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7. 那月の秘密

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 これは、那月の夢の中での話である。


 視点は一人称、那月は着物を着ている。自分の姿をよく見る間もなく、那月は歩いていた。場所は、木製の廊下。壁がなく屋根だけがある。こんな廊下は大河ドラマとかでよく見た記憶がある。もちろん、現実でそんな場所は余りない。周りを見渡すと、砂利を敷き詰めた庭や、広々とした建物が見える。木の柱に、黒いやねが付いているだけ。明らかに現代ではない。これは夢なのだろうかと思いながらも、那月は歩みを進めた。


 たどり着いたのは、畳が一面に広がるとても広い部屋。周りは、同じく木製の廊下で囲まれている。確かこんな構造の建物があったなぁ、と那月は思った。確か寝殿造り。学校の歴史の授業で習った記憶がある。確か、寝殿造りの単語が出てきたのは平安時代だ。藤原道長や紫式部、清少納言が活躍していたころだろう。周りの雰囲気的に源平合戦の頃ではなさそうだ。しかい、平安時代の夢を見るなんて、最近何か影響されるものだもあったかなぁと那月は思い返した。陰陽師である安倍晴明に関する逸話を少し調べたくらいだろうか。そうといっても、妖怪に関連するものとして調べていただけで、大きな影響は受けることはないだろう。


 ただ広い部屋で特にすることもない。那月はただ大人しく畳に座っていた。暇だなぁ~、と思っていると、外から誰かが廊下を走ってくる音が聞こえる。そして、その音がすぐそばに近づいたと、少女が部屋に勢いよく入っきた。その少女は着物を着ているのに、元気に動き回り活発な様子だ。その少女は、部屋に入るなり、那月の膝の上に座った。


「えへへ、一緒に遊ぼ!」


 少女は笑顔で那月に語り掛ける。そのとき、那月はどこか幸せな気分に包まれるのを感じた。もしかしたら、普段からこの少女とは良く遊んでいるのだろうか。


「何して遊びたい?」


 那月は、優しい声でそう聞き返していた。




 あれから、那月はその少女に付き従い、日夜生活を共にしていた。恐らく、那月はこの夢の中において、少女の世話役かなにかなのだろう。


 そしてまた別の日。那月は少女と共に、住居からは少し離れた場所にある草原に出かけていた。最初は、草原を走ったりして遊んでいた。しかし、少しして少女は茂みの方にいって屈むと、そのままじっとしていた。どうしたのだろうと那月が少女の下へ行ってみると、少女の前には怪我をした狐の姿があった。そして、那月はその狐を一目見てわかった。これは、ただの狐ではない。妖孤であると。那月は少女に、それが妖孤であることを伝えた。しかし、少女は気にすることなく、妖孤の手当をはじめた。


「ねえ、貴方は今何をしているかわかっているの?」


「いま、手当てしてあげてるの!」


 と、少女は元気よく答えた。


 那月は少しため息をついた。


「はぁ、妖怪と関わったら、貴方が迫害されるんですよ。下手したら殺されるかも」


 那月がそう言うと、少女は首を振った。


「でも、放っておけないよ。怪我したら皆痛いんだから」


 そう言って、黙々と手当てを続けている。


「貴方は優しいんだね」


 那月は、微笑んでそう声をかけた。


 その少女は、無事妖狐の手当を終えると、山の方へと逃がしてやった。




 それから、少女は何かと妖怪と関わることが増えていった。様々な妖怪たちと出会い、その妖怪たち全員と友達になっていったのだった。住居では那月しか遊び相手がいない少女であったが、一緒に遊べる友達が増えたこともあり、より一層笑顔を見せる事が多くなった。


 そして、また別の日。那月と少女は山奥にいた。少女は、山奥で様々な妖怪たちと戯れている。妖怪といえども、みな様々で、気性の荒いものもいるのだが、少女は、自然とみんなとうちとけられているようだ。


「妖怪さんたちと一緒に遊べてうれしい!」


 少女は心から楽しそうに、妖怪とかけっこをしたり、お話したりしている。那月はそれを、少し離れたところから眺めていた。


 そして、那月は少女の住む人間の世界のことをより軽蔑するようになっていた。少女の住む世界は、権力闘争が激しく、人を陥れようとしか考えていない奴らばかりだ。その点、妖怪たちは皆純粋なのだ。少女にとって、妖怪たちとの方が気が合うのも自然なことかもしれないと那月は考えた。


 日も傾いてきて、そろそろ家に戻る時間になった。


「そろそろ帰るよ」


 那月は、少女にそう呼びかけた。


「えー、残念! また遊びに来るね!」


 と、少女は妖怪たちに手を振り、那月と一緒に山を後にした。帰り道のさなか、少女はこんなことを口にした。


「はぁー、妖怪さんたちとずっといられたらいいのにな」


「他の人とも仲良くしないと、生きていけないよ?」


「うん、わかってるの。でも皆、人を陥れて自分が上に行くことしか考えてないの。はぁ……妖怪さんも含めて、みんなで仲良くできたらいいのになー!」


 こんな少女でも、やはりそう思っている。いや、周りの人間どもがそう思わせているんだ。那月は、人間に対して呆れていた。だけど、それでもこの少女はみんなで仲良くしたいと言っている。こんなに純粋な子は他にはいないだろう。


「ふふ、そうだね」


 那月は笑みを浮かべて、そう答えた。




 人間の世界の権力者は日に日に過激なものとなっていた。政敵を呪い殺そうといしたり、罠にはめて失脚させたりなど。那月からすれば呆れたものであったが、少女もいつ巻き込まれてもおかしくない状況であった。たまに、那月は少女にこんな場所からは抜け出して、妖怪と一緒に生活したいと思わないのかと尋ねていた。だけどその度に、少女は他の人に迷惑がかかってしまうからできない、と答えていた。


 そして、また別の日。ついに、少女も権力闘争に巻き込まれるときが来てしまった。とある権力者が妖怪を利用して政敵の抹殺を試みたようだった。それは失敗に終わったのだが、それの濡れ衣をこのまだ幼い少女にきせたのだ。言い逃れも許されず、死刑は免れない。このような状況の中、少女は捕らえられる寸前、那月とともに逃げ出した。少女は多くの兵に追われながらも、走り続け、ひとまず納屋へと身を隠した。少女は、床に寝転がるとため息をついた。


「はぁ、最後に妖怪さんたちと遊びたかったなぁ」


 まだ、こんな小さな女の子が口にしていい言葉なのだろうか。いや、そんなはずはない。そうであってはいけない。


「……一緒に逃げよう。私なら貴方一人逃がすくらい簡単にできる」


「うふふ、ありがとう九尾さん。でも、もういいの」


 少女は那月のにそう言って微笑んだ。やはり、この少女に自分の正体はばれていたのだろう。だだ、そんなことはどうでもいい。自分が九尾だったら、尚更逃げる力を持っていることくらいわかるはずだ。


「……なんで」


「私がこれ以上逃げたら、他の人に迷惑がかかっちゃうの。ここまで来たのも、貴方に私の最期を看取って欲しかったから」


 最期のときまで、周りを考える少女。那月はそれに苛立ちを覚えた。なぜ、この少女がこんな腐った人間どものために死ななければならないのか。那月は必死に訴えた。


「他の奴らなんて関係ないじゃん! さんざん、貴方のことを迫害してきたのに。いっそのこと、私が全員殺してでも……」


「駄目! 私のことを思ってくれるのは嬉しい……だけど、それでも、みんなに傷ついて欲しくないの」


「だけど......」


 少女は、大の字になって伸びた。


「はー、私も妖怪に生まれてたらなー。でも、人間だったからこそ、貴方と今日まで一緒に過ごせたのかな……」


 そして、少女は毒薬を取り出すと、一気にそれを飲み込んだ。


「な! 今すぐ吐き出して!」


 と、那月が吐かせようとするも、少女は首を横に振った。


「今までありがとう、九尾さん。もし来世があるんだったら、そのときはもっと妖怪さんと、遊びたいな……ううん、また貴方と一緒になれたらいいな」


 少女はそう言い残すと、目を瞑り、那月の腕の中で息を引き取った。


 そのとき、那月にはどうしようもない溢れんばかりの、悲しみと憎悪の感情に満たされていた。自分は九尾で、人間を利用するために化けていた。だけど、そこでこの少女と出会ってしまった。だからこそ、初めてできた友達を失って悲しい。そして、そんな友達を死に追いやった人間が憎い。那月は、改めて少女の顔を見て呟いた。


「貴方はもういないんだ……だったら、せめて......」




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 ここまで夢を見たとき、那月は意識を取り戻したのだった。那月の夢の話を、加奈たちは真剣に聞いていた。


「それで、ここで夢は終わったの。単なる夢にしてはリアルだった……」


「悲しい夢だね……」


 加奈は夢の話を聞いて、悲しい気分になった。那月がうなされていたのもわかる。そして、妖怪の友達がたくさんいる加奈には、その少女の気持ちが良く分かった。


「この夢なんだけど、私のドッペルゲンガーが九尾だったことと、関係するのかな」


 確かに夢の中では、那月は九尾だったのだ。人の姿に化け、最期まで少女に付き従った九尾。そして、那月のドッペルゲンガーも九尾。果たして偶然なのか。加奈が考えていると、近江屋が口を開いた。


「出雲さん。もしかしたらそれは、前世の記憶なんじゃないか?」


「前世?」


「そう。何か思い当たることはない?」


「…….ある」


 那月は自分の過去を振り返った。那月には生まれつき不思議な力があった。呪文を唱えることなく、狐の窓で妖怪の正体を見破れるのもそうだ。それに、普通の人間や妖怪に対してであれば、呪いを使って撃退することもできた。また狐に対しては、触れるだけど意思疎通を取ることができた。なぜ自分にそんな力があるのか、と那月が疑問い思い続けてきた。自分が本当に人間なのかすら、疑うこともあった。しかし、近江屋の発言を受けて、妙に納得できる自分がいた。もし、前世というものが存在し、自分が九尾だったのならば、そのような不思議な力を持っていても不思議ではない、


「出雲さん、君に迷惑をかけたのは多分僕のせいだ」


「さっき聞いた話だと、ドッペルゲンガーを出現させて事件の調査とかしてたんだよね。でも、小豆島全体でこんな大規模に行うのは普通は無理だと思うんだけど」


 その発言に対し、近江屋は静かに頷いた。


「そのとおりだよ。これは、僕一人の力じゃない。協力してもらっていた」


「協力? 他にもいるの?」


「……一度全部話すよ。僕が小豆島に来てから何をしていたか」


 と、近江屋は小豆島に来てからの出来事を語り出した。


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