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万年荷物持ちが今日も気分よく帰られるだろうか

***

◆池袋鍾乳洞・第4層


 それから三週間が経過した。


 今日は別の仕事だ。

 池袋鍾乳洞――都内でもそこそこ危険度の高いダンジョン。

 その第4層に、俺は“荷物持ちDランク”として来ていた。


「おい、荷物持ち! なにちんたらしてんだ、さっさと来い!」


 今日組んだパーティのリーダーが怒鳴る。

 名前は……なんとかのなんとか。

 最近勢いがあるらしいが、俺にはどうでもいい。


「へいへい。でも皆さん無茶しすぎじゃないですかね?」


「うるせえよ、Dランクが」


 リーダーが吐き捨て、他のメンバーも同意するように笑う。


「そうっすか」


 俺は肩をすくめてついていく。

 こういうパーティのほうが、むしろやりやすい。


 調子に乗って深層に挑戦し、

 “役に立たない荷物持ち”に兵站を持たせ粘る、良いアイテムを大量に積んで持って帰る『予定』。

 無謀なパーティのいつものパターンだ。


***

◆下層の気配


 周囲が暗くなり、

 いよいよ下層部の魔物が姿を現し始める。


 今までは勢いの良かったパーティも、

 魔物に苦戦するようになってきた。


(まあ、この実力でここに来るには早いよな)


 これもいつものやつだ。


 リーダーが三体のブラック・ウルフに追い詰められる。


「うわぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げるリーダー。

 ウルフたちが一斉に飛びかかる――その前に。


 俺はウィンドウを展開した。


 ぱん、と透明な板が空中に固定され、

 ウルフたちは音もなく弾かれた。


「な、なんだ……?」


 唖然とするパーティメンバーを尻目に、

 俺は新たにウィンドウを二枚出す。


 一枚はウルフを押しつぶし、

 もう一枚は水平に展開して両断した。


 光の粒子となって消えていくウルフたち。

 残った一匹は逃げていった。


「お前……もしかして“窓使い”なのか?」


 リーダーが震えた声で言う。


(……ああ、いつの間にかそんな呼び名が広まってたんだっけ)


 どういうことをするのかまでは広まっていないらしいが、

 名前だけは妙に知られている。


 笑える名前だ。


 荷物をウィンドウで運んでる時点で気づかれなかったから、

 このパーティは知らないと思ってた。


「はぁ……」


 俺はため息をつき、彼らの荷物を下ろす。


「まあ、ここまでがいいんじゃないですかね。

 それじゃ俺はこれで」


 と手をひらひら振って立ち去った。



***

◆公園にて


「池袋でも名前が知られてたなら、やっぱり遠征した方が良いか……?」


 ぼそっと呟きながら歩く。


 変に名前が売れると面白くなくなる。

 敬られるとか、変に気を遣われるのは疲れる。


 俺は万年Dランクでいい。

 Dランクの荷物持ちがいい。


 雑で粗暴な連中の方がやりやすい。

 そのほうが楽しい。


 コンビニでお茶を買い、

 公園のベンチに座って飲んでいると――


 俺の目の前に影が立った。


「ショウさん、探しましたよ!」


「ミ、ミヤさん……」


 あの新宿アンダーシティ以来、

 ミヤは事あるごとに俺についてくるようになった。


 今日みたいに、どこに行くか告げていないのに現れることもある。


 半ば無理やり交換させられたチャットツールの履歴も

 『今日どこに行きますか?今どこにいますか?どこに行きました?』これで埋まっている。


 怖い。


「ミヤさん、もうBランクに上がったでしょ。

 今なら良いパーティ組めるでしょ」


 ミヤはあの件以降、急速に実力をつけていった。

 元々魔術師としての素養があったのだろう。

 単に《スロウ・ドメイン》という強力なユニークスキルに

 意識が向きすぎていただけだ。


 今は通常魔法もユニークスキルも使いこなせる、

 優秀な魔術師だ――とギルドでミナミさんも話していた。


 俺の他のパーティと組めば良いという提案に対して、ミヤは首を振った。


「確かに今はこちらでパーティを組んでる方々の

 ご迷惑にはならないようになりました。

 ですが、それはショウさんから受け取った

 アーティファクトのおかげです」


 そして、まっすぐな目で言う。


「私はショウさんと一緒にダンジョンに潜りたいんです」


「何回か潜ったじゃないですか……」


 弱々しく答える俺。


 実際、数回一緒に潜って、

 戦利品を山分けしたりしている。


 その都度、

 “今回で終わりですからね?”

 と念を押すが、終わらなかった。


「私は、ショウさんが私と対等な立場で

 パーティを組んでくれることが目的なので……

 それまではショウさんを師匠として師事すると決めたんです」


「えぇ……年下の俺が師匠ですか……」


 困惑する俺をよそに、ミヤは続ける。


「今日はもうお仕事終わった後ですか?

 私も終わったんです」


「はぁ……」


「ここの近くに、鯛の煮つけがおいしいお店があるんです!

 私がご馳走しますから、どうですか!」


 魅力的な提案だ。


 この三週間のうちに、

 ミヤは俺が仕事終わりに美味いものを食べるのが好きだと

 完全に把握してきている。


 “指導のお礼”としてご飯を奢ってくるのだ。

 これは俺のウィンドウ防御をも貫通する強力な攻撃だった。


「魅力的な提案なんですが、俺は気分よく帰りたいんですよね」


「はい、気分よく帰るために美味しいご飯をたべましょう」

 

 そう言って俺の手を取るミヤ。

 そのまま引きずられていく俺。


 俺が気分よく帰られる日はくるだろうか。

お読み頂きありがとうございます!

短編連載となりましたが、本作はここで終わりとなります。

良ければ評価よろしくお願い致します!

また次回作へのモチベーションへと繋がります!

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