんじゃ!」


「え、悪魔さん?」


「近江屋さん、江洞窟についてちゃんと調べてないんですか?」


「ああ、ふらっと行ったから……」


 それを聞くと、加奈は小豆島観光パンフレットの江洞窟の欄を近江屋に見せた。


「ほら、ここですよ!」


 そこにはこう書かれていた。


 江洞窟は、かつてこの地を訪れた弘法大師が、悪魔を洞窟に封じて、弁財天を奉った場所である。


 それを見て、那月も驚きの声を上げた。


「え、じゃあ、近江屋さんはこの悪魔に唆されたってこと?」


 それを聞いて、近江屋も口を開いた。


「そうか、そうかもしれない。でも、狙いは何なんだろう。僕に力まで与えて、何かしら目的があるはずだ」


 他の者も、その目的を考えるが直ぐには思いつかない。それに対して、加奈が提案した。


「じゃあ、もう一度江洞窟に行って、お話してきたらいいと思います! 何かわかるかもしれません!」


「確かにそうだね。出雲さんのドッペルゲンガーも放っては置けないけど、先に元凶を調べるべきだね」


「はい! だから、近江屋さんと、那月で行ってきてください。私は……ちょっと休みます」


 と加奈は、突然横になった。


「え、加奈どうしたの? そういえば顔がちょっと赤い……」


 と、那月が横になる加奈のおでこに手を触れた。加奈のおでこは、入れ立ての湯たんぽの如く熱を持っていた。


「あつっ! すごい熱、大丈夫なの?」


「えへへ、ちょっと無理しすぎちゃって。大丈夫、もう少ししたら皆んなとお話し終えるから」


「皆んな?」


 那月は一緒疑問に思うも、ハッとして、直ぐに狐の窓越しに加奈を見つめた。すると、大量の人型の何が加奈に取り憑いていた。



「え、何これ。めちゃくちゃ取り憑いてるけど……」


外道神(げどうがみ)さん達だよ。皆んな寂しいんだって。ちょっと同時に憑かれすぎて、熱がでちゃったけど」


「まあ、加奈がそう言うなら大丈夫か」


 と、那月が言うとカボ太郎がツッコミを入れた。


「大丈夫じゃねぇだろ!」


「加奈は大丈夫。うちの加奈を舐めないでほしいね」


「やっぱ、あんたら変だよ」


 と、カボ太郎はため息をつく。そこに、近江屋が疑問を呈する。


「僕と出雲さんで江洞窟に行くのは良いとして、カボ太郎だけで、ドッペルゲンガーの襲撃から守れるのかい?」


 それに対しては、加奈が答えた。


「大丈夫だよ。那月のドッペルゲンガーは、那月の前世なんでしょう。だったら、那月と一緒で優しい九尾さんのはずだよ」


 と、加奈は自信満々に笑顔で答えた。


「確証はあるのかい?」


「ううん、実際に私は襲われてないの。監視されてるだけだから、逆に守ってくれてたりして!」


 近江屋は困った様子を見せ、那月へと視線を移す。それを見て、那月は頷いた。


「加奈なら大丈夫だよ。私たちは急いで、江洞窟に向おう」


「君がそういうなら、僕もそうするよ。カボ太郎、天川さんのことは頼んだよ」


「任せとけ!」


 そうして、加奈たちは二手に分かれた。那月と近江屋は、元凶を探るため高洞窟へ。加奈は、外道神さんとのお話で、カボ太郎は、その護衛だ。

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