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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【朱執事】近朱必赤編
36/65

Ep.36 レッスン

 一件も落ち着いて再び人里に降りていった次の日のことである。


 フランは今日ここに来る咲夜さんを待って帰ることとなった。




 時間は前後してしまうが、雨がふっていた昨日のことだ。フランと話をした。俺がこの半年と少しの間、どう考えていたか、それについて延々と話した。


「お嬢様、怒っておられますよね・・・。」


 あれ以降彼女は俺から目をそらすようになった。


「うん・・・。」


 返事のわりに彼女はしょんぼりとしている。


 俺は彼女のすぐ前で土下座をする。


「裏切ってしまって申し訳・・・ございませんでした。」


 彼女は目をそらしたまま沈黙をした。

 俺は土下座をし続けた。


 許しをもらおうなど、おこがましい気持ちはなかった。しかし、彼女が何かしらのリアクションを返してくれるまで、ずっとこのままの姿勢でいたかった。そうすることで、如何ばかしかの謝罪の気持ちを受け取ってもらいたかったのだ。


 この日はずっと雨だった。

 瓦を打ち付ける雨のおとが天井から空しく奏でられていて、それが俺の土下座にのしかかる。

 まあ、雨自体もかなり降っているので明日には泥混じりの水溜まりが靴を汚すことになるだろう。

 どんなに降り続いた雨でもいつかは地面を流れていってしまう。できれば俺の罪も流れてほしいが、きっと流れていくのは俺の謝罪の気持ちだろう。


 それからしばらく俺たちはなにも動くことはなかった。




 そして、雨もあがった今日の話に戻る。


 俺は上白沢さんのいる寺子屋に向かうことにした。

 あの事件があったとはいえ、さすがに何も言わずに子どもたちの前から姿を消すのは、いささか大人として配慮の足りない行為である。

 フランとの話し合いでとりあえずあと数日は人里に滞在するつもりなので、その間は教師としての務めを全うしたいと考えていた。


「それではフランお嬢様、いって参ります。

 咲夜さんが来る頃までには帰るつもりなのでお待ちください。紅魔館とは及ばずながら朝食はすでに作ってありますので、気分がよろしければ、お食べください。」

「・・・。」


 布団にくるまっている彼女は、そっぽを向いたまま手を出して小さくふった。


 ・・・まあ、フランなら大丈夫だろう。

 背を向けている彼女を尻目に、引き戸を閉めて家を離れた。



 朝早くの寺子屋の教室はやはりわびしさを感じる。ここが数十分後にはにぎやかさで満ちるのだとは到底思えない。


 俺は廊下を進み支度部屋へと向かう。


 あの事件以来上白沢さんと話していないので、教師としてまた彼女に受け入れてもらえるかということは全くの未知数だった。やはりあれだけ思い詰めていただけあって、俺の「気にしなくていい」という言葉通りにポジティブにはなれていないかもしれない。気まずい雰囲気になって彼女が耐えられなさそうならば、良いと言われても身を引くべきかもしれない。


 支度部屋につくと、まず窓から彼女の様子をうかがった。


 寝ていることはない。きちんと身なりを整え、背筋を正して机に向かっている。

 少なくとも噂通り見た感じは立ち直っているようだ。



 噂、これは人里の話でもあるのだが、主な情報源は多々良小傘である。

 多々良小傘はあの件の後、しばらく天狗の里に滞在していた俺や上白沢さんの代わりに寺子屋の面倒を観ていたそうだ。

 それも彼女からすれば、「先生がいなくなったから安心して驚かせるよー!」と言うことらしい。

 だが、子どもたちやその親らしい人々の井戸端会議を聞く限りには、きちんとまとめていたそうだ。指名手配をされはしたものの、今だに小傘を迫害しようというまとまった動きはない。

 それは、彼女の性格を知っていた人々の間では、妖怪ではあるがかつて寺子屋の生徒だった実は面倒見のいいお姉さんとしての姿は揺るぐことはなかったからだ。


 外の世界では「文字」は絶対的なところがある。具体的には新聞やテレビなどのメディアで流される情報は、真実に対して誠実で確実性があると思う傾向があるということだ。例えそれが根も葉もない意図的な嘘だとしても。それは、人々が愚かだと言ってしまえばそれで終わりなのだが、実情としては確かめる手段がないから起こり得る状態なのだ。インプットされる情報に対して、アウトプットする、つまりは確かめる手立ての方が圧倒的に少ない。だから外の世界ではそのメディアの情報に頼らざるを得ない。文明の進化の弊害の一つとも言えよう。

 しかし、ここでは違った。インプットとしての新聞メディアはサブカルチャーに近い扱いがある。何しろ、主として情報を得る手段は噂もしくは自分の体験で、この閉じられた世界ではそれを確かめるのは案外容易い。


 彼女は、だから、人里に居られた。

 確かに妖怪に対して否定的な人々からすれば迫害する動きをするには絶好の機会なのだが、それもなかった。まあ、あの新聞はサブカルチャー的役割だけであり、その上、小傘を何をやらかしたのかということは全く書かれていなかったのである。

 もしかしたら射名丸文も彼女に対して、悪意があってあんなことをしたのではなかったのかもな。だから、その部分をわざと省いた。そうも考えられる。

 しかし、考えられるからといって、彼女たちがしたことは許されるべきではないし、俺としても許すべきではない。


 とりあえず、小傘に関して言えば一人勝ちだ。



 雑談が長くなったが、噂の話に戻ろう。

 それによれば、上白沢さんがどこかしらに突然消えてしまったが、数日後には何事もなく帰ってきたということだった。


 確かに目の前の彼女は何事もない振る舞いをしているようにも見える。この間のように布団にくるまって、部屋の隅で縮こまってはいない。


 とりあえず、ここにいても始まらないので左手で戸を開けた。


「おはようございます、上白沢さん。」


 彼女は俺の姿を見ると一瞬泣きそうな顔になるが、すぐに元の真面目な表情に戻す。


「・・・おはよう!」



 俺は授業の支度をしながら今後のことに関して話をした。

 後数日はここに滞在し、教師として働かせてほしいということ。小傘についてのこと。俺のこと。

 まずは後数日教師として働かせてほしいという言葉に対して、上白沢さんは残念そうな顔をしていた。


「そうか・・・君ならよき指導者になれると思うのだがな。

 ・・・いや、しかし君にとって一番大事なのは、あの吸血鬼だものな。ならば君は彼女のよき従者になるべきなのだろう。」

「ええ・・・そうですね。」


 口ぶりからすると、少なくとも上白沢さんと共にいることが、彼女の大きな悪影響を与えることはなさそうだ。

 とりあえずはほっとする。


 次に小傘のことだ。

 上白沢さんは彼女に対してどうアプローチをしたかを聞きたかった。


「―ああ、処罰どおりに持ち主にった。

 しかし、多々良としても嫌な風ではなかったらしい。まあ、君の名前を出したからかもしれないがな。」



 事件が終結した後のことだ。

 彼女が妖怪の山から帰ってきたとき、多々良小傘は教室でうたた寝をしていたそうだ。

 上白沢さんが声をかけると、ビクッとして起きた。


「先生・・・帰ってきたんだね。」

「ああ。」

「話は聞いたよ。」

「・・・そうだな。」

「・・・。」


 彼女は微妙な面持ちで話をしていたらしい。

 彼女は小傘に謝罪をした。それから、俺に言われた命令について話した。


「そっか。

 あの人はちゃんと生き返ったんだね。

 ・・・よかった。」


 小傘はぼそぼそとつぶやく。


「それで多々良、さっき言ったように私の持ち物になってほしい。」


 彼女は頭を下げる上白沢さんをしばらく睨んでいた。

 しかし、その後ふうと息を吐いてやれやれと言った。


「先生のやったことはともかく、持ち主を見つけられたことは嬉しいね。それについてはこちらからもお願いするよ。」



 多々良小傘は上白沢慧音の持ち物になった。それについて彼女が渋らなかったことは、嬉しいことだった。


 最後に俺のことだ。

 まず彼女が気にしたことは左腕のことである。


「その左腕は・・・?」


 彼女が不思議に思うことは分かる。

 なぜなら俺についている左腕はちゃんと動くし、先程も戸を開ることもできた。


「これは八雲紫の秘術です。」


 どこぞのナメック星人ではあるまいし、勝手に腕が生えることはない。

 実は八雲紫の"お願い"を聞いた後、俺は彼女の秘術を受けたのだ。

 その詳細については外の世界の常識に染まっている俺の理解するところではない。しかし、彼女の取り出した何やら赤い墨でつらつらと文字が書かれている包帯が腕だったところに巻かれると、奇妙なことに腕の形に成っていったという事実だけは確認できた。

 彼女の話ではその布は"あるべきものの形を復元する能力"を持っているらしい。

 損害で失ったものを物理的に再現させる布、それのお陰で不便になるだろうと予想されていたことをに関して苦悩する必要はなくなった。


 つまり彼女が見ている左腕は偽物の血の通っていないただの布なのだ。


「なるほど。

 左腕は失ってしまったままのだな・・・。」


 彼女はまた泣きそうな顔をする。


「そんな顔をしてはいけません。厳しいかもしれませんが、それだと俺が課したことに反してしまいますよ。

 それより何より笑顔である方が、あなたらしいと思います。」


 俺はあわてて取り繕った。

 確かにこれは彼女にも責任の一端はあるのだが、そればかりを彼女に追及しても何ら意味はない。

 そもそもそういう理由で俺は彼女たちには"変わらず生きてほしい"と言ったのだ。ここで彼女に何らかのネガティブなアクションを起こさせるのは、処遇に逆らうことである。言い渡した本人としては、厳しいようだがそうはさせるつもりがない。


「そう・・・だったな。」


 彼女は見ていられないという悲しい瞳で、無理に笑顔を作って、俺に見せた。


「まあ、でもこの腕もわりと使いやすいですよ。感覚としては元と同じですし。

 不便を挙げるとするならば、お風呂に行った後に巻き直さないといけない点ぐらいですね。」

「なるほど。」


 しかし、包帯だらけの腕ではなく、腕のような包帯をこうして曲げたり伸ばしたりしてみると、どこかの仙人を思い出す。確かあちらは右腕だったかな。

 右腕の俺としては、腕を失ったことは良くないことではあるが、右腕ではなく左腕を失ったことに関してはまあ良かったと思う。


「・・・そういえば、赤いもんぺの女の子に会いましたか?」


 実は紅妹のことも気になっていた。何せ俺は小傘のことを任せっきりで行方不明になってしまったのだ。だから、ずっと俺のかわりに面倒を見てもらっていた状態になってしまい、さらには彼女を天狗の里に運んで行ったのも紅妹だった。

 この件に関しては、俺から感謝すべき点である。もし上白沢さんが定期的にコンタクトしているなら、それに便乗して彼女の下へ行き、お礼をすべきだと思った。


 上白沢さんはと言うと、もんぺと聞いて顔が少し明るくなっている。ずいぶんとお気に入りの相手らしい。


「ああ、紅妹のことか!

 ・・・いや、しかし私はしばらくまともに彼女に会っていないな。この間も恥ずかしい話だが、自己嫌悪に陥ってそれどころではなかったから。」

「近々会いに行ったりしますか?」


 彼女は目を閉じて、ひとつうんと唸った後に答える。


「今夜あたり行ってみよう。

 小傘の面倒を見てくれたらしいからな。」

「俺もついていって大丈夫ですか?感謝すべきとすると、そもそも頼んだのは俺なので。」


 その言葉ににこりとした。

 

「うむ。ならば仕事を終えたらここにいるといい。

 帰ってからまた来るのは大義だろう?」

「ああ、それに関してですが・・・―」


 さて、俺は仕事を一通り終えた後にもしなければならないことがあった。

 もちろんフランを咲夜さんに連れて帰ってもらうようにするということも一つではある。

 しかし、それよりも重要なことがある。それは、八雲の修行であった。

 彼女のお願いを聞く前に、提案されていたのを覚えているだろうか?俺の能力が無意識に発動してしまわないように、逆に使いたいときだけ過不足なく使えるようにするための特訓だ。

 何をするかの詳細は文字通りの゛サプライズ゛らしいのだが、とりあえず人里にいる期間は毎日仕事終わりに行うことになったのだ。


「なるほど。どちらにせよしばらくはここにいなければならないのだな。」

「まあ、それもフランお嬢様を送ってからですがね。

 それからしばらくはここに―。」

「ふむ、都合としては双方良しと言った具合か。」



 連絡事項も一通り終えて本日は歴史の授業だ。

 この授業は上白沢さんの担当なのだが、その補助役の副担当として教室の一番後ろの席に座る。


「おはよう、みんな。

 用事で離れていたが、彼がまた先生として帰ってきてくれた。またしばらく私と一緒にみんなに授業をする。

 よろしく頼んだ。」


 彼女の紹介に一同が振り向く。

 その中には、なぜだかまだ西行寺ゆゆこと名乗っている八雲藍がいた。


「改めまして冴月麟です。

 しばらくまたお世話になります。」


 元気な返事が返ってきた。

 よかった。そこまで悪くは思われていないようだ。


「さて、今日も歴史の授業だ!」



 彼女の授業は実に個性的だった。

 俺たち外の世界では大体が編年体の方式で歴史を学んでいくが、対してここでは紀伝体を採っていた。

 それも個性的だが、また、その内容についても面白い。

 主に取り扱うのが中国史、もしくは、日本史なのは、その資料の方が多く持ち合わせているからであろう。しかし、彼女の話には資料にないものがある。それは実際に見て聞いて感じたものだった。百聞は一見にしかず、聞いて極楽見て地獄とも云うように、彼女の歴史は記されたものではなく、身に受けたものだった。もちろん全史を体験した訳ではなく、話ぶりからすると200年~300年がいいところだろうが、俺からすれば、いや、ただの人間からすればそれは十分に゛歴史゛だった。生の喜び、死の恐怖それらを何世代分も人と共によって見てきたのだ。

 まるで、昨日起きたかのように話す彼女に聞き魅る。



 約2時間後、適当なところで切り上げて授業は終了した。


「さすがですね。俺みたいな若輩者とは格が違います。」

「褒めてくれるのは嬉しいが、やめてくれよ。それだと私がおばあさんみたいじゃないか。」


 彼女はほほを膨らせる。


「申し訳ありません。」

「まあ、確かに君以上に長くは生きているからおばあさんでもおかしくはないか。」

「ならば、お姉さんでどうでしょう。」


 彼女は、あははと笑った。

 どうもツボにはまったようだ。


「見た目は君の方が上のような気がするのにな。私がお姉さんか、面白いな!」


 少し赤くなって笑う彼女につられて、俺もくすりと笑った。



 しばし後片付けをしていれば、もう太陽が真上に登っていた。


「そろそろフランお嬢様をお迎えしにいこうと思います。」

「ああ、ではまた後で。」



 自宅に帰ってみれば、フランと小傘がお茶をしていた。小傘の側には、茄子のような傘が横たわっていた。それは汚れたところも壊れたところも無さそうだった。


「フランお嬢様、小傘、ただいま戻りました。」

「あ、お疲れさまー!私も元気になったけど、君も元気になったんだね!」


 これまで何もなかったかのようにハツラツな笑顔で小傘が迎えてくれた。

 それに対して、フランはまだ怒っているようだった。


「・・・おかえり。」


 彼女は睨むようにこちらを一瞥する。


「フランお嬢様、間もなく咲夜さんが参ります。お嬢様は彼女と共に―」


 フランは言葉を遮る。


「ええ、帰るわ。」


 それだけを言って立ち上がった。


「そっか、フランちゃんはこのまままう帰っちゃうんだね。」


 小傘は名残惜しそうな顔をしてお茶をすする。


「うん・・・。でも、また来ると思うから、多分。」


 そう言って靴を履く。


「それじゃあ、バイバイ。」


 去っていくフランの後ろ姿をじっと見送っていた小傘は、突然思い出したように駆けてきた。


「そうそう!フランちゃんにこれ!」


 フランの前に立つと赤く波打つ指輪を手渡した。


「・・・きれい!」

「でしょう?それはね、今じゃあもう失われた技術で作られた特製の指輪なんだ!さすが私!天才、最強!!

 ―で、それは大切に使ってね、・・・きっと大丈夫だから。」


 その後ちょうどよく咲夜さんがやって来た。一通り事情を説明し終えたら、彼女は二つ返事で買い物をさっさと済ませてフランを迎えに来た。

 帰り際を眺めていると、フランは小さな贈り物を握りしめて気持ち良さそうに荷台に揺られているのがよくわかった。



 フランの姿が見えなくなるまで見送ってすぐ、俺は紅妹へのお礼の品を買って寺子屋に向かう。


「おかえりなさい。」


 そこには八雲藍と上白沢さんがいた。

 彼女がまだいる意図が、俺の観察だろうということはなんとなくわかった。しかし、意図がわかったところで、正直やっぱり彼女のことは苦手だ。

 まずは上白沢さんが一歩前に出る


「うむ。話は聞かせてもらったぞ。まさか君も能力持ちとは・・・。」

「ええ、俺も最近知ってビックリしています。」

「そうか。でな、実は私たちも能力持ちなんだ。」


 そういえば・・・そうだったな。


「私の能力は"歴史を食べる程度の能力"だ。そして、西行寺―・・・いや、八雲藍の能力は―」


 次に藍が近づく。

 子どもの姿のままだが、やはり八雲の者らしい。その証にどの人間や妖怪にはない"何か"を持っていた。


「わたくしの能力は、"式神を操る程度の能力"です。」


 式神、か。

 自身も式神なのに、そこからさらに式神を操るというのは、まるで中間管理職のような能力だ。

 いやでも、確か式神を操るというのは、パソコンにソフトウェアをダウンロードするようなものだという話があったと思う。だとすると、算術や計算といったことに長けている能力だとも解釈できるな。


「・・・しかし、あなたの能力は他に例を見ない類いのものですね。それも予想以上に厄介です。」


 厄介だな、確実に。

 特に知らない内にまわりを変えてしまう可能性があるのが恐ろしい。


 八雲藍はおぼろげな表情になる。何やら俺の考えていることとは別の考えも持っているらしい。


「・・・まさかこれが第三の原理の能力なのか?

 紫様はもしかして、全てを知っていてあんな話を・・・?」


 その末に、独り言を呟く。


「うん?藍さん・・・?

 紫さんがどうしたんですか?」


 すかさずその表情を解いて、何事もなかったように取り繕った。


「いえいえ、なんでもありません。

 紫様が以前話されていたことを思い出しただけです。」

「・・・・なるほど。」

「それはさて置き、あなたも来ましたし、それでは修行をさせてもらいましょう。

 紫様はしばらくお忙しいので、わたくしが担当させていただきますが。」


 側で観察していた上白沢さんが話を聞いて疑問を提す。


「修行については麟から聞いたのだが、実際はここで何をするつもりだ。

 少なくとも破壊的な行為ではなさそうだが?」


 ここは上白沢さんの自宅も兼ねている寺子屋だ。それ以前に人里にいるときは危険行為はご法度である。

 そんなことは八雲の姓を持つものなら言わずもがなだろうが。


「もちろんです。

 あなたに受けてもらう最初の修行は、"能力を的確に把握する"ことですから。

 簡単にいってしまえば座学です。」


 まあ、こちらとしても飛ぶことすらできない身の上で、弾幕ごっこやら実力戦闘やらは不可能だ。

 それに俺の能力についてはまだまだ理解していない点も大いにあるからな。


 上白沢さんはなるほどと一つ言葉を漏らして、それから尋ねる。


「私も参加していいか?彼の能力については少し興味がある。」


 それに対して、八雲藍はにこりとした。


「ああ、それは構わない。ただ彼の能力については他言無用でお願いしたい。

 変に悪用されても困るからな。」

「わかった。」



 さて、勉強の始まりだ。


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