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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【朱執事】暗澹溟編
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Ep.48 地の底

 てんやわんやあった後、どうにか蜘蛛の糸から救出された。

 そして、蜘蛛の女性に担がれるがまま巣のほとりの岩に運ばれた。


「ありがとうございました、蜘蛛のヒト。」

「蜘蛛のヒトじゃないよ・・・、私は土蜘蛛の"黒谷ヤマメ"だ。」

「ヤマメ・・・。俺の名前は冴月麟だ。」

「ふむふむ。また出会うかどうかは別として名前だけは覚えておくよ。」


 彼女は一部抜けた巣を見渡す。


「それにしても、全く・・・。妖怪と人間がつるんで来たと思ったらとんだ災難だったよ。

 ・・・まあでも、久々の来訪者は嬉しいものだけれどね。」


 口元をくいっと上げる。

 俺の狐火が下から照らしているので、彼女としては心外だろうが・・・なんというか不気味だった。


「―しかし、別に地底に観光しにってわけじゃあないんだよね?」


 ・・・うん、そうだ。



 事細かく説明するには事情が複雑なので、「地霊殿に用がある」とだけ端的に伝えた。


 話終わったら、彼女は何やら複雑そうな面持ちで俺の顔を眺めた。


「ふーん・・・。あんな場所に用ねぇ?

 ま、深くは聞かないよ。ここはそういう場所だからさ。」


 ヤマメの言いたいこと―つまりは、封印された者たちにも各々事情があって、深入りしてほしくない。だから、私も詳しくは聞かないよ。

 ・・・ということだ。


「しかし、気ぃ付けなよ、人間。

 私はそこまで人の血肉には興味ない。だが、この先には人間に強い恨みを抱いてたり、積極的に人を食いたい奴等は腐るほどいるよ。

 彼女たちはそのための護衛なんだと推察するけれど、旧都はその数で助かる見込みはないからね。」


 あれ?みんなの言っていたことと違う・・・。

 本当に大丈夫なのか?


 八雲藍の顔色を見ようと振り向こうとした時、すかさずヤマメは話を加えた。


「でも、君は心配いらないようだ。

 直ぐ隣にいる妖怪と肌身放さずついていれば・・・ね。」


 ルーミアはにかりと笑う。


「みんなも言っていたけど、それはどういう意味なんだ?」

「ええっと・・・それを説明するのは難しいよ。私も確信やら何やらを持って話してるわけじゃあないからね。

 でも、妖怪として、彼女に手を出してはならない・・・―いや、違う。手も足も出ない。そんな気がする。」


 みんな同じことを言っているのに、何だか確信めいた言葉がないな・・・。ここまで証人が揃うと、そろそろ結論にも達してもいいはずだろう?

 まあ、その証人の大半たる八雲その他は、"あえて"確信を隠遁している呈はあるが・・・。



 いや、考えても仕方はない。

 確かに色々と考察はできる。が、事実を故意に隠されていては、結局行き着くところは結論ではなく、予想だ。この件に関しては、必要ならば情報の提供がされるだろう。もちろんそれまで俺が生きていればだが。

 今はそれよりも先に進むことだけを考えよう。




「うん?もういくのかい?まあ、ゆっくりしていきな・・・とも言えないけれど。」

「申し訳ありません。」

「謝らなくて大丈夫さ。それでも申し訳ない気持ちがあるなら、帰るときにでも声をかけておくれよ。

 私はしばらく暇してるんだよ。」


 どうせ帰りも同じところを通るのだろうから、俺は構わない。

 八雲藍も否定的な眼差しをしてないところからすると大丈夫そうだ。


「それじゃあ―。」

「はいよ。まあ、楽しんでいきなよ。」




 再び降下する。

 速度を落としてくれているせいか、それとも、案外地底も悪くないところかもしれないと思えてきたせいなのか、今は闇が不快でなくなった。



 しばらく―。

 今度は何かに衝突することなく、底へとついた。地面は凸凹していて、そこに溜まった浅い水溜まりに足を落とす。

 ここからは鍾乳洞の横穴を進んだ。鍾乳石の先からほとり、ほとりと水玉が滴っている。


 すると前方がやけにうすら明るいのに気づいた。


 何だろうと警戒していた俺に、八雲藍は後ろから俺に顔を近づけて囁く。


「旧都に到着いたしました。」





 旧都を初めて見たとき、非常に感動に似た気持ちを味わったのを覚えている。


 平屋ながらも淡い宝石のように輝く家々。遠くからでも分かる、祭りのようなむんとした熱気。そして、暗闇の天井を彩る星屑。

 ―後に聞いたことだ。どうやら天井の星屑は、ヒヒイロカネという鉱石が地上の光を反射して輝いているらしい。伝説の金属がこんなにあること自体も驚きだが、それよりも、その美しさには目を見張るものがあった。



「それでは、麟様。」


 洞穴の出口に至って、八雲藍は足を止めた。


「何でしょうか、藍さん?」


 俺は彼女を瞳をみる。そこには変わらずの微動だにしないタイガーアイの球があった。


「―私はこれで失礼いたします。」


 ええ!

 最後まで案内してくれるんじゃあないのか!?


「案内役は伊吹萃香様でございます。私はあくまで仲介者ということなので。」


 彼女は闇に紛れるように一歩下がった。


「前も申し上げた通り、八雲の者が旧都に近づくのはよろしくありません。紫様の式として来られるのはここまで。以降はそちらに任せます。

 ―心配はありません。大丈夫でございますよ。」


 うーん・・・。

 危険な場所だから、人数は大いに越したことはないような気がする。


 不安そうな俺の顔を見て、萃香が俺の前へたちはだかる。


「私じゃあ不安だってのかい。こう見えても昔は鬼の中の鬼、四天王をやっていたんだがねぇ?今でも地底で逆らう者はそうは居ないよ。

 戦えなくとも、私の一睨みで万事解決さね。」


 どんな鬼畜奉行だ。

 しかしなぁ・・・。


 俺が口を開く前に彼女は業を煮やして、言い寄ってきた。


「おい小僧。色々ケチを着けている様だが、怖じ気づいただけじゃあないのかい?そんなわがままは迷惑だ。

 こっちは別に何もなしで"お前"を守る義理なんざないのよ。八雲の頼みだからやってやってるんだ。」


 俺はたじろいぐ。

 彼女はさらに近寄ってきた。その眉間は岩のように凝り固まっている。


「分かったら、ごちゃごちゃ抜かさずさっさと行けよ、小僧。」



 納得はできないが、抵抗しなかった。

 そして、気まずい気分のまま、言われる通りに旧都へと踏み入れる。

 


 どうも俺は、彼女のことは少し苦手なようだ。いつぞやの上級天狗とは違い、彼女が間違っているとは思わない。むしろこの件に関しては俺が悪い。

 しかし、悪いとはわかっていても、彼女を許容得べかり難きところがあった。これに関しては理屈どうこうではない。本当に気分的な問題だ。


 だが、1つあの件との共通点を挙げるならば高圧的な態度が、あの権僧正に似ているなとは思ったが・・・。

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