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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【朱執事】近朱必赤編
33/65

Ep.33 罪と罰

 俺が目覚めてから今日で4日目。

 復活した最初に感じていた体の痛熱さももうほとんどない。


「ずいぶん動けるようになったわね!」


 動けるようにはなったが、傷や毒の影響ですぐには歩けなかった。そんな俺のリハビリに付き合ってくれているのはフランである。


「ええ、ありがとうございます。まさかお嬢様に付きっきりで看護していただくなんて。」

「それは言わないで!これは私が決めた償いなんだから。」

「フランお嬢様・・・。」


 また、俺は昨日やっとまともに話せるようになった。これまで当たり前のように使ってきた言語という意思疏通の手段がこれほどまでに便利だと感じた時期はない。


 天魔殿の枯山水の庭までくる。

 小石で作られた水跡はまるで生きているように躍動感があった。

 それに、連行されているときはわからなかったけれど、妖怪の山というのも風情があって美しかった。紅葉して赤く染まった葉っぱたちの落ちていくロンドは、生物学的な命の終わりよりも精神的な命の営みを感じさせる。


 しばらくそんな風景に感極まりながら、フランと廊下をゆっくりと下っていく。

 庭も終わり、その突き当たりを曲がった先には、天魔様がいた。


「天魔様・・・。」


 彼は手を横にふる。


「畏まらないでください。それと、わたくしのことは気軽に鞍馬とお呼びくださいませ。少なくもとあなた方にはそう呼んでいただきたい。」

「わかりました、鞍馬さん。」


 さらっと流しているが、鞍馬の大天狗というとあの有名な伝説を思い浮かべるのだが、果たして同一人物なのだろうか?

 ・・・まあ、同一人物だとしてそれがどうしたということもない。


「おじい様、どうかしたの?」

「はい。あなたの執事さんは容態も安定し、元気を取り戻していると見受けられます。ですので、よろしければそろそろ彼女たちの処遇を思案されては如何かと提案させていただきに参りました。」


 フランの話を聞いた限りの結末。

 それは、白三根権僧正という天狗の消滅と、今回の共犯者の処罰を俺たちに一任するということだった。


「わかりました。決断は早い方が、彼女たちも楽になれますからね。フランお嬢様もよろしいですか?」

「うん。あなたが良ければ。」


 鞍馬さんは頷く。


「では、わたくしについて来てくださいませ。」



 天魔殿は紅魔館並みにかなり広いが、その実迷い難くはない構造をしている。左右対称の寝殿造で、個室がいくらかある以外の部屋は、基本的に会議や緊急事態に備えての大部屋となっているという。要は広くはあるが、紅魔館みたく複雑で細分化された作りではないのである。


 さて、今回の処遇を定める部屋もその大部屋の一つであった。案内されて中に入ると裁判所のような形にセッティングされていて、そこには既に射名丸文、白狼天狗の3人、上白沢慧音がいた。

 後もう一人、見上げるほどに巨大な体で、いかにも天狗らしい天狗が彼女たちの向かいに座っていた。鞍馬さんの言だが、彼は鞍馬さんの補佐官で、今回の処遇の見届け人であるそうだ。


「そなたたちが、フランドール・スカーレットとその執事であるな?」

「はい。」

「では、私から向かって左側の席に着きなさい。」


 俺たちは言われる通りの場所につく。

 それに対して鞍馬さんは、向かいの、射名丸文の右隣に座る。


「質問よろしいですか、鞍馬さん。

 なんでそちら側に座るのでしょうか?それだとまるで、あなたも処遇を受けるみたいでは・・・?」


 彼は挙手をする。

 見届け人の天狗はそれに対して発言の許可をした。


「わたくしは以前から白三根権僧正の不穏な動きに気づいていました。しかし、その実態がつかめず、結果八雲紫への謀反を図ってるのが判明するのが遅くなり、さらには実害としてあなた方に重体を負わてしまいました。

 わたくしがこちら側に座っているのは、天狗の指導者として力不足のためでございます。」


 なるほど。


 今度は見届け人の天狗に尋ねる。


「これって、お咎めなしというのはアリなんですか?」


 彼は大きな目をさらに見開く。驚いている風だった。

 しかし、答えは・・・。


「なりませぬ。

 元々天狗の里というのは人里との積極的な関わりを禁じてきた。しかし、人里に住んでいる住人に無用な危害まで及ぼす事件にまで発展した。だから、ここの者たちは罰を受けるのは当然の罪を犯しているのだ。また逆にそれだけの覚悟を持ってここに望んでおられる。

 天狗の誇りとしても無処罰はなりませぬ。」



 さてここでシンキングタイムだ。

 ここに来る前にフランから今回の処遇について、主には俺が決めてほしいと申し出があった。小傘もそういう風にするよう言い残して立ち去ったそうだ。そのため、全員の処遇の決定権は俺にある。


 まず、それぞれの状況を整理しよう。

 一人目、鞍馬さんだ。

 彼のことは先ほど自身で述べた通りだろう。さすがに罰を与えるとしても、彼をどうこうしようとは思えない。

 恐らく彼としても自身がどうこうされるというよりも、天狗全体からの罪滅ぼしとしての償いを望んでいるのではないか?

 次に、二人目、三人目、四人目は白狼天狗たちだ。

 白三根権僧正の部下であり、俺を痛め付けた下手人である。彼女たちは指示通りに動かされていただけではあるが、こちらとしては散々なぶられたことへの恨みはある。さすがに片腕を切り落とされたことは到底許すべきではない。

 しかし、彼女たちの中には犬走椛がいる。今後博麗の物語に関与していく彼女を極刑とするのは、問題が少なからずありそうだ。それとの兼ね合いも見つつ、他の2人の天狗のことも考えなくてはならない。

 そして、五人目、射名丸文である。

 白狼天狗と同じく権僧正の部下で、今回主に動いていた人物だ。まさかネタさがしのついでで、ありもしない疑いをかけられるようになるとは思いもしなかったが。そのせいで、無関係な小傘を襲い、無関係だったはずの上白沢さんは共犯者になってしまった。

 ここの誰に一番罪らしい罪があるのかと問われれば、状況からして満場一致で射名丸文になるだろう。まさに罪の独壇場である。しかし、犬走椛と同じく、いや、彼女こそ今後必要となってくるのだった。そうなると、やはり、軽はずみに罰は決められない。

 最後に上白沢慧音さんだ。

 人里のためにとは言えども、まさか俺や小傘が差し出されるとは思いもしなかった。そうしなければならない状況であったのは理解できるが、できれば何かしらの相談をして欲しかったものだ。だから、正直彼女には失望しなかった訳でもない。

 しかし、やはり彼女にも立場を揺るがすような形の結末を用意することは出来ない。これは博麗の物語云々ではなく、人里の守護者たる彼女を思ってである。きっと彼女は人里に必要なのだ。例えば、今彼女を殺したとして、今後人里は誰が前衛で守ってやれる?住んでいる妖怪は立場として前にでにくいし、そして、聖白蓮という、人里の重鎮となっていく人物もまだいない。俺を含めて、人間としての役目を持つ人物は一人として人里全体の守護者には慣れない。


 次にどうするか考える。

 八方よろしく大団円とまではいかなくとも、今後に角を立てないようにしなくては・・・。


「・・・フランお嬢様はどうなさりたいですか?」


 彼女は申し訳なさそうに答える。


「えっとね、うーんとね?

 私ならね・・・おじい様以外、みんなオモチャにして殺したい!」


 オモチャにして殺す・・・恐っ!!

 猟奇的すぎる!どんな殺人鬼だ!?

 SAWなのかー、ってか!?



 ・・・いや。冗談はともかく、それは違うな。

 落ち着いて考えるとそれも選択肢には加えなくてはならない。こんな発言をするフランドールは狂っているのでも、過激でもないのだ。

 逆にあんなことをされてまで、彼女たちのことを理性的にかばおうとする俺の方が異常かもしれない。


 悩んでいる俺の姿をじっと見ていた見届け人は付け加える。


「処罰は一つと限らなくてよい。

 何なら後日付け加えても構わんのだぞ。」


 なるほど。

 何でもいくつでもいつでも言うことは聞きます、と言うことか。

 どこかの世界のアララ・・・さんには言ってはいけないワードだな。



 それから小一時間、息をつかずに考えた。

 俺の気持ちと彼女たちの未来。天秤にかけて、何度も何度も比べた。

 その間、みんなもフランも何も主張することはなく、ただただじっと俺の答えを待っていた。


 そして、ようやく結論を導き出すことに成功した。

 すぐに見届け人に決まったという旨を伝える。


「それでは、彼から皆の処遇を与える。

 では・・・―」


 俺は立ち上がって前に出る。


「まず、白狼天狗の3人だ。」


 彼女たちは何ともないよう装っているが目が怯えていた。

 大丈夫だ。俺は誰の望む結果にもしてやれない。俺は俺の結果を望むだけだ。


「・・・俺の好きなときに尻尾をもふもふさせてくれ。」


 一同衝撃が走った。

 ・・・というよりも、空気が凍りつく。


 すかさず、見届け人の天狗がフォローする。


「お主、そんな処遇でよいのか!?こやつらはそなたを痛め付けて、さらには腕を失わせたのだぞ!?同じ目以上の刑に処すことが、常ではないか?」


 俺は彼に向かう。

 彼の言っていることも正しかったが、結論は変わることはない。


「俺は至って真面目に考えている。

 だからこそだ。

 だからこそ、目には目を歯には歯を、という結論にはしたらいけない。同じように痛め付けて、何が残る?俺は虚しさしか残らないと思う。そんなことよりも、この処罰が彼女たちの罪に見会うだけの価値はあると俺は思う。

 だって、尻尾や羽は天狗の誇りではないのか?そこまで輝くように綺麗に手入れをしているんだから、よっぽどプライドを持っているのではないか?

 少なくともここに連れてこられる間に触ってもいいかと問うたら、ものすごい殺気を向けてくるほどの代物なのだろう?

 それをもふもふすることほど、至極俺が幸せを手に入れる方法はない。

 まあ、もしも罰が足りないようなら後で追加しておくさ。紅魔館の警備の手伝いとか、な。」


 次に射名丸文の前に立つ。


「次にお前だ。

 お前はこれから清く正しい新聞記者を名乗るんだ。

 そもそも、新聞記者が上司の話を聞いて、悪事だと思うことに協力してどうする?

 そんなのだったらいつまでたっても面白い記事なんて書けやしない。新聞を書くときはな、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。

 少なくとも小傘を狙った新聞には、題材にも書かれている内容にもどこにも救われる要素も面白い要素もなかった。あれなら、子どもの下手くそな作文の方がよっぽど人を救うし、面白い。」


 彼女は、ハッとして俺を見上げる。


「後お前にはもう一つ罰を課す。

 ・・・紅魔館にも新聞を配ってくれ。フランお嬢様は普段外出なされない。今回は特別なんだ。それでも、外のことはこれからもっと知っていかないといけない。お前にはその手助けをしてもらう。

 いいな?」


 そして、上白沢慧音さんに向かう。

 彼女はかなり憔悴しきっていた。ほとんどここで出されたご飯に口をつけていないらしい。人里のため脅されていたとは言え、それでも、俺たちを売ったことへの罪悪感で押し潰されそうになっていた。

 彼女は真面目そうだから、こんなことになってしまった責任を逃すことなく背負いこんでいるのだろう。


「・・・こんな甘い仕打ちなんて要らない。もう、いっそ・・・。」


 殺してくれとでも言うのだろうか?

 だが、上白沢さん・・・それは逃げなんだ。

 死ぬことで目の前の罪からは逃れられるけれど、その罰と、罪に見会うだけ向き合ったのだということとは等しくない。

 そう考えると、もしかしたら、俺は誰よりも彼女に一番の罰を与えることになるのかも知れない。しかし、その臆測に心を揺るがされることはない。彼女もまごうことなく加害者だったからである。


「上白沢さん、小傘の所有者になってやってくれ。

 あいつはあいつで元気なふりをしていて、実は寂しがっている。あいつの昔語りを聞いてそう思ったんだ。だから、体面上でいいから所有者になってほしい。

 もちろん、あいつが上白沢さんのことをあまり好いている訳ではないのは知っているから、さらに嫌われることになるかもしれない。だから、嫌われてほしい、と言い換えることもできる。

 これはあなたにしかできない。

 これが俺の出した罰だ。」


 彼女は死んだような目をする。


「それに、あなたには気と威勢がいいもんぺの友人がいるみたいですから。

 彼女、あなたのことをすごく大切に思っているのではないですか?それなのにここで死んでしまったら彼女は悲しんでしまいます。

 あなたがしなければならないことはここで逃げることではなく、人里の守護者として多々良小傘を所有し、また元気に先生としてご教授することです。」


 もんぺの友人と聞いて、彼女の目に少し暖かな灯がともる。

 それでよかった。

 罪悪感がなければ、誰だって進んで死にたいとは思わないだろう。偉大な聖獣のハクタクを身に宿しながら人間であり続ける彼女が罪悪感に責任を押し付ける様を俺が見とどけるよりかは、このことを心に留めていつまでも道を示し続けることを願った。



「さて、最後に鞍馬さんですね。」


 鞍馬さんはにっこりと笑う。


「鞍馬さんには3つのことを言います。

 1つは今、直属の上司を失った天狗たちに関してです。射名丸文と犬走椛を初めとする天狗4人を同待遇のまま、あなた直属にしてください。これまで見てきた限り、彼女たちならきっとこれから゛うまく゛やってくれますから。」


 彼女たちをちらりと見る。

 対面した現実が受けきれないという顔をしている。


「そして、2つ目は・・・フランお嬢様の友達になってください。」

「あなた、それは・・・!?」


 フランが口をあんぐりと開ける。


「先ほど言ったようにずっと外出なさっていません。だから必然的に交友関係の幅も狭いのです。

 だから・・・。」


 フランは顔を真っ赤にしてふてくされる。


「そんなこと今言わなくてもいいじゃないのよ!

 ・・・まあ、でもおじい様は優しいし、ここは綺麗だから、たまには遊びにきたい・・・かな?」


 鞍馬さんは微笑みで答える。


「最後の3つ目は、フランや俺が遊びに来たときはここに入れてほしいということです。

 以上です。」

「・・・相承知いたしました。」


 深々と頭を下げる。

 鞍馬さんの言動は一々が丁寧過ぎたが、それでも嫌みなど微塵も思わせない純粋に極められたそれであった。これが、有能な天狗の中でもさらに頭一つ飛び抜けている所以なのだろう。

 以前に彼から治療を受けていたときに、彼のことを聞いた。すると、自身の妖力はさほど強大ではないと言う。確かに天狗の中では一番かもしれないけれど、それでも他の者たちと格段に違うわけでもないとも語っていた。強大な力を持つというのであれば、かつてこの山を支配していた鬼という種族には全く敵わなかったらしい。

 俺が推測するに、鬼がとある事情で山を去っていってから鞍馬さんが天魔としてここの長に薦められたのは、きっと力ではなく、他人を穏やかにすることができる、字面には表現しにくいオーラをもっているからなのだろう。大抵の人間にも、妖怪にもそれは真似が出来ない。別次元の能力のベクトルが飛び出ているのである。


「・・・ああ、それと今回の件に関わった皆さんにもう一つ。」


 最後に俺は重要なことをつけ加える。

 これを言わなければ、これまで言っていた処罰は逆に働いてしまう。だから、忘れてはいけない。


「今回の件に関わったことで、みんなが何かを失ってしまいました。それは、もう取り返しはつきません。

 嘆いたって天狗たちの失態もなかったことにもできませんし、俺や小傘が上白沢さんに失望したという事実も変わりません。ましてや、俺の左腕は・・・。

 ・・・でも、これまでと変わらずに生きてください。

 確かに白三根権僧正という天狗はいなくなってしまったけれど、それでも残ったみんなだけは゛生きて゛ください。」



 これにて完結。

 めでたしめでたしである。

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