俺は焼き肉を食べて気分よく帰りたい
***
◆新宿アンダーシティ
三階層ほど下った。
途中、何度か魔物と遭遇したが、ミヤは基本的な攻撃魔法――
ファイアボルト、フリーズバレットを駆使して撃退していた。
俺の目から見ても、決して“使えない魔術師”ではない。
だが、Aランクパーティにいるには明らかに力不足。
彼女の申告通りCランク相応、といったところだ。
俺はいつものようにウィンドウを展開し、
魔物の攻撃を防ぎ、動きを制限し、殴る。
余すことなくユニークスキルを使いこなす俺の動きを、
ミヤは驚きと尊敬の入り混じった目で見ていた。
***
◆年齢の話
「ショウさんって……本当にDランクなんですか……?
私にはAランクでもおかしくないように思えます」
ミヤがぽつりと呟く。
俺は聞こえないふりをした。
途中、年齢の話になり、
ミヤが十九歳だと知った俺は、
「じゃあミヤさんのほうが年上なんで、タメでもいいですよ」
と言ったが、
「いえ、そうはいきません」
ときっぱり断られた。
……まあ、別にいいけど。
***
◆アンダーシティの不気味さ
吹き抜け構造のエスカレーターを使ったので、
あっという間に六階層目まで降りられた。
明るい地下街なのに、人気がない。
それが逆に不気味な空気を生み、
ミヤは少し落ち着かない様子だった。
「そろそろ帰りますか?」
俺がそう言うと、ミヤは首を横に振った。
ギルドで俺を見つけたときと同じ、
強い意志を宿した目。
(……とことん俺の苦手なタイプなんだよなあ、ミヤさんは)
「もう少しだけ、ご指導お願いします!」
「いや、俺は一切指導してないですよ……?」
呆れつつも、俺は先へ進んだ。
***
◆おもちゃ屋
いくつかの店や広場を通り過ぎたあと、
目に入ったのは――おもちゃ屋。
都市型ダンジョンには“換金アイテムのねらい目”がある。
その中のひとつが、このおもちゃ屋だ。
「あそこに入ってみましょうか」
俺は目の前にウィンドウを展開したまま店に入り、
襲いかかってきた店員型魔物――
《クラークシェイド》の攻撃を受け止め、そのまま弾き飛ばした。
だが、その瞬間。
店の奥から、重い足音が響いた。
***
◆ボス魔物:ジャイアント・クラークシェイド
棚を押しのけて現れたのは、
巨大な店員型魔物。
《ジャイアント・クラークシェイド》
身長三メートル、
手には巨大なレジスターを模したハンマー。
「……でかいな」
俺はウィンドウを展開し、
迫りくるハンマーを受け止めた。
衝撃は完全に遮断できる。
だが――
(決定打に欠けるんだよな、こういうタイプは)
硬い。
ウィンドウで殴っても効率が悪い。
そのとき、ミヤが前に出た。
「ショウさんだけじゃなくて……私にもあるんです」
「え?」
ミヤは両手を胸の前で組み、
深く息を吸った。
魔力が集まり始める。
だが、発動までに少し時間がかかる。
「……っ、もう少し……!」
ジャイアント・クラークシェイドが再び振りかぶる。
俺はウィンドウで攻撃を受け止め、
時間を稼いだ。
「ミヤさん……?」
「いきます……!
――《スロウ・ドメイン》!!」
空間が歪んだ。
特定範囲内の物体の動きが、
すべて緩慢になる魔法。
ジャイアント・クラークシェイドの動きが、
まるで水中のように遅くなった。
「今です、ショウさん!」
「了解」
俺は水平にウィンドウを展開し、
魔物の首元へ滑らせた。
スロウで動きが止まった巨体は、
抵抗する間もなく両断され、
光の粒となって消滅した。
***
◆ミヤの秘密
ミヤはその場に座り込んだ。
肩で息をしながら、かすかに笑う。
俺は目の前にウィンドウを展開し、ミヤの能力を見る。
MPはほとんどカラになっている。
ミヤは自身のステータスを確認されている事に気づき、少し顔を赤らめたが、疲れの方が強い様だ。
「今の……普通の魔法じゃないですよね。
ミヤさん、ユニークスキル持ちだったんですか」
俺が言うと、ミヤは弱々しく頷いた。
「この能力があったから……蒼風の爪に誘われたんです。
でも……」
「Aランクパーティの動きに、
ミヤさん自身がついていけなかった。
しかもその魔法、魔力の消費もでかいと」
ミヤは力なく頷いた。
(なるほどな……)
俺は魔物が消滅した場所へ歩き、
落ちていた金色の棒状アイテムを拾った。
「これは……良い換金アイテムだな。
今日はこれまでにしましょう。
これはミヤさんに差し上げます。
これで満足したら、良いパーティ探してください」
「えっ……そんな……」
ミヤが受け取った瞬間、
アイテムが光り、ミヤの体もほのかに輝いた。
「……え?」
ミヤが立ち上がる。
息も切れ切れだったのに、元気になっているようだ。
ウィンドウに映る彼女のMPはほぼ全快していた。
手をかざすと――
「《スロウ・ドメイン》!」
先ほど発動に時間がかかった魔法が、
即座に展開された。
ウィンドウに映る彼女のMPは殆ど減っていない。
「これは……きっと特殊なアーティファクトです!
換金アイテムだなんてもったいないです、受け取れません!」
「俺が持ってても使い道ないので。
どちらにしてもミヤさんが持っててください」
「で、でも……!」
「とにかく、今日はこれでいいでしょう。
帰りますよ」
俺は歩き出した。
***
◆帰還、そして翌日
ダンジョンから出て別れる前、
ミヤは深々と頭を下げた。
「ショウさん……本当にありがとうございました。絶対、恩返しします!」
「いえ、恩返しはしなくてもいいです……」
その日は焼肉のロースを堪能した。
気分よく帰れた……はずだった。
だが翌日。
ギルドに入った俺の目に飛び込んできたのは――
「ショウさん、おはようございます!」
にこにこしながら俺を待っていたミヤの姿だった。
面倒なことになった。
俺は頭を抱えた。




