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2. 加奈のドッペルゲンガーが現れた!

 次の日の朝。二人は身支度を整え、バイキング形式の朝食が用意されたレストランへと向かった。


 和風の料理を中心として多くの料理が並んでいる。


「加奈って、朝はご飯派?パン派?」


「私はご飯派。那月もご飯派でしょ?」


「その通り。和食の方が何となく落ち着くし」


「私も。じゃ、取りに行こ!」


 二人はあらかた料理を皿に乗せると、席に着いた。那月は少しずつ綺麗に盛り付けているのに対し、加奈は色々と山盛りにしていた。


「良くそんな朝から食べられるよね」


「食べないと、元気でないから!」


 そう言って、加奈は次々と料理を口へと運んでいった。


「はぁ〜、お腹いっぱい。那月はそれで足りるの?」


「足りるよ? これでもいつもの倍は食べてる」


「そっかー、那月はスタイル良いもんね。そうだ、売店でおやつでも買っていかない?」


「そうだね、カボソ探ししてたら、お腹も空くだろうから」


 二人はレストランを後にし、売店へと移動した。売店はフロントに併設されている。売り物を見ていると、フロントのソファ席の方の男女の会話が加奈の耳に入ってきた。


「近江屋さん、あの事件はどうやって解決したんですか? 警察も得られなかった凶器の隠し場所まで言い当てるなんて」


 そう尋ねているのは、見るからに記者っぽい姿をしている、ピンクベストの女性だ。


 そして、それに対応しているのは、爽やかな青年だ。グレーのズボンにジャケット、白いシャツに、首にかけたアクセサリーと、全体的にはカジュアルフォーマルな感じ。髪は、黒髪のツーブロックと爽やかな印象。見た感じ、加奈達よりも少し歳上に見える。


 その近江屋と呼ばれる青年は、笑顔で答えた。


「いや、単に丁寧な情報収集を積み重ねただけですよ。特別なことは何も」


「いやいや。江屋さんの探偵としての業績、私は全部チェックしてますからね!」


「探偵だなんておこがましい、ただの学生ですよ」


 少しして、インタビューは終わったようで、ピンクベストの女性はそそくさと去って行った。


 加奈は近江屋と呼ばれる青年の方を見ていた。何か気になるなー、と思っていたそのとき。青年は、加奈の方を見ると、立ち上がり、駆け寄ってきた。


「お嬢さん、少し良いかな?」


「へっ? 私ですか!」


 突然のことに加奈が戸惑っていると、すぐさま那月が間に割って入った。そして、


「何か用でも?」


 と、青年の方を睨みつけた。


「ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだよ。ただ、そこのお嬢さんを夜中に見かけてね。それについて聞きたくて」


 と、青年は加奈の方を指した。


「えーっとー……夜中って、どういうこなんですか?」


「昨日の夜、というより深夜かな。近くを散歩しているときに、君を見かけたんだ」


「ええ! 見間違いなんじゃないですか! 私その時間は、部屋で那月と寝てましたよ」


「いや、双子でもいない限りは、間違いなく君だったよ。間近で見たからね。服装から顔まで、君そのものだ」


「それって……もしかして! 私のドッペルゲンガーが現れたってこと!」


 加奈は目を輝かせ、興奮した様子で声を上げた。


「ドッペルゲンガー……状況は丁度一致してるね。その前に純粋な疑問なんだけど、何で君はそんなに嬉しそうなんだい? 普通、怖がると思うんだけど」


「えっ! そうなんですか?」


「いやぁ……普通はそうだと思うけど」


 青年は困った表情を浮かべ、那月の方へと視線をやった。それに気づいた那月は、苦笑いを浮かべて答えた。


「加奈にとっては普通ってだけだよ」


「あぁ、なるほど」


 青年は、加奈の方へと向き直った。そして、手で口を覆い少し思案した様子を見せると、問いかけた。


「もしかして、こういう現象に慣れてるのかい?」


「そうなの! ドッペルゲンガーは初めてだけど」


「……まあ、さっきの話の続きなんだけど。そのもう一人の君に声をかけてみたんだ」


「えっ! どうでしたか?」


「何も答えてくれなかった。でも、何だか楽しそうだったよ。ニコニコしながらどこかへ走って行っちゃった」


 それを聞いて、加奈はがっくしお肩を落としため息をついた。


「はぁ……ドッペルゲンガーって、もっとミステリアスな感じだと思ってたのに。それじゃあ、いつもの能天気な私そのまんまだよ〜」


 その様子を見た青年は、笑って慰めた。


「はは、残念がることなんてない。むしろ良いことだと思うよ。良く考えてみて、もう一人の自分が恐ろしくておっかない奴だとたら嫌だろう?」


「あぁ〜、なるほどぉ!


 そんな和気藹々と話す加奈と青年の横で、那月は疑問に思っていた。何故、青年はドッペルゲンガーがいる前提で、そのまま加奈と話してくれているのだろう。単に優しいだけなのか。もしかして、加奈に話を合わせて、加奈に取り入ろうとしてる? いや、それよりもあの青年はドッペルゲンガーについて何か知っている?


 那月は青年に質問をした。


「失礼ですけど、そもそも貴方は誰なんですか? どういった目的でここに?」


「ん? ああ、自己紹介がまだだったね。僕は近江屋蓮(おうみやれん)。学生で、今は大学1回生。小豆島には旅行で来ただけだよ。二人のことは、何で呼べば良いかな?」


「あ、私は天川加奈(あまかわかな)だよ」


「私は出雲那月(いずもなつき)。それで、近江屋さん。加奈とは話があってそうだったけど、貴方もドッペルゲンガーみたいな現象には慣れてるってことで良いの?」


 質問攻めをする那月からは、明らかに貴方のことを警戒していますよ、という雰囲気が溢れ出ている。加奈はそれを見て、自分のためにしてくれてるのだろうと有難く思いながらも、近江屋を怒らせてしまわないかどうかヒヤヒヤしていた。


 そんな心配をよそに、近江屋は笑って答えた。


「いやいや。僕にそんな霊感はないよ。ただ、何ごとも決めつけてかからない、気になったことはとことん調べるっていうのが、僕の性分なだけだよ」


 那月がまだ訝しげに近江屋を見ていると、加奈が割って入った。


「あ、近江屋さんて探偵なんですよね! だからってことですよね!」


「そう! まあ、実際は探偵って勝手に言われてるだけなんだけどね。何個か事件を解決したら、いつのまにかそう言われるようになってたよ」


 へぇ〜と加奈が思っていると、近江屋は名刺を取り出して、加奈と那月に手渡した。


「これ、僕の連絡先。もし、困ったことがあったらいつでも連絡してよ。力になれるかもしれないからね」


 と、近江屋はそう言って、フロントを後にした。


 那月は少しむすっとした表情で、加奈に文句を言った。


「加奈、あいつに心ゆるしすぎじゃない? 超常現象に慣れてるみたいな、大事な情報もすぐバラしちゃうし」


「那月ったら、初対面の人とも仲良くできるようにならないと駄目だよ。というより、私以外の人のことも、もっと信用して良いと思うの」


「うん……でも加奈以外は、なんていうか、直ぐ生理的に受け付けなくなるって感じで」


 実は、那月は人間不信気味で、余り学校に来ていない。何か不思議な力があると、幼いときから周りに避けられたりしていたらしい。しかし、加奈からは那月自身が、どこか人を無意識に避けているかのようにも見えていた。


「うーん。まあ、那月なら徐々に慣れるよ、多分!」


「じゃあ、もし慣れなかったら、私は加奈の横にしかいられなくなっちゃうね」


 と、那月は笑ってそう言った。


「もー! でも、私は離れないから安心してよ!」


「ふふ、ありがとね」


 冗談混じりの会話ではあるが、加奈から見て那月は、どこか安心したかのような表情に見えた。折角の旅行だし、那月ともっと楽しみたいなぁと思ったときだ。加奈は、本題を思い出した。


「あ、那月! ドッペルゲンガーだよ。私のドッペルゲンガー!」


 それを聞いて、那月は真剣な表情に戻ると頷いた。


「うん。あいつの発言関係なしにも、ドッペルゲンガーの噂はあったしね。加奈が何かに巻き込まれてないと良いんだけど」


「大丈夫だよ! でも、カボソさんに会いに行くより、先にドッペルゲンガーを調べた方が良さそうだよね」


「私もそう思う。原因ははっきりさせとかないと、安心できないし」


「それじゃあ、聞き込み開始だね!」


「その前に、ドッペルゲンガーについて整理しておこう。といっても、ネットで調べるぐらいしかできないけど」


 と、那月はスマホを取り出し、ドッペルゲンガーについて調べ始めた。それを見て、加奈もスマホを取り出し、ドッペルゲンガーの文字を打ち込もうとした。だがそのときには、那月は既に調べ終えていた。


「加奈、だいたいわかったよ」


「はや!」


「ふふ。じゃあ、順番に説明するね。」


 那月は、ドッペルゲンガーについて要点をまとめて説明を始めた。


 ドッペルゲンガーとは、もう一人の自分が現れる現象のこと。そのまま、もう一人の自分のことをドッペルゲンガーと呼ぶ。意味はドイツ語で、二重に歩む者。日本では江戸時代ごろに影患いとか言われていた。


 科学的には自己幻視と言われているが、超常現象としてのドッペルゲンガーは、次のような特徴がある。


・本人と関わりのある場所に現れる

・人と会話をしない

・忽然と消える

・自分のドッペルゲンガーに会ったら死ぬ


 他にも、自分のドッペルゲンガーが見えるのは死の前兆とだけ言われていることもある。


 ドッペルゲンガー正体は諸説あり様々である。自分を殺しにくる怪異から、何かが化けたものだったり、死ぬ前に見える幻覚とか。


「こんな感じに、だいぶ情報にブレがあるんだよね。確定なのは、もう一人の自分が現れること、会ったり見えたら良くないこと」


「うーん、じゃあ、もう一人の自分が現れる色々な現象がまとめてドッペルゲンガーって言われてるのかな?」


「そうみたい。でも、さっき説明したことがドッペルゲンガーの基本だから。これを軸に調査したら良いと思う」


「おぉー。那月って、やっぱり手際いいよね」


「ふふふ。じゃあ、早速聞き込みに行こう」


 こうして、二人は聞き込みのために再び妖怪美術館のある迷路のまちへと向かった。今回の聞き込みは、超常現象に関するものだ。となれば、やっぱり最初は妖怪美術館のガイドさんに聞くのが良い。


 そう考えて、二人は妖怪美術館へと入った。中には丁度暇そうにしている美術館のスタッフがいる。優しそうな若いお姉さんだ。加奈は早速、尋ねた。


「すみません、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「はーい。どうしました?」


「ここ最近で、ドッペルゲンガーを見た! みたいな、話って聞いたりしませんか?」


「実はですね、結構あるんですよ。最近でも、そいいう話」


「本当ですか!」


 目を輝かせて興味を示す加奈に対し、スタッフのお姉さんも、笑みを浮かべながら説明をしてくれた。


「そうですよー。例えばですね、小豆島まつり、知っていますか?」


「知ってます! 島で一番大規模な夏祭りですよね!」


「そうなんです。その小豆島まつりにですね、出たんですよ」


「まさか」


「そのまさかです。ある若い男性が、祭りで踊ってるのが目撃されてたんですけどね。後日、その男性は風邪で家で寝てたことがわかったんですよ」


「えー! じゃあ、その人って誰だったんですか?」


「正体は不明。ただ、本人かのように、周りと談笑しながら、祭りを楽しんでたんです。もしかしたら、カボソが化けてたのかもしれませんね」


「へー。カボソさんも皆んなと遊びたかったのかなぁ」


「そうかもしれませんね。では、引き続き楽しんでいってくださいね」


 と、スタッフのお姉さんは笑顔で手を振った。加奈は頭を下げて、お礼を言うと、少し離れたところで待つ那月の元へと駆け寄った。


「那月! 聞こえてたでしょ、情報ゲットだよ!」


「なんか、子供向けの作り話のようにも聞こえたんだけど……まあ、大事な情報か」


「この調子で、どんどん聞いていこう!」


と、加奈は他のスタッフにも聞いて回った。3人ほど聞いて回ったところで、加奈はため息をついて那月にもたれかかった。


「那月〜。みんな同じ話しかしてくれないよ〜」


「あはは……やっぱりそうだよね」


 と、那月は苦笑いした。加奈が子供っぽいからだろうか、スタッフの人たちは子供向けのお話しかしてくれないのだろう。


「どうしよう〜」


「そうだね。観光客向けの人だけじゃなくて、地元の人に聞いた方が良さそうだね」


「おおー。地元の人ならもっと教えてくれるかも!」


「じゃあ、この迷路のまち周辺に住んでる人から聞いてみようか」


 そうして、二人は妖怪美術館を出た。






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