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6. ドッペルゲンガーだらけ!

 次の日の朝、加奈は目を覚ました起き上がった。横にいる那月はまだ眠ったままだ。そして、入り口の方では近江屋が座っていた。近江屋は加奈が起きたことに気が付くと、笑顔で声を変えた。


「おはよう。眠れた?」


「はい! おかげさまで! あの……那月はずっとあの状態のままですか」


「うん。ここまで起きないとなると……体というよりは精神的なにかか……」


 近江屋は首をかしげて、困ったような様子を見せている。ちなみにカボ太郎は、まだ部屋の端っこで眠っている。


「近江屋さん。私、いちど迷路のまちへ行ってみようと思います」


「たしか、そこが君が襲われかけた場所だったね」


「はい。もしまた那月の姿をした九尾さんに会えたら、何かわかるかもしれませんから!」


「夜じゃないから危険ではないと思うけど、くれぐれも気を付けて」


「はい!」


 加奈はそう返事をすると、畳に寝転がるカボ太郎の体をゆすった。


「起きて、カボ太郎!」


「んあ?」


「お出かけだよ!」


 と、寝ぼけた様子で目をこする少年姿のカボ太郎を手を引っ張り、宿を出た。



 加奈たちは再び迷路のまちへやってきた。午前中ではあるが、人通りは多く賑やかだ。加奈は、まずスイーツ屋さんへと立ち寄った。那月が目を覚ましたときに食べられそうなものを買っておくためだ。そうして、プリンをいくつか買い店を出ると、再びまちの中を歩き始めた。


 しばらくして、加奈はカボ太郎とともにベンチに座った。


「やっぱり昼はいないのかな」


「どうだろな」


「カボ太郎。そういえば、なんで狐の面をつけたカボソさんが自分のドッペルゲンガーだってわかったの?」


「俺のことは俺が一番わかるからな! それに、他のやつが化けてても、俺にはわかる」


「……やっぱり、九尾も那月のドッペルゲンガーなんじゃないかな」


「なんでだ?」


「狐の面。何か共通してると思うの。だとしたら、あれも那月のドッペルゲンガーだって考えるしかないと思うの」


「はぁ~。じゃあ、あいつは九尾なのか?」


「どうんだろう、那月にしかわからないと思う。だけど、那月はあんなに恐ろしくはないと思うの」


「俺は怖いと思うけどな」


 そんな会話をしているときだった。小さな子供がこちらに走ってきた。なんだろう? と思っていると、カボ太郎に何やら小さな紙を渡した。そして、またすぐに走り去っていった。


「何もらったの?」


 カボ太郎は紙を読み終えると、目を見開いて驚きの声をあげた。


「なんだってー!」


「え! どうしたの?」


「他の奴らのドッペルゲンガーも出てるらしい。それもたくさんだ」


「つまり、カボソさんたちのドッペルゲンガーってこと?」


「そうらしい。しかも、狐の面を被ってるってよ。そんな奴らが10体は超えてるって」


 カボソのドッペルゲンガー。とうとう妖怪にまでドッペルゲンガーが現れる時代になったのか。それよりも、この短期間に同時に大量にカボソのドッペルゲンガーが出現するなんておかしい。もし、このペースで増えたら、普通に暮らしている人たちの日常生活にも支障がではじめるのでは。


 加奈が、不安に思っていたたときだ。どこかから視線を感じた。あたりを見回しても、特にこちらを見ている者はいない。そう思ったが、あるものが加奈の目に入った。遠くの方の物陰。人が入れないような、地面との隙間の暗がり。そこに、はっきりとこちらを見つめる狐の面が見えた。


「うわ!」


 加奈は思わずびっくりして、しりもちをついた。


「どした?」


「あ、あそこに狐の面が」


 と、見えた方を指さすも既に姿は見えない。


「見間違いじゃないか?」


「ううん。絶対にいたの!」


 しかし、あたりを見渡しても狐の面は見えない。だが、同様の視線はまだ加奈の方に向けられているように感じた。


「もしかして私、監視されてるのかな? だって、夜も宿の近くに出たんでしょ。でも襲ってはこなかったし」


「わかんねぇな。チッ、あいつめ、ドッペルゲンガーはもう増えないとか言ってたくせに」


「え? どういうこと?」


「蓮だよ蓮。あいつがそう言ってたんだ。もう出てるやつは直接やりあうしかないとか言ってたが」


「……やっぱり、近江屋さんも詳しいんだね。でも、どういうことなんだろう?」


「さぁな。とりあえず一旦帰ろうぜ。狐の面を被った俺らのドッペルゲンガーが増えてることがわかっただけでも、十分な成果だろ」


「そうだよね。那月もそろそろ目覚めるかもだよね!」


 加奈とカボ太郎は再び宿にへと向かった。



 

 宿へ戻る道中も、加奈は例の視線を感じ続けていた。それどころか、ちょくちょく狐の面がこちらを遠巻きに見ているのを目撃した。やはり、監視され続けているのだろうか。


 加奈とカボ太郎は部屋に戻った。那月はまだ眠ったままだ。近江屋は机の上にノートパソコンを置き、何やら調べものをしている様子だった。


「戻りました!」


「おかえり。どうだった?」


「ええと……」


 加奈は、狐の面を被ったカボソたちのドッペルゲンガーが大量に発生していること、そして狐の面を被ったものたちに遠巻きに監視され続けていることを伝えた。


「ということなんです。何が起こってるんでしょう?」


「何がどうなっている……」


 それを聞いた近江屋は黙り込んだ。


「おい、どういうことだよ! ドッペルゲンガーはもう増えないんじゃんかったのかよ」


 と、カボ太郎が近江屋に詰める。


「うん。これ以上、ドッペルゲンガーは増えないようにしたはずなんだ。それより不可解なのは、ドッペルゲンガーの方だ。なぜ昼にも活発に動くんだ。それに、意思をもったかのような行動ばかりとる」


 いつも、笑ってどこか余裕のある雰囲気の近江屋だが、いまはどこか余裕がない様子だ。


「近江屋さん! 近江屋さんは、どこまでわかっているんですか?」


「そうだね。この緊急事態だ、まとめて話すよ」


 と、近江屋は語り出した。


「出雲さんにはもう話したんだけど、実は僕もドッペルゲンガーについて追っている。天川さんから話を聞く前に、危険なドッペルゲンガーとその生態については把握していた。だけど、正確に言うなら、僕はドッペルゲンガーに慣れているんだ」


「慣れてる?」


「うん。僕が探偵と呼ばれているって話をしたよね。あれは、いくつかの事件を解決したからなんだけど……その方法にドッペルゲンガーを使ってる」


「ええ!」


 近江屋の突拍子もない発言に、加奈は目を見開いて驚いた。


「黙っててすまなかったね。僕は対象の人の魂の一部を剥離させられるんだ。離魂術ってやつかな。だけど、僕には力はそんなにないからね、できる対象は限られているんだ。心に大きな二面性を抱えているものが対象になる。二重人格とかだと、やりやすい。もう少し拡大すれば、凶悪な心を内面に抱えているとかだね」


「離魂術って、あんたそんなのどうやってにつけたんだよ」


 と、カボ太郎は訝しげにそう口にした。


「生きていく上で必要だっただけだよ。そこは気にしないでくれ」


「あの。魂を剝離させるとどうなるんですか?」


「そう。魂の一部、つまりその人物に秘められた二面性を剝離させると、その一面をもったドッペルゲンガーが現れるんだ。そうしたら、後はそのドッペルゲンガーから情報を引き出せば、事件は解決できるってわけなんだ。もちろん、ドッペルゲンガーは僕が処理して、もとも持ち主に帰してる」


 色々な妖怪とあったりする性質上、加奈から見て近江屋の言っているところに別におかしな点はなかった。そういうこともでるんだなぁ、ぐらいの感覚だ。だが、そこで疑問に思った。それと今回のドッペルゲンガー現象はどれだけ関係があるのだろうか。


「近江屋さん。ドッペルゲンガーについてはわかったんですけど、小豆島のドッペルゲンガーも近江屋の離魂術によるものなんですか?」


「……半分半分といったところかな。僕は危険なドッペルゲンガーを処理するために、夜中に出歩いてたんだ。だけど、出雲さんに例は初めて見た。ドッペルゲンガーがそんなに力を持つなんてことなかったからね」


「あの。離魂術って絶対大変ですよね。それなのに小豆島では無差別に使ったんですか?」


「……無差別に使えるほど僕には力はない。それに、まだわかないこともあって」


 と話しているときだった。横で眠っていた、那月が突然、起き上がった。


「あれ……ここは」


 那月は軽く息切れしているようだった。


「那月! 大丈夫なの?」


 加奈は直ぐに那月の傍に駆け寄って、体を支えた。


「加奈……どれくらい気を失ってたの?」


「半日だよ」


「そっか……」


 那月の表情に、まだどこか疲労が残っているように見えた。


「あ、プリン買ってきたんだよ! とりあえず食べて!」


 と、加奈は袋から、迷路のまちで買ってきたプリンを取り出した。そして、蓋を開けるスプーンで一口サイズをすくいあげると、那月の口元に差し出した。


「ほら、口開けて」


 那月が口を開けると、加奈はスプーンを那月の口にさした。そして、那月がスプーンを加えたの確認すると、引き抜いた。


「どう? 美味しい?」


「うん、美味しい。ありがとう、加奈」


 起きたばかりの那月は、とりあえずプリンを完食した。


「どう、落ち着いた?」


「うん、もう大丈夫。心配かけたね」


「ううん、良かった」


 加奈は肩の力が抜けたかのように、ホッとした表情を見せた。何はともあれ、那月が無事に目を覚まして良かった。


「加奈。私が気を失ってる間は何もなかった? 危ない目にあってない?」


「ええと、それが……」


 加奈は、那月が気を失った後、九尾の那月のドッペルゲンガーが現れたこと、さらに妖怪のドッペルゲンガーが大量発生し、監視されていること、近江屋のことを告げた。


 それを聞いた那月の表情は固まった。


「私の……ドッペルゲンガーが……九尾?」


「そうだったの。九つの尾が見えたし……」


 加奈が、そう言ったときだった。那月の両目から涙が零れた。


「そっか……私のせいで加奈が危険な目に」


「え、那月! 那月のせいじゃないよ! だから、落ち着いて」


「……ごめん。ちょっと、取り乱しちゃって」


 そんな様子の中、カボ太郎が尋ねた。


「あんたって、九尾なのか?」


「違う! 私は加奈と一緒で普通の人間……だと、思ってた」


 那月の声が沈んでいく。加奈も詳しく把握しているわけではないが、那月には不思議な力があり、それのせいで他の人に避けられていた過去がある。那月はその不思議な力に思い悩んでいたのだろうか。だが、今回那月のドッペルゲンガーが九尾として現れ、加奈は危険な目にあいかけた。その事実に那月は相当ショックを受けているのだろう。加奈が何か声をかけようと思っていたとき、近江屋が口を開いた。


「出雲さん。気を失っている間、随分うなされていたみたいだけど……何か夢でも見てたのかい?」


「うん。見てた」


「良かったら聞かせて欲しい。もしかした、何か関係あるかもしれない」


「……うん。夢にしては、どこかはっきりとした感じで。まるで誰かの記憶をそのまま覗いているような感じだった」


 と、那月は夢の内容を語り始めた。





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