おまけ 妖怪さんによる同人小説 ~加奈と那月の if ストーリー~
これは、小豆島のドッペルゲンガー現象を解決した後のお話である。加奈と那月は、地元の山奥の小さな洞窟へと向かった。そこには創作好きの妖怪、人呼んで”本書きさん”の住処がある。種族は老いた一つ目小僧ではあるが、創作が大好きな変わった妖怪だ。加奈と那月は、いつもお土産に小説や漫画を持っていくのが習慣とんなっていた。本書きさんはお礼も兼ねて、いつも自分で書いた本を加奈たちにくれるのだ。
今日も、加奈たちは、たっぷりの小説と漫画を持って、やってきた。
「本書きさん、久しぶり~! また、新しい本持ってきたよ」
と、加奈は本書きさんの目の前にどさっと本を置いた。正直に言うとかなり重い。この山奥までくるのは一苦労だ。加奈の額からは汗が流れていた。
本書きさんは、一つ目ようの目眼をかけると、笑って答えた。
「いやはや、よく来てくれた。いつも、ありがとうね。水しかないが飲んでくれ」
と、桶に入った水を加奈と那月に手渡した。加奈と、那月はそれを一気に飲み干した。
「ぷはぁ~、生き返った~」
と、加奈が一息ついていると、本書きさんが声をかけてきた。
「二人とも、おかげで、またいいのが書けたよ」
「え! どんなの書いたの?」
「巷では同人というのが流行っておるじゃろう。それを書いてみた」
「なんの同人書いたの?」
「まあ、読んで見ると言い。短編じゃからよみやすいじゃろうしな」
と、加奈と那月に一冊の本を渡した。
加奈と那月はそれを受け取ると、黙々と読み始めた。
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タイトル:九尾とカナのオカルト見聞録
私は出雲無月、本当は九尾だけれど訳あって人間の姿で生活している。見た目は金髪のショートヘアの可愛いくて綺麗な女性、見た目は十八歳程度。この生活にも馴染んできた私は、今は大学生として過ごしている。
そして現在、私は大学の友達とカフェでお話ししている。
そのお友達とは、今目の前に座っている彼女。彼女の名前は天川叶那。同じ学科の学生で、数週間前にたまたまお話しする機会があった。それから、何か意気投合したような感じで、こうしてカフェで一緒にお喋りしたりする仲になっている。薄ら赤みがかった茶色の髪をしていて、髪型はツインテール。前髪とかは短めだけどツインの箇所は肩より下につくほど長く、それぞれに赤いリボンをつけている。目もぱっちりしてるし、純粋で良い子そうな印象。
「無月、ちょっと良いかな?」
「ん? どうしたの?」
叶那は少し間を置いて、口を開いた。
「無月って、オカルトって信じてる?」
他愛もない会話の途中だけれど、叶那の表情は少し真剣そうで、真っ直ぐこちらの目を見つめている。
「オカルトかぁ、信じてるよー」
「本当に?」
「うん! 叶那はどうなの?」
叶那はちょっと考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「実は私ね、オカルトを信じってるていうよりは、実際に体験したことあるの」
「えー、興味あるー! 聞かせて聞かせて!」
食いつきすぎたのか、叶那はちょっと困惑してそうだった。
「色々ありすぎて……ええと、とりあえず私ね、生まれながらにしてオカルト的な物事を引き寄せやすい体質みたいで」
「あ……そうなんだぁ」
確かにそうだ……私も九尾だしね。他にも学生はいっぱいいるのに、私と友達になってるもんね。
「幽霊はもちろん妖怪とかとも見たことあるの」
「今どき妖怪と会うことなんてあるの?」
「実家の近くには自然が結構あってね、川で河童を見たこともあるんだよ」
「ええと、何ともなかったの?」
「なるべく近づかないようにしてたし、家に結界も貼ってあったし……まあ、それもあって家にいることが多かったし」
「うんうん、そうだったんだね」
そのとき、ふと思った。叶那は一人暮らしのはず。
「あれ、今は一人暮らしだったよね? 一人で大丈夫なの?」
「一応、家にはお札貼ったりしてるから……今のところ大丈夫そう」
お札だけで、防げるものなのかなぁ。少し心配になった。
「そんな体質なら大学は実家の近くの方が良かったんじゃ」
私がそう言うと、叶那は真っ直ぐこちらを見てハキハキと喋り出した。
「私ね、やろうと思ってることがあるの。大学でオカルト関連を調べようと思ってるのもあるけど、一番は私みたいにオカルトに困ってる人のために記録を残そうと思ってる!」
「記録?」
「そう! 大学で関連資料を調べるだけじゃなくて、私が実際に体験したことを記録に残すの!」
「実際にって、それめっちゃ危なそうに見えるんだけど」
「そこは、まぁ……頑張るけどぉ……でも、オカルト的な事を体験できるのも私ぐらいしかいないでしょ、だったら私がやるしかないよ!」
叶那みたいな体質の子は、特に現代では珍しいかもしれない。本来、そういう体質なら大人しくしているのが本人にとっては一番安全なのだけれど……
「あ、私ったら、ちょっと夢中になって喋りすぎちゃったかなぁ」
叶那は少し照れくさそうにしている。
私は、そんな叶那を見て決めた。
「私も協力するー! 一緒に体験するよ!」
「え、でも……無月を巻き込むわけにはいけないし……」
「私だって叶那のことほっとけないよ」
私の予測では叶那は絶対に危険な目にあう。妖怪だけを考えても、人間に友好的な妖怪とだけ遭遇し続けるなんてことは不可能だ。それに、妖怪以外にも未知の事象があるかもしれない。そんな状況の彼女に対して、見て見ぬふりをする気にはなれなかった。そして何より、私の知らないオカルト的現象がどうなっているかについて純粋に興味を持ったというのもある。
叶那は考え込んでいたけど、突然不思議そうな顔でこちらを見てきた。
「そういえば無月って、私の話してることすんなり信じてくれてるよね。普通は信じなさそうな内容なのに」
確かに、普通の人間ならそうかも……
「ええと、ほら、言ったじゃん! オカルト信じてるって! 実は、私も怪奇現象にあったことあるんだよ」
怪しまれないように、咄嗟にそう言った。
「え! 無月もそうなの?」
叶那は目を輝かせながらこちらを見ている。
私は、ちょうど良さそうな話を考えた。
「そうだよー。例えばさぁ、狐の窓って知ってる?」
「知ってる、人に化けた妖怪の正体や狐の嫁入りをみたりできるんだよね?」
狐の窓とは、特定の手順で両手で窓のような形を作ったもので、叶那の言ったようなことができる。
「そうそう、それで実際に見たことあるんだよ、妖怪のこと」
「えー、取り憑かれたりしなかったの?」
「気づかれる前に見るのやめたから、なんともなかったよー」
私はそんな事しなくても化けてる妖怪とかはすぐわかる。でも、話に信憑性持たせるにはこれくらいが丁度良い。
「じゃあ、私も試してみようかなぁ」
「うーん、やめた方がいいよ。叶那は元々引き寄せやすい体質なんでしょ? そこに自分から覗きに行くなんてしたらさらに危険だよ」
「それもそうかぁ」
叶那は少し残念そうにしている。
狐の窓では、上位の妖怪などは見破ることができない。私については言うまでもない。でも、見られていることについてはこちら側からはわかる。だから、無作為に見るということは危険が伴う。
そんな話をしてると、叶那はチラリとこちらを見ながら改めて口を開いた。
「さっきのオカルトの話だけど……やっぱり無月にも協力してもらおうかな」
それを聞いて、私の口角が少し上がった。
「そうこなくっちゃ!」
「ありがとうー! じゃあ早速なんだけどね、週末予定空いてる?」
「ん、空いてるよー」
「ええとね、ここに行こうと思ってるの」
叶那は、そう言いながらスマホで地図を見せてくれた。地図が示している場所は、木の生い茂った山で、大学の最寄駅から電車で三時間くらいの場所だ。
「ここに何かあるの?」
「わからないけど、何となく呼ばれてる気がするの。だから行ってみようと思って」
「なるほどー」
呼ばれてるというのはどういうことだろう? でも、友達として叶那と一緒に行くことに変わりはない。
「じゃあ、週末にそこの駅で集合?」
「うん!」
「三時間かかるならトランプでも持っていこうかなー」
こうして、週末に叶那と初のオカルト探索をすることになった。
そして週末、朝早くに大学の最寄駅で合流した私たちは電車にのった。
席に座るなり、叶那はリュックサックを下ろした。
「それ重そう。何入ってるの?」
「ええと、いざというときに使えそうな道具」
「見せてよー」
「ううんと」
叶那は、緑の葉のついた枝のようなものを取り出した。
「例えばこれとか」
「それ、柊だよね」
「うん、鬼対策。念のために鰯の頭もパック詰めにしてるの」
「匂いきついもんね」
「後は、賄賂としてきゅうりとか、油揚げとか」
う、油揚げは私もつられるかも。
「無月は何持ってきたの?」
「私は特に何も持ってきてないよ」
小さめのカバンに、財布などの最低限の荷物しか入れてきていない。私はカバンの中を漁った。
「あ、トランプは持ってきてるよ。着くまでの間、ババ抜きでもする?」
「二人でやるの?」
結局到着までの三時間のあいだ、私と叶那はトランプで遊びながらオカルトに関する話で盛り上がっていた。
そして、あっという間に時は過ぎ、目的の駅に到着した。
駅はこじんまりとしており、改札は無人だ。周りに建物は一切なく、あるのは自然のみ。この駅は山と山の間にあるようで、周りは山に囲まれている。
「無月、向こうの山が目的地だよ。早速行こう」
「んー、本当に何もないなー。私たちだけしかいないみたいだし」
こうして私と叶那は、道と呼べるかすら怪しい山へと続く道を登っていった。
木が生い茂っており少し薄暗い。道も凸凹していたりで歩くのも大変そう。
「叶那、こっちであってるの?」
「うん、多分こっち」
そして、自然あふれる道をしばらくの間登り続けた。
叶那は少し息切れしているようだ。確かに、普通の女の子がこんなに険しい山道を登るのはハードなのかもしれない。
「叶那、大丈夫? 疲れてない?」
「まだ大丈夫。それにもうすぐだと思うの」
「もうすぐ?」
私が叶那にそう尋ねたときだった。
何か気配を感じた。左奥の方の木の影から何かがこちらを見ている。それが何なのか、私はすぐにわかった。
あれは一つ目小僧だ。確かに山にも生息しているはずだけど、あんなところで何をしているんだろう?
私は叶那の方を見た。叶那は先程と変わらず歩き続けている。どうやら、叶那は気づいていないようだ。
一つ目小僧は人間にとって危険な妖怪ではなかったはずなので、もう少し見て見ぬふりをすることにした。
そしてそのまま歩き続け、一つ目小僧がいた木も通り過ぎた。通り過ぎた後も、一つ目小僧は隠れながらもこちらの様子を伺っているように見えた。
「あ、多分これだよ!」
叶那が突然、声を上げた。
前には、古びた小さめの鳥居があり、その奥には三つの大きな石がトンネルを作るように置かれていた。その石の間は、少し屈めば通り抜けられそうな広さ。
「やっぱり。ここだけ何かが歪んでる」
叶那が石の間を指差してそう言った。
指差した方を見ると、そこでは不思議なことが目の前で起きていた。石の間の通り抜けられそうな隙間、本当ならば向こう側の景色がはっきりと見えるはずだ。しかし、向こうの側の景色がその石の隙間だけは何故か回転するように歪んで見えていた。
境界が歪んでいる。私はこれを見てすぐにそう理解した。妖怪の多くは、人がいる場所といない場所の境界に現れる。そして、恐らくこれは本来人間が入れない場所、つまり妖怪達がいるであろう場所へと繋がっている。
しかし、私がここまで知っているのもおかしな話なので、とりあえず知らないふりをすることにした。
「何だろうねこれ」
「多分ここから違うところに繋がってる。私の直感ではこの中だよ」
叶那はそう言って、そこへと近づいていく。
「え、入るの?」
「うん! ここまで来たんだから行くしかないよ!」
「ちょっと待って」
私は後方をチラリと見た。一つ目小僧は、その木から動かずにただこちらを見ている。
……仮に何かあっても、私が一緒にいれば大丈夫か。
「よし、私も心の準備はできたよ」
「じゃあ、行こっか!」
叶那と私は石の間の空間の歪んだ場所を潜り抜けた。
潜り抜けると、そこは先程とは変わらない景色が広がっている。
「叶那、何か変わったー?」
「んー、変わってるはずなんだけどぉ」
後ろを見ると潜り抜けた石の隙間はまだ、歪んでいる。
そのとき、その歪んだ隙間から一つ目小僧がニュッと現れた。
「わぁ!」
叶那はそれを見てびっくりしている。
「勝手に驚いてくれやしたね。あんたら、全然あっしに気がつかないでやすから、ひひひ」
一つめ小僧は笑っている。
「おっとと、これは閉じとかんと」
一つ目小僧がそう言うと、石の隙間の歪みが無くなった。
「あれ、もしかして閉じ込められた?」
叶那がそれを見て、そう言う。
「ちょっと協力してもらいたいことがありやして。襲うつもりもありやせんし、ちょっとだけ頼みやすよ」
一つ目小僧は手を合わせペコペコしながらそう言う。
「目的は?」
私はそう尋ねた。
「あっしの仲間たちが暮らしてる場所がありやす。そこに着いてから詳しいことはお話ししやす」
「仲間って、他にも妖怪がいるのー?」
叶那が目を輝かせながら食いついた。
「へい、あっし以外にも色々いやす」
「じゃあ着いてくー!」
叶那は私の思っていた以上に妖怪に慣れていそうだ。
「あんたはどうしやすかい?」
一つ目小僧はそう私に尋ねてくる。
「叶那が行くって言ってるし、私も行くよ」
「こっちでごさいやす。着いてきてくださいやし」
一つ目小僧は歩き出した。
「じゃあ行こっか、無月」
「そうだね」
私たちも一つ目小僧についていった。
山道をしばらく下ると、斜面に大きな穴が空いている箇所にたどり着いた。穴は二、三メートルくらいの高さだ。
「この先でございやす」
そう言って穴の中へと入り下っていった。
「なんかわくわくするね」
叶那は、相変わらず楽しそう。
「そうかなー、それより不安の方が強いけど」
そうして、私たちも横穴を下っていく。
暗い道をしばらく進むと、突如開けた場所にでた。
そこは、とても大きな空洞で、天井もとても高い。私の知っているもので例えるならば、ドーム球場より大きいくらい。今いる場所は高い位置にあるようで、下の方には民家のようなものが広がっているのがわかる。
松明が大量に置かれており、少し暗く感じるものの生活するには十分の光量だ。
「さ、この下でございやすよ」
一つ目小僧は坂道を下っていく。
「家がいっぱいあるねー。あそこで妖怪が暮らしてるのかなぁ?」
「そうかもね」
「もしそうなら、記録に残しておかないと」
叶那はとても意気揚々とした様子だ。
現代の妖怪達は、こんな場所に集まって生活しているのだろうか。私も少し興味を持った。
私たちも一つ目小僧の後を追って坂道を下った。
そこには、多くの民家のようなものがあった。そして、さらに多種多様の妖怪がいた。
「おっ、やっと連れてこれたのか」
「何とかなるといいのだけれど」
私たちをの方を見ている妖怪達からはそのような言葉が聞こえてくる。
「こんなに集まってるのを見たのは初めてー」
叶那は、周りをキョロキョロ見渡しながらそう言っている。
叶那に恐怖心というものはないのだろうか。
そうしながら、この場所の中央らへんに位置する広場のようなところまで辿り着いた。
そこには、高齢の女性の姿をした者が立っていた。
「連れてきやしたよ」
「おお、ご苦労じゃったな」
一つ目小僧は高齢の女性に挨拶すると、この場を後にした。
「良く来てくださった」
「こんにちはー。あ、これどうぞ」
叶那は、その女性に挨拶するとリュックサックの中から餅を取り出した。
「お餅です。多分お好きですよね」
「私も嫌いじゃないよ、ありがとうね」
高齢の女性は餅を受け取ると口に放り込み、一口で飲み込んだ。
「その様子じゃと、私が誰かもわかっとるのかの?」
高齢の女性がそう尋ねると叶那は即答した。
「恐らく山姥さんですよね」
そう言うと、高齢の女性は笑い出した。
「ほっほっほ、怖がらせないように真の姿を隠しておったのじゃが、バレておったか。お主、ワタシャのことが怖くないのかい?」
「山姥は一般的に人のことを食べる妖怪として恐れられています。けれども、必ずしも私たち人間にとって悪い言い伝えだけでなく、山姥を守護神として祭るところもあります。だたら、こうしてお話しすることができるのです」
「良く知っておるのう」
叶那は何事もなく山姥と話している。
「さて、お二方に来ていただいたのには、大変な事情があるのですじゃ」
続けて山姥は話し出した。
「六十年に一度、この辺りに祟り神が現れますのじゃ。それはたいそうなもんで、ワタシャ達では到底敵いませぬ。それゆえ、儀式を持ってお帰り願うのじゃが、その儀式には少なくとも三人の人間による祈りが必要なのじゃ」
え、少なくとも三人? 私は冷や汗をかいた。
「少なくとも三人? 一人足りないじゃないですか」
叶那がそう尋ねる。
「そうなのじゃ。ここの近くを通る人間がいなくての。お主らが来てくれただけでも奇跡のようじゃ。また、一人足りない分はワタシャ達で何とかするしかないじゃろうの」
山姥は少しため息をつくような素振りをみせる。
「あのー、ちょっといいかなぁ?」
私は渋々口を開いた。
「山姥さん、ちょっとこっちへ……あ、叶那はちょっと待ってて」
叶那に声が聞こえないくらいの場所まで、山姥を連れて離れた。
私はヒソヒソと話した。
「あの、本当に私で大丈夫なの?」
「どういうことじゃ?」
「え、あなたでもわからないの?」
山姥はじっとこちらを見つめる。すると突然ハッとした様子で声を上げる。
「まさか……」
私は、急いで山姥の口を手で塞ぎ、シーっと指を立てる。
「わかったならそれで良いから」
そう言って、手を外した。
「なぜあの娘と一緒に行動しとるのじゃ?」
「内緒。それよりその儀式、叶那に危険はないの?」
「無いと言いたいところなのじゃが……何せ人数が足らんからのう。ここにいる全員に危険が及ぶやも知れぬ」
山姥の反応を見る限り、その祟り神は山姥やその他の妖怪からみても手に負えぬ者なのだろう。
「そうなんだ……わかった、私も協力してあげる。その代わり、叶那には手を出さないこと、私について言及しないこと。それだけはよろしくね」
「わかっておる」
私と山姥は叶那の方へと戻る。叶那はいつの間にか集まってきた他の妖怪と楽しそうにお話ししていた。
「さあさあ、今夜の準備じゃ。皆、取り掛かっておくれ」
山姥がそう言うと、妖怪たちは去って行った。
「さあ、お主らはワタシャの家で休んでいてくだされ」
山姥は私達を家まで案内した。
家の様子は一言で表せば古き日本の家だ。西洋風の家が多い現代では、このような家はもう珍しいものなのかもしれない。
ちゃぶ台の周りに敷かれた座布団に座ると、山姥はお茶を持ってきたくれた。
「ありがとうございます」
叶那は受け取ったお茶を一口飲むと、山姥に尋ねた。
「儀式って、具体的に私たちは何をしていれば良いんですか?」
「鎮まるように祈ってくれていればいいのさ。多くの人間が昔のように祈ってくれていれば、ここに連れてくる必要もなかったものじゃが」
山姥は少しため息をつく。
「えっと、私達も何か手伝いますよ」
「大丈夫じゃよ。準備はすぐに終わるじゃろう。後は夜まで待つだけじゃ。お主達はここでのんびりしておったらええ」
山姥は和かに微笑む。
「そうじゃ、お腹すいとるじゃろう。何か作ってあげよう」
山姥はそう言って台所へと入っていった。
「昔話だったら刃物でも研いでるんだろうね」
「そうかもね」
私と叶那はそんなことを話しながら料理が来るのを待った。
少しすると、山姥はたくさんの料理をお盆に乗っけて持ってきた。
山菜から汁物、艶のある白米と色々揃っていた。
「山道大変じゃったろう、これでも食べておくれ」
「わー、すごーい! いただきまーす!」
叶那は早速食べ始めた。
「私もお腹すいてたから嬉しいー」
食べようと思ってふと食卓を見ると、端の方に油揚げが密かに置かれていた。
私が山姥の方をチラリとみると、山姥は微笑み返した。
私が九尾ということまで見抜いているかは分からないけど、狐系だということはわかってるのだろう。
私も早速油揚げから食べ始めた。
私と叶那が美味しそうに食べるのを山姥は温かい目で見守っている。
「ところで、お主らはなぜこの山に来たのじゃ」
山姥がそう問いかける。
「何だか呼ばれた気がするんです。だからここまで遥々きたんです」
「呼ばれた……ワタシャ達の願いが通じたのかのう」
山姥は笑っている。
そうこうしているうちに、私達は食事を食べ終えた。
「数時間もすれば儀式の時間じゃ。祈るのにも体力を使うじゃろうて、それまで休んでいてくだされ」
山姥はそう言って食器を下げていった。
「叶那、儀式までの間寝ておいたら?」
「折角だったら色々見て回りたいんだけどなぁー」
「山姥さんから聞いたけど、祈るだけでも本当に体力を使うみたいだよ。叶那は山登りでも体力使ってるんだから休んどかないと」
「寝てる間に食べられたりしてー」
「私が見張ってるから大丈夫だよ」
結局、叶那は横になってすぐ眠りについた。
叶那が眠りについたのを確認すると、私は隣の部屋にいる山姥の元へ向かった。そして、山姥の向かい側に座って尋ねた。
「山姥さん、色々聞きたいことがあるのだけど」
「どうされましたか」
「あなた以外に力を持つ妖怪はいないのですか」
「そうじゃのう、ワタシャだけかのぉ」
「鬼や天狗がいれば、祟り神も力づくで追い返せるのかもしれないのに」
「そうじゃのう、ここは狭い集落じゃて」
「……いざというときは、どうするの?」
「……そのときゃあ、ワタシャが命に変えてでもお帰り願いますじゃ」
「そうならないと良いね」
「まったく」
少し沈黙が続いた。
「ねぇ、あなた達はもう人前に姿を表したりしないの?」
「……難しいのう。人間たちからすればワタシャ達は忘れられた存在じゃ。こういう場所でひっそりと暮らしとる仲間が多かろうて」
「そうなんだぁ」
「さ、ワタシャもそろそろ準備に行かにゃあならん。あの娘のそばにでもいてやんな」
山姥はそう言って家を出ていった。
私は叶那の寝ている部屋に戻り、起きるまで傍にいることにした。
そして数時間後。
「うーん、良く寝た」
叶那は両腕を伸ばしながら体を起こした。
「おはよ、叶那」
「おはよぉ……何時間くらい寝てた?」
「二、三時間くらいじゃないかなー」
「さっきまでの出来事、一瞬夢かと思ってたけどやっばり現実なんだね」
「そうだよー」
丁度そんな会話をしていたときだった。
「そろそろ時間じゃ」
そう言って山姥が入ってきた。
「じゃあ、いこっこか」
「そうだね」
私達は山姥に連れられ、家の外に出た。
広場の周りにはもう妖怪の姿はない。どうやら儀式はこの空間の外、つまり山の方で行うようだ。
私たちは坂道を登り、行きしに入ってきた山の斜面の穴にでた。
日が沈み外はもう真っ暗だ。山姥が松明を持って照らしてくれている。
しばらく歩くと、松明がたくさん置かれた場所に妖怪達が集まっているのが見えてきた。そして、その場所には見覚えがあった。
「あれ、ここって?」
叶那がそう呟く。そこには、見覚えのある古びた小さな鳥居があった。
「そうじゃ。お主らが最初に来た場所じゃ」
妖怪達は鳥居を囲むように大きな円を描いて立っている。もしかしたら、この鳥居は祟り神を抑える役割もあったのだろうか。
「さあ、お主らはここの正面に立っていておくれ」
そう言われて、私と叶那はその鳥居の正面に立った。
私たちを含め、皆で鳥居を囲むように立っている。
そして、山姥が私の隣に立った。
「もうすぐ始まりますじゃ、そのときは手を合わせて祈っていてくだされ。それと、今から元の姿に戻りますが、驚かれぬように」
そう言うと、ずっと高齢の女性の姿をしていた山姥は異形の姿へと変わっていった。背が高く、耳まで裂けていると思われる口に白い髪、そして鋭い眼光。本来の山姥の姿だ。
元々その姿のことは知っているのか、叶那は全く動じていなかった。
そして、少し時間が経った。
「始まりますじゃ」
山姥はそう言うと、何やら呪文のようなものを唱え始めた。それに続き周りの妖怪も何かを唱え始めた。
私と叶那は手を合わせた。
しばらくすると、鳥居の側に黒いモヤモヤとしたものが浮かび上がってきた。
するとすかさず、一匹の妖怪があらかじめそれの下に置かれていた藁などに火をつけた。
火はパチパチと音を立てている。そして、妖怪達は呪文を唱え続けている。
それに伴い、黒いモヤモヤのようなものも少しずつ小さくなってきている。
火を焚き、呪文を唱えることが祟り神にお帰り願うための儀式なのだろうか。だとしたら黒いモヤモヤが、祟り神なのだろう。
だんだん小さくなっていっているし、このまま終わってくれるのだろうか。そう思っていたときだった。黒いモヤモヤが急激に大きくなった。そして、上空で雷の音がしだした。
「もっと気合いいれんかい!」
山姥がそう言った。
私が見るに、黒いモヤモヤからは凄まじい力が溢れ始めている。そして、それは大きくなってきており見るからにやばそうだった。山姥の言うところによるならば、人間による祈りの数が足りないからだろうか。このままじゃ、抑え切れなさそうだ。
そうのようなことを考えていたとき。
突如、叶那が何かを唱え始めた。
「叶那⁉︎」
私は驚いて叶那の方を見た。唱えている内容を良く聞くと、叶那は妖怪達が唱えている呪文と同じようなことを唱えている。叶那はどこかでこの呪文を知っていたのだろう。
そして叶那も、私と同じように危機感を抱いたのかも知れない。
叶那が唱えはじめたことにより、黒いモヤモヤの膨張も止まり、小さくなり始めていた。
だけど……
「やめんかぁ! お主に耐えられる呪文じゃぁねぇ!」
山姥がそう叫んだ。私にもわかった。妖怪が使うような呪文、何の訓練も受けていない人間が使うには無理がありすぎる。
すると、めまいでも来たのか叶那の体はぐらつき倒れかけた。私は、叶那の体を咄嗟に支えた。叶那の体には力が全然入っていないようだった。
「大丈夫? 無理しないで」
「うん……でも、私がやるしか……ないでしょ……」
叶那の言う通り、叶那がそれを唱えれば見た感じ何とかなるかもしれない。けれども、それと同時に叶那の体は限界を迎えるかも知れない。
叶那はふらふらな体を起こし、再び手を合わせようとした。
「こうなったら、ワタシャがやるしかないの」
それを見た山姥はそう言って、両手から何やら凄まじい力を放ちはじめた。そのときだった。既に山姥以外の妖怪や叶那は、皆倒れて眠りについていた。
「これはいったい……どういうこと……じゃ」
山姥は驚いて辺りを見回す。
そして間もなく、山姥も地面に倒れた。それでも、山姥は何とか意識を保っているようだ。
「皆、全然耐性ないね」
私は周りを見渡してそう言った。皆が眠った原因は私にある。私が術で眠らせたのだ。他の者達に、私の正体を見せるわけにはいかなかったからだ。
そして何より、叶那をこれ以上危険な目にあわせたくなかった。
「叶那、後は任せて」
そう言って眠りについた叶那をゆっくり地面に下ろした。
それから私は黒いモヤモヤと正面から向かい合った。そして背を正し、人差し指と中指をピント立てて構えた。それと同時に周りにはオーラのようなものが漂いはじめた。頭からは耳が生え、さらに後ろには九本の尻尾が広がった。
「なんと……」
後ろの山姥もその光景を見届けた後、やっと眠りについた。
「無月、起きてー」
私は叶那のそう呼ぶ声で目を覚ました。体を起こすと、叶那は心配そうにこちらを見ていた。
辺りを見渡すと、妖怪達も既に起きているようでこちらを見ている。場所は儀式を行っていた場所で、既に朝日が登りはじめていた。
そうだ、疑われないように私も寝たんだった。
「これで、儀式を無事終えることができたのじゃ。二人ともありがとうね」
異形の姿のままの山姥は、微笑みながらそう言っている。
「何とかなって良かったです」
叶那も笑顔でそう答える。
「良かったら宴でもしていかんかえ?」
山姥がそう提案してくれた。
「宴ですか!」
叶那は、いかにも参加したそうな様子だ。
「叶那、そろそろ帰らないと次の日の授業に間に合わなくなるよ」
「んー、確かに。それもそうだね……あ、良かったらこれ皆さんで食べてください!」
叶那はリュックサックに詰めてきた、豆腐やきゅうりのような食べ物を妖怪達に配った。
「本当はゆっくりしていって欲しいんじゃが、それなら仕方ないのう」
山姥は、鳥居の後ろのくぐり抜けれるような石の隙間に術をかけた。
すると、石の隙間の空間が歪みはじめた。
「ここから、元の世界に帰れますじゃ」
「ありがとうございます! じゃあ、私達はこれで帰ります! 皆さんお元気で!」
叶那がそう言うと、妖怪達も笑顔で手を振ってくれた。
そうして、私達は石の隙間をくぐり抜けて元の世界へと戻った。
「無月、楽しかったねー」
下山しながら叶那は楽しそうに話しかけてくる。
「結構危なかったけどね」
「でも、六十年後は人間をもっと集めれば危ないこともないでしょ」
「今ですら私達しかいなかったのに、六十年後に人が来るなんて思えないなぁ」
「六十年後っていったら、私達もうおばあちゃんだもんね」
「そっかぁ、六十年でおばあちゃんになってるのか……想像もつかないなぁ」
「六十年も先だもんね」
そんな話をしながら降り続けて、やっと駅に着いた。
「えーっと、次の電車は……え、三時間後じゃん!」
叶那はため息をついた。
「じゃあ、待ってる間に記録に残しとけば良いんじゃない?」
「そうだね! そうしよう!」
叶那は、ノートと筆記具を取り出して山での出来事を書きはじめた。
「これが、私と無月の記念すべき1ページ目だよ!」
叶那は書きながらそう言ってきた。
「そういえば、題名とかつけないの?」
「題名……うーん、オカルト見聞録とかはどうかな?」
「いいと思うよ!」
「じゃあ表紙に書いちゃうね!」
こうして、九尾と叶那のオカルト見聞録の1ページ目が埋まった。
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ここまでが、本書きさんの書いた同人小説だ。読み終えた瞬間、那月が顔を真っ赤にして大声をあげた。
「ちょっと! これ、私たちじゃん! しかも、私が主人公なせいで、私の心理描写が多いし!」
「驚いたか! 小豆島での土産話を聞いてピント来たんじゃ!」
「はぁーーーー。私、そのまま九尾になってるしー。めちゃくちゃキャピキャピしてるー。恥ずかしいってば!」
顔を赤くして文句をいう那月を見て、加奈は笑った。
「この本みたい那月も可愛いと思うよ!」
「もう!」
「ていうより、なんで私たち大学生になってるの!」
本読みさんは頭を掻いて答えた。
「いや~~~、最近読んだのがのう、大学生が主人公じゃったから」
「はぁー。もう、本持ってくるのやめようかなー」
「それだけはやめてくれ! ワシの生きがいなんじゃ!」
と、本読みさんは、頭を下げて懇願する。
那月はわかったとわかったと、ため息をつきながら了承した。
「それで、感想はどうじゃ?」
本書きさんの質問に加奈が答えた。
「面白かった! 私と那月のことも良くかけてるし!」
「そうかそうか!」
と、本書きさんはご満悦の様子。
「私は文句あるからね! まず、九尾だからって、この本の中の私って調子乗りすぎじゃない?」
「秘められた力を持つ。かっこいいじゃろう」
「私の柄じゃない、キャラ崩壊!」
「同人なんじゃから、いいじゃろう」
「むぅー」
納得はいかないものの、これ以上文句を言っても意味がないように感じられた。
「とりあえず、今日は帰ります!」
と、那月は荷物を持って背を向けた。
「また、作ってやるからの~」
那月は、自分たちの冒険話をするたびに、これからは自分の同人小説ができると考えると、嬉しいような、でもやっぱり恥ずかしい気持ちになったのだった。




