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美咲ちゃんとカオルくんの素敵なおかしなまじめな対話!!  作者: しろホーネット


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2/7

第二回は、今話題の豊臣兄弟の時代から

「ねえ、カオル君。最近の『豊臣兄弟!』見てると、なんだか心がざわざわするよ。秀長さん、あんなに一生懸命お兄ちゃんを支えてるのに、結局この後、日本中が戦火に包まれていくわけでしょ?」


初夏の陽光が差し込む都内のタワーマンション。美咲は、冷えた麦茶を飲みながら、ソファで寝転がってチャートを眺めている従兄のカオルに問いかけた。

カオルは、画面から目を離さずに口を開く。


「美咲、それは『争い』というものの本質を見ていない証拠だよ。秀長がどれだけ調整に走っても、人間の欲望は指数関数的に膨れ上がる。今のビットコインのボラティリティと同じさ。みんな、天井を打つまで止まれないんだ」


「また株の話……。でもさ、織田信長だって結局、志半ばで倒れたじゃない。カオル君、信長推しでしょ? 破壊の後に何が残ったっていうの?」


カオルは体を起こし、不敵に笑った。


「信長がやったのは『既存システムのデストロイ』だよ。古い権威を壊さなきゃ、新しい芽は出ない。でもね、美咲ちゃん。君の推しの秀長や、その後の家康が直面したのは、その『焼け野原』をどうやって収益化……いや、安定化させるかという、もっと泥臭いフェーズなんだ」


「家康の話だよ、私が聞きたいのは。あんなに戦争ばっかりしてた時代を、どうやって終わらせたの? 260年も平和が続くなんて、今の世界情勢を見てると奇跡みたいに思えるもん」


カオルは手元のタブレットを置き、美咲の目を真っ直ぐに見た。


「いいかい、家康がやったのは『道徳』で国を治めたんじゃない。徹底した『リスク管理』と『構造的なインセンティブの設計』だ。彼は、人間が争う理由を一つずつ潰していったんだよ」


「まず、家康がやった最大の仕事は、社会の『流動性』を奪うことだった」


カオルはホワイトボードに(ニートの部屋になぜかあるのだ)マジックで大きく「兵農分離」と書いた。


「秀吉が始めた刀狩りを、家康はさらに洗練させた。それまでは、農民でも実力があれば侍になれた。でも、それは裏を返せば『いつでも下剋上が起きる』という不安定な投資環境と同じだ。家康はこれを完全にロックした。士農工商という身分制度は、一種の『長期保有ガチホ』の強制だよ。自分のポジションから動けないようにすることで、無駄な野心を削ぎ落としたんだ」


「えー、それって夢がないじゃん。美咲だったら、そんなの退屈すぎて無理かも」


「その『退屈』こそが、平和の別名なんだよ、美咲。夢を追う人間が増えすぎると、必ず誰かの領土を奪い合うことになる。家康は、国民全員に『現状維持が最も合理的である』と思い込ませるOSをインストールしたんだ」


「でも、それでも不満を持つ大名とかいたでしょ? 武器を持って反抗されたら終わりじゃない」


美咲の指摘に、カオルは頷く。


「そこで出てくるのが『参勤交代』だ。これ、教科書では『大名を江戸に行かせる行事』くらいにしか書いてないけど、本質は違う。これは軍事資金を強制的に『旅費と宿泊費』に変換させる、巧妙な経済制裁なんだ」


「経済制裁?」


「そう。大名たちは、江戸までの豪華な行列にお金を使わなきゃいけない。江戸に屋敷を構え、妻子を人質として住まわせる維持費もかかる。つまり、戦争をするための貯金(軍資金)を、インフラ維持と観光レジャーに浪費させたんだ。軍事力を経済力に変換し、それを幕府が吸い上げる。これによって、地方のベンチャー企業(大名)が幕府という巨大プラットフォームに逆らうキャッシュを持てないようにしたんだよ」


「ひどい……。カオル君が親から貰った100万を4000万にしたみたいに、増やさせないようにしたってこと?」


「その通り。複利の力を、家康は防衛のために使った。大名の資産を強制的に目減りさせる仕組みを作ったわけだ」


「でも、力だけじゃ人は動かないよ。心はどうしたの?」


美咲の言葉に、カオルは少し声を和らげた。


「そこで君の推しの秀長にも通じる話になる。秀長は『調整』の達人だったけど、家康はそれを『システム化』した。具体的には『儒教(朱子学)』を国教のように扱ったんだ」


「儒教って、目上の人を敬えとかいうやつ?」


「そう。長幼の序、君臣の義。これは『序列を守ることが美徳である』という洗脳……失礼、教育だね。信長の時代は『実力があれば奪っていい』というゼロサムゲームだった。でも家康は、『守ることが正義』という新しいルールを社会の底流に流したんだ。争うことは『悪』であり、恥であるという価値観を定着させた。美咲、今の日本人が空気を読むのも、この時の遺伝子が残っているからかもしれないよ」


「あとは、外敵だよね。せっかく国内を整えても、外から変な奴らが来たら?」


「だから『鎖国』だ。これは国家レベルの『情報の遮断』だよ。外の世界の技術や宗教が入ってくると、システムがバグを起こす。キリスト教という『神の下の平等』なんて思想が入ってきたら、家康が作ったピラミッド構造が崩壊しちゃうだろ? だから、出入り口を一つ(長崎)に絞って、ファイアウォールを築いた。徹底的な情報統制だね。暗号資産の世界でも、情報の非対称性が利益を生むけど、家康はそれを平和の維持に使ったんだ」


「……なんだか、家康さんって、すごく冷徹なプロデューサーみたいだね」


美咲は少し寂しそうにつぶやいた。


「秀長さんは、お兄ちゃんが大好きで、みんなが笑って暮らせるようにって走り回ってた。家康さんも、もしかしたら根っこは同じだったのかな? 戦争で友達や家族が死ぬのを、もう見たくなかっただけなのかも」


カオルは、窓の外に広がる穏やかな東京の街並みを見やった。


「たぶんね。彼は誰よりも『戦争のコスト』を知っていた。一瞬の勝利のために、どれだけの資産と命が溶けるかを。だから、彼は自分の代で『争いそのものが成立しない退屈な世界』を作り上げた。それは美咲が言うように、冷徹かもしれないけど、究極の優しさだったのかもしれない」


「退屈な平和か……。でも、そのおかげで私たちは今、こうやって歴史のドラマを見て、あーだこーだ言えてるんだもんね」


「そう。家康が作った安定した土壌があったからこそ、文化が育ち、今の日本がある。……さて、俺も家康を見習って、明日のためのリスクヘッジを考えなきゃな」


カオルは再びタブレットを手に取り、複雑なグラフを見つめ始めた。


「あ、またチャートに戻った! ねぇカオル君、次は秀長さんの『調整術』を、今のビジネスにどう活かすか教えてよ。私、学校の文化祭の実行委員で困ってるんだから!」


「文化祭か……。それも一種の戦場だね。よし、次は『豊臣秀長に学ぶ、利害関係者の黙らせ方』について講義してあげよう。授業料は、冷蔵庫のプリンでいいよ」


「やった! さすがカオル君、物分かりがいいね!」


夕暮れ時の部屋に、二人の笑い声が響く。かつての戦国時代が嘘のような、穏やかで「退屈」な、けれどかけがえのない平和な時間がそこには流れていた。

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