想定外でも今日も気分よく帰りたかった
***
◆ダンジョン入口・追跡
追放された女の子が、一人でダンジョンに入っていった。
俺はため息をついた。
「……いやいや、無理だろ。
あの様子でソロは流石に」
追いかけようとした瞬間、
女の子の姿がふっと消えた。
「……は?」
魔法か?
いや、そんな高等技術を使えるようには見えなかった。
だが、魔力の残滓が微かに残っている。
「ショートカット……?
上級パーティにいたから許可されてたのか?」
でもギルドでの扱いを見る限り、
それは余計に危ないだろ。
「……嫌な予感しかしないな」
俺はウィンドウを展開し、飛び乗った。
足元に透明な板が固定される。
さらに側面にもう一枚出し、それを蹴る。
ウィンドウ → ウィンドウ → ウィンドウ。
跳ねるように、滑るように、
俺はダンジョンの奥へと進んだ。
ショートカットの行き先は恐らく中層手前の休憩所、足水の広場だ。
***
◆中層・水場エリア
海鳴ダンジョンの中層は、水場が多い。
足場は悪く、視界も悪い。
魔術師が一人で来る場所じゃない。
休憩所からしばらく進むと――
「……いた」
女の子が走っていた。
息は荒く、魔力はほぼ空っぽ。
その後ろを、ぬらりとした影が追っている。
スライム・ムル。
水場に出る中層魔物で、
弱いが、魔力切れの魔術師には致命的だ。
「ひっ……来ないで……!」
女の子は必死に逃げていたが、足がもつれた。
スライム・ムルが跳ね上がる。
俺はウィンドウを一枚、ぱん、と展開し、
そのまま踏み台にして跳んだ。
「それっと」
ウィンドウを掴み、
スライム・ムルを叩き落とす。
ぐしゃ、と嫌な音がして、
魔物は水たまりに沈んだ。
女の子は呆然と俺を見上げた。
***
◆救助
「あー…と、大丈夫ですか」
俺が声をかけると、
女の子はびくっと肩を震わせた。
「え……あ……あなた……?」
「ギルドで見ましたよ。追放されてた人ですよね」
「っ……!」
図星だったらしい。
顔を真っ赤にして俯いた。
「す、すみません……邪魔でしたよね……」
「いや、別に邪魔とかじゃなくて。
ここ、一人で来る場所じゃないですよ」
女の子は唇を噛んだ。
「……でも、証明したかったんです。
私だって……できるって……」
声は震えていたが、目だけは強かった。
ああ、なるほど。
こういうタイプか。
努力家で、真面目で、
でも不器用で、空回りする。
それが鈍くさいとされる。
上級パーティーから追放されたのもその辺りが理由か。
「とりあえず、立てます?」
「……すみません、魔力が切れて……足に力が……」
「はいはい」
俺はウィンドウを一枚出し、
女の子の前に差し出した。
「これ、乗ってください」
「え……? ウィンドウ?……触れるんですか……?」
「ああ、俺は触れるんで」
女の子は恐る恐る手を伸ばし、
ウィンドウに触れた。
「……っ!? これ……すご……」
驚きと感動が混じった声が漏れた。
「え、あの……あなた、すごい人なんですか……?」
「いやいやいやいや、違いますよ。
ただのDランクです」
「でも……こんな、すごい。しかも助けてくれて……」
やめてくれ。
そういうのが一番面倒くさい。
とにかく彼女をウィンドウに乗せ、そのまま俺たちは出口へ向かった。
途中横目に見ると、女の子が俺をちらちらと観察していた。
***
◆ダンジョン出口
女の子を出口まで連れていき、
ギルドの見える場所まで来たところで――
「本当にありがとうございました!
あの、私ミヤって言います! あなたは――」
「じゃ、俺は帰るんで!」
俺は珍しくダッシュした。
背後から、
「ま、待ってください! お礼を――!」
という声が聞こえたが、
聞こえなかったことにした。
***
◆翌日・定食屋
翌日。
ギルドに行く前に、近くの定食屋で昼飯を食っていた。
隣の席の冒険者パーティが話している声が耳に入る。
「なあ聞いたか? 黒髪のかわいい魔術師の子がさ」
「なんか必死に誰か探してるらしいぞ」
「ボサボサ頭の気だるそうな高校生くらいの男だってよ」
「へえ、何かやったのか、痴話喧嘩?」
俺は箸を止めた。
「…………」
そして、心の中で叫んだ。
(……げっ)
嫌な予感がする
気分よく帰るどころじゃない。




