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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【朱執事】近朱必赤編
43/65

Ep.43 帰還と幽霊

 紅魔館に帰ると言ったが、さて、その前に一つ話をしようと思う。




 俺は小傘の見送りを受け人里の家を出たところである。


 目の前には十六夜咲夜さんが待っていた。


「お時間を取らせて申し訳ございません。」


 実は咲夜さんがフランを連れて帰るときに、俺の帰る日時を伝えて迎えに来てもらうようにしたのだ。さすがに戦闘能力のない身分では紅魔館までの道のりは危険すぎる。

 まさか咲夜さん本人が迎えに来ていただけるとは思わなかったが。


「構いませんよ。

 お嬢様から指示されたことでもありますので。」


 レミリアの指示か・・・。

 なんだか後々怖そうだ。


「それでは参りましょう、麟。」



 人里を離れて、草原を抜け、林に入る。

 二人寂しく歩いているので、一戦闘ぐらいあるかと思ったが、ここまで遠巻きで妖精を見かけるぐらいだった。


「平和ですね・・・。」


 思わずポロリと呟いてしまった。


「異変でない限りこんなものでございます。」


 無表情で彼女は答える。


 しかし、多分それは妖怪が襲ってこないのではなくて、妖怪が怖れてしまって寄ってこれないだけのような気もする。

 咲夜さんは基本無表情で、加えて生まれつきの青い瞳をさらに冷たくしているので、見方によれば怒っているようにも見える。相乗して紅魔館のメイド長を務めているとなると、下手な殺し屋よりも洗練されているのは確実だ。


「一人でどこにでも行き来できるのは羨ましい限りです。」

「そうですね。

 しかし、用事で外出できる以外に私には利点はありませんが。」


 確かに。ほぼレミリアに付きっきりの彼女には娯楽はない。レミリアと共にいること自体が娯楽だと解釈すれば、さほど問題とすることではないのかもしれないが。



 さらに歩き進む。

 林に入った辺りから同じような景色が続くので少し飽きる心地がしてきた。


「あら、あれは・・・?」


 そう言って彼女が遠くを指差した先には、何やら白いモノがうごうごとしていた。


「妖怪・・・ですかね?」


 こんなところをうろついているモノは大体妖怪だろう。近づくのは吉ではない。・・・お互いに。


 しかし、その意に反して白いモノはこちらに気づいた後に、ものすごいスピードで走ってきた。


「な、なんか来た!」


 咲夜さんが一歩前に進んで、何処からともなく現れて手にしたナイフを構える。


「下がっていてください。迎え撃ちます。」


 そうしている間にもどんどん迫っててきた。先ほどはあんなに離れていたのに、今では人姿がはっきりと理解できる。

 白を基調とした装束のような着物に般若に似たような鬼のお面をした女性だ。


「人間じゃー!食ってやるぅー!」


 しかし、見た目に反して言葉ぶりは何だか人間を襲いなれていない感じが丸出しである。


 咲夜さんはいよいよナイフを投げようとしていた。


「ちょ、ちょっと!投げないで!

 今のはジョーク!ワタシ、敵じゃない!」


 鬼面の女性は慌てて弁明をするが、時すでに遅し。投げられたナイフは見事額に突き刺さった。


「咲夜さん!」

「大丈夫です。よく見てください。」


 女性はわーわー騒いで鬼の面を脱ぎ捨てた。どうやらナイフは上手いこと額手前で止まったようだった。


「あぶなー・・・。お面がなかったら即死だった。」


 面の下は長い黒髪で20代後半の優しそうな顔立ちだった。


「そこの紅魔館のメイドさん、危ないじゃろ!一歩間違ったらあの世逝きじゃった。

 ・・・いや、ワタシ、すでに死んでるんじゃけどね。」


 咲夜さんは新しく取り出したナイフを再び構える。


「それでは幽霊のあなたが何故私達を襲ったのでしょう。」


 女性は着物の裾を払って服を整えた。


「そこの彼から懐かしい匂いがしたから。もしかしたら―・・・と思ってのう。」


 俺?懐かしい匂い?


「あなたは最近、外の世界から来たのですか?」


 女性は首をふる。


「それもそうなんじゃけど、そういうわけではなく、もっとミクロ的な意味合いで故郷の匂いがしたということじゃ。」


 ミクロ的な意味合いで故郷の匂い?


「お前さん、―に住んでおったのではないじゃろうか?」


 ―!?

 今思えば彼女のしゃべり方は古風なのではなく、俺のよく知っている方言であった。

 しかし、実家もそこにあるため、帰る機会はあるのだが、そんなことが匂いでわかったりするのだろうか?


 彼女は垂れた目をさらににっこりとさせる。


「これでも幽霊となって長らくそこに住んでおったからのう。原理の説明はできんけれど、間違いなくお前さんからはそういう"気"がしたんじゃ。」


 外の世界とは約半年以上もご無沙汰しているのによくわかるものだと思った。


「襲ったのは本当にそれだけなのでしょうか?」


 咲夜さんはナイフを納めつつも警戒の色を緩めない。

 すぐ前に危うく額を射ぬかれかけていた女性はたじろぐ。


「い、いやいや!ワタシはそこの彼に頼み事をしたいから話しかけたんじゃ。」

「頼みごと?」


 女性は袖の下から一本の赤い簪を差し出してきた。


「これをワタシの弔われている神社の井戸に投げ込んでほしいんじゃ。この身故にお礼はできないんじゃが・・・。

 お前さん、人助けと思って頼まれてくれんかのう?」

「なるほど。

 ちなみにその神社の名前は?」

「○○神社じゃ。」


 むう。

 そこならば実家からはそう遠くはないが、そもそも現住所と実家はかなりはなれているから簡単には行き来できない。

 いや、それ以前に―


「すみませんが、俺にはできそうにありません。」


 女性は蜘蛛の糸から落とされたような顔をした。

 その頼み事の意味はよくわからないのだが、よほど重要らしい。


「頼まれて・・・くれんのか。

 お礼がないとダメなのじゃろうか?」


 悲しそうにする女性をみて、すぐにフォローする。


「そうではないんです。

 俺自身この世界に飛ばされてきて、複雑な事情で今は帰ることができないのです。

 いや・・・、もしかしたら帰れないかもしれない。」


 なんとなく事情を察したのか、女性は同情の顔をする。


「・・・そうじゃったのか。

 すまん、無理を言ってしもうて。」

「まあ、もし帰れるようだったら、その時は引き受けますよ。」


 女性は少し残念そうに頷いた。


「さて、それでは帰りますか。」


 そう言ったとき、慌てて呼び止めた。


「そう言えば紹介がまだだった!ワタシは"きぬ"じゃ。おきぬとでも呼んでくれ。

 もしよければ、お前さんの名前を聞いてもいいじゃろうか?」


 俺は振り返った。


「俺は冴月麟です。

 現在、紅魔館で執事をしています。」

「麟くんじゃね!

 うむ!こちらも頼みばかりでは申し訳ないし、困ったことがあればワタシの名を呼んでほしい。すぐに駆けつける。こちらに来てからというもの、暇で暇でしょうがないから、3分と待たせんけぇ。」


 まあ、ここはありがとうとでも言っておくべきところだろうな。助けが少なからずあった方がこの幻想郷では安全だからな。


 そして、今度こそ俺たちは館の方に足を伸ばす。




「冴月・・・、紅の執事・・・か。

 なるほど、縁とは知らぬところで繋がっておるのじゃのう。」


 何歩か進んだとき、見送ってくれていたおきぬさんがそのようにぼそりと呟いたような気がしたのは俺の空耳だろう。




「やはりあなたは記憶を失ってなかったのですね。」

「やはりって・・・。フランお嬢様からお聞きになってないのですか?」


 こんな話になったのは紅魔館の門手前あたりまで来たときだった。


「全く。

 それ以前に妹様はご帰宅なされてから一言も口を開いていません。」


 え・・・?


「あのような状況は初めてでございます。ですから、何かあったことはわかりましたが。

 ・・・なるほど、あなたがらみですか。」


 彼女は納得したような言葉を並べているが、その口調は冷ややかだ。軽蔑しているようだと言ってもいいかもしれない。


 しかし、それは俺が甘んじて受けなければならないものだ。それだけのことを俺はした。


「事情を・・・お話します。

 しかし、話をする前に皆を集めていただきたいのですが。」


 彼女は少し考えて、はぁとため息をつきながらも承諾してくれた。




「あ、咲夜さん、執事さん、お帰りでーす!」


 門では紅美鈴が出迎えてくれた。


「ただいま、美鈴。

 用があるからすぐに応接間に来てちょうだい。ここの警備は代わりの妖精を置くから。」

「・・・あ、え?うん?わかりました?」




 いつもの執事服に着替えて間もなく、俺は応接間に向かった。到着した頃には既に皆が集まっていた。


 二つの玉座のかた方にはレミリア・スカーレットが足を組んで座って、もう片方は空席となっている。そして、レミリアに向かい合って立っている俺を囲むように、咲夜さん、美鈴、パチュリ―、小悪魔、そして、妖精たちがいた。


 レミリアは、さてと呼び掛け話題を提す。


「聞いての通りにフランは再び塞ぎこんでしまった。

 この件に関してお前が絡んでいるらしいのだが、何か弁明することはあるか?」


 弁明・・・つまりは後程に沙汰ありということだろう。

 しかし、どうなろうとも俺は話さなくてはならない。



 俺は話す。

 フランの時のように、上白沢の時のように・・・。


「―俺はフランお嬢様に、そして皆さんにずっと嘘をつき続けていました。フランお嬢様はその真実にお怒りになったのです。」


 そして俺は今まで開示されなかった事実を提する。

 衝撃の種である問題を。


「俺は・・・もうすぐ消えることになるかもしれません。」

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