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13. また来ようね!

 次の日、加奈は目を覚ました。


「あれ、体が動かない」


 と、自分の体を見ると、那月が加奈のことを強い力でぎゅっと抱きしめていた。


「えーと、ちょっと照れるなぁ……」


 と呟きながら、那月もまだ寝てるしもう一度寝てもいいなあと思い目を閉じかけたときだった。視界の端の時計がふと目に入った。時計に対し何か違和感を感じ、目を細めてじっと見た。おかしい、短針が1の場所にある。でも、外は明るい。そのとき初めて気づいた。既に12時を回っている。今はもうお昼なのだ。加奈は慌てて起き上がろうとしたが、那月にぎゅっと拘束されている。仕方なく、頑張って体をずらし、那月の正面へとの向きを変えた。那月は加奈の眼前で気持ちよさそうに寝ている。加奈は那月の両肩をがしっと持つと前後に揺らした。


「那月、那月! 起きて! もう昼だよ!」


「もう少し寝かせて……」


「起きてってばー!」


 加奈は必死に那月の体を揺さぶり、起こした。いつもは那月が先に起きており、加奈を起こしてくれるのだが、さすがの那月も昨日の今日で疲れ切っていたのだろう。二人は、急いで身支度を整えると、部屋を出た。


 フロントに降りると、そこには近江屋とカボ太郎の姿があった。近江屋は、加奈たちのことを見つけると、こっちだよー、と手招きした。加奈は小走りで駆け寄り、頭を下げた。


「ごめんなさい、寝坊しました!」


「ははは。昨日あんなことがあったんだ、それが普通だよ。それよりも、疲れたはとれたかい?」


「はい! もう元気です!」


 と、加奈は元気よく答えた。ちなみに、となりの那月はまだ眠たそうで寝ぼけている。そんな二人を見て、近江屋は笑った。


「ははは。まあ、疲れてはとれてそうで良かった。これから、記念パーティーだからね」


 それに対し、那月は目をこすりながら、尋ねた。


「ねえ、記念パーティーはどこでやるの?」


 那月が尋ねると、カボ太郎が待ってましたと言わんばかりに答えた。


「ふ、ふ、ふ。聞いて驚くな! 記念パーティーの場所は、俺たちの住処だ!」


「いいの! やったー!」


 加奈だけは大はしゃぎで喜んでいる。眠たそうなまま特に反応を示していない那月は、近江屋の方をみて尋ねた。


「近江屋さんはそれでいいの?」


「僕はそれでいいよ。いい経験だしね」


 カボ太郎は張り切った様子で、フロントの入り口の方へと歩き出した。


「そうと決まれば出発だ! ついてこい!」


 加奈たちは、カボソの住処に案内された。住処は、川をたどった先の山奥にあり、結界まではられている。そこをさらに進んで、やっとカボソの住処にたどり着けるのだ。奥には、小さなカボソの家が並んでいる。そして手前には、大きな木のテーブルとイスがある。これは良く見かける人間サイズのものだ。そして、そのテーブルの上には、たくさんの魚介が並んでいた。しかも単に生魚だけではない。調理された、立派な魚料理と言われるものまでそろっている。それらは、皿にキチンと盛り付けられており、まるでお店にいるかのようだ。


「カボソって、料理できるんだ」


 那月がボソッと呟くと、カボ太郎はちょっとムっとして答えた。


「なめんなよ、那月。人に化けるってことは、人と同じことができるってことだ!」


「だから、テーブルと椅子も最近のやつに近いんだ」


「それは、あんたのため、わざわざ用意したんだ。感謝しろ!」


 そうこうしていると、たくさんのカボソ達がわらわらと集まってきた、


 こうして、三人は席に案内され、カボソ達の手厚い歓迎を受けた。


「いいか! こいつらは俺の友達だからな! 丁重に扱えよ! それじゃあ、乾杯!」


 と、カボ太郎は勢いよくグラスを持ち上げた。それに続いて皆もグラスを持ち上げた。そして、あちこちでグラスをぶつける音がする。


 那月は周りを見て、私たち未成年なのに、なんでカボソ達はお酒を大量に用意してるのだろう、と思いながらも、ジュースが入ったグラスで加奈と乾杯した。


 そうして、記念パーティーというよりは、賑やかな宴が始まった。


 加奈はさっそく、お刺身に箸を伸ばした。とってみるとそれは、見るからに新鮮できれいだ。醤油をつけて口にすると、その刺身は口の中でとろけた。


「なにこれ! この魚美味しい!」


 加奈がそう口にすると、カボソ達が次々とアピールしてきた。


「ボクが取ってきたんだよ!」


「さばいたのはワシじゃ!」


「いーや、俺が盛り付けた!」


 そんな賑やかな光景に、加奈は笑顔を浮かべていた。


 楽しい時間はあっという間にすぎ、すっかり夜となった。宿までは、カボ太郎が案内してくれるようで、加奈たちはカボソ達に別れを告げると、宿に戻った。そして、加奈の部屋にみんなで集まった。


「どうだった? 俺らの歓迎は」


「とっても、楽しかった!」


「はっは、当然だよな!」


 加奈とカボ太郎が盛り上がっている横で、那月は近江屋に尋ねた。


「近江屋さんは、もう少し小豆島に残るんですか?」


「そうだね。40日延泊したせいで、あと10日分は残ってるからね」


 と、近江屋は苦笑いを浮かべた。


「そうなんだ。私たちは明日帰ります。一応、高校生なんで」


 加奈たちは高校生だ。許可をもらっているといえど、長期滞在はできない。


「そうか、気を付けて。いつでも連絡してよ」


「うん。あ、そうだ。ごめんなさい、初対面のときは」


 と、那月は軽く頭を下げた。初めて加奈たちが近江屋と会った時だ。那月は人間不信気味というのもあり、警戒心マックスで初対面の近江屋に強く当たってしまった。


「あはは、気にしないでよ。僕の方がいきなり声かけたんだから。出雲さんは、それくらいの方が、いいんじゃないかな。天川さんとバランスがとれて」


「ふふ、確かにそうかも」


 そう話していると、カボ太郎が割り込んできた。


「あんたら、明日帰るのか。もっと遊んでいけばいいのによ。ま、また遊びにこいよ!」


 カボ太郎はニカっと笑って、親指を立てた。


「もちろん。カボ太郎も元気にしててね」


「俺はいつでも元気だぜ。んじゃ、お別れ会だな。お菓子でも食べようぜ」


 と、カボ太郎は部屋の冷蔵庫や、加奈たちの荷物を漁り出した。


「買ってこないとないから」


 と、那月がカボ太郎の首をつかんだ。


「ひえっ。ちょっとは話しやすくなったと思ったのに、やっぱり怖ぇじゃねぇか!」


「女の子の荷物漁るなんで、ろ・ん・が・い」


 那月とカボ太郎がわちゃわちゃやっている横で、近江屋が席を立った。


「何か買ってくるよ。天川さん、ご希望は?」


「じゃあ~、たくさんお願いします!」


 こうして加奈たちはお菓子を食べながら、親交を深めた。色々な話をする中で、加奈はふと疑問に思った。


「近江屋さん、質問いいですか!」


「どうしたんだい?」


「結局、私のドッペルゲンガーって何だったんですか?」


「……何なんだろうね?」


「ええ! わからないんですか!」


「そもそも、あまりにも自然体過ぎて、ドッペルゲンガーだと思ってなかったし……」


「えぇ……」


 ちょっと落ち込む加奈に、那月が横から口を出してきた。


「でも、正真正銘正体不明のドッペルゲンガーがいたってことでいいんじゃない? 全部説明できても面白くないし」


「もう、私もちょっとは不安になるんだからね!」


 と、少し謎が残たままのところもあるが、小豆島のドッペルゲンガー事件は無事に解決した。今日まで色々あったけど、何とかなったのだ。


 そうして、夜の最後のお別れ会も終った。


 次の日の朝。加奈は那月に起こされて目を覚ました。今日は、ちゃんと起きることができた。船の時間もあるので、二人は荷物をまとめ部屋を出ると、チェックアウトを済ませた。フロントには、近江屋とカボ太郎の姿があった。


「短い間でしたが、ありがとうござました!」


 と、加奈は頭を下げた。


「こちらこそ。気を付けて帰ってね」


「はい!」


 加奈は力強く返事した。次はカボ太郎が、加奈の手を取って、声をかけてきた。


「絶対また来いよ。俺たち、友達なんだろう?」


「うん! また那月と一緒に来るね!」


「う、あんたも一緒だったな」


 と、ちょっと引き目で那月の方を見た。


「失礼だよね。最後くらい、愛想よくしてくれたっていいのにさ」


 と、那月はちょっと膨れた。


「怖いのは変わりないが、あんたが悪い奴じゃないっていうのはわかってるからな。お前が来るの待ってるぜ!」


「ふふ、どうも!」


 加奈は時間を確認した。もうそろそろ出発しなければならい時間だ。


「じゃあ、、私たち、もう行きますね。また、みんなで遊ぼうね!」


 と、加奈は手を振った。


 近江屋とカボ太郎は、二人の姿が見えなくなるまで、見送ってくれた。



 二人は帰りの船に乗るために、再び港にやってきていた。船が出るまではまだ時間がある。だが、港では特にすることもないので、二人は船に乗った。そしてデッキに上り小豆島を眺めていた。


 小豆島では色々なことがあった。加奈のドッペルゲンガーが現れ、カボソにも会った。危険なドッペルゲンガーや、那月のドッペルゲンガーとも会った。そして、江洞窟の悪魔とも対面した。離魂の術が使える近江との出会いもそうだ。加奈たちは普通ではできないような経験をしたのだ。


 もちろん、妖怪美術館を見て回ったり、うどんやオリーブ牛を食べたりなど、小豆島の観光も楽しめた。ドッペルゲンガー現象の調査に時間を割いたせいで、回りきれていない箇所はまだまだあるが、それは次の機会のお楽しみだ。カボ太郎とまt会うときは、何かお土産を持っていくの良いかもしれない。


 小豆島を見て、今回の旅行を思い返していた加奈だったが、ふと思った。振り回す形になってしまったものの、那月は楽しんでくれたのかと。加奈は那月に尋ねた。


「ねぇ、那月。どうだった、小豆島旅行。楽しめた?」


「楽しかった!」


「良かった! 私も楽しかった!」


 加奈は那月の返答を聞いて安心した。もし、自分が振り回したせいで迷惑になってたらどうしようと思っていたからだ。


「ふふ、あ、加奈! 私聞いたよ、カボ太郎から。小豆島からずっと、外道神引き連れてたんだって?」


「あ、実は……そうなの」


 と、加奈は少し申し訳なさそうに口にした。


「もう! 折角二人で旅行に来てるんだから、せめて一日目くらいは二人っきりが良かったなぁ」


 と、那月は頬を軽く膨らませた。


「ごめん。結局、二人っきりだったのは船だけになっちゃった」


「でも、加奈と二人だから、船の上も楽しい」


 那月は笑顔でそう言った。


「あ、加奈。予定してた目的は達成できたよね!」


「うん! いっぱい妖怪さんのお友達ができたよ!」


「それに、加奈から見たら、初めて私以外の友人ができたんじゃないの?」


「たしかにー! でも、それ言うんだったら那月だってそうじゃん! 私の傍から離れられないー、って言ってたくせに!」


「別にぃ、今だって加奈の傍から離れられないもん!」


「うふふ、楽しかったね!」


「うん、楽しかった!」


 この旅行で、お互いにことをより深く知ることができたと、加奈は感じていた。そして、また二人でどこかに旅行に行って、二人で楽しみたいと思った。


「えーと、じゃあ、帰りの船はどう過ごそうかな」


 そう言ったものの結局、加奈と那月は船が出港し、港に着くまでの間、ずっと楽しくしゃべり続けたのだった。

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