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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】気息奄編
26/65

Ep.26 弁え

「何をなさっているのですか!お嬢様方!」


 自分でも珍しいと思えるほどに声を荒げて叫ぶ。

 上白沢さんも止めに入ろうとはしているが、たじろぐことを強いられていた。

 しかし、両者とも一向に引く気配はない。

 中心からは少しばかし離れているとは言え大通には違いないのだが、彼女たちの威圧感に圧されて静まり返っている。人が蒸発したようだった。


 これはまずい。

 霊夢にでも知られたら何をされることやら。


「あなたもいらっしゃいましたか。」


 場違いなほどに冷静な声の持ち主は咲夜さんだった。


「咲夜さん!これどうしましょう・・・。」


 しばらく考えたふうだったが、とんでもないことを彼女は言った。


「しばらく様子見をいたしましょう。」


 様子見って・・・。この次ぎにどんなことが起こるかわからないのによく冷静でいられるなと思った。


「それとも、あなたが体をはって止めに入りますか?どう転んでも無駄だとは思いますが。」

「それは・・・。」


 無理だ。結局は弾かれておしまいである。


「大丈夫ですよ。」

「どう見ても嫌な予感しかしませんが。」


 彼女はくすりと笑う。こんな状況てよくもこう落ち着けるものだ。主のことが心配ではないのだろうか?


「大丈夫。お嬢様方はあのお姿でもその部分は自身で弁えてますよ。

 ・・・いえ、フランお嬢様についてはあなたの功のおかげですね。」


 彼女は優しい口調で言う。まるで子ども同士の喧嘩を見守る母親だった。


 なるほど。そこまで言うならそうなのだろう。

 もちろんどうにもしていられない気持ちが払拭されたわけではないが、俺のちからでは拭えないのは明らかであるのは確かだ。



 そうしている間にフランはレミリアに迫っていた。


「お姉様、私はお外にでたいの!ここまでも一人で来れたし、問題も起こしてない!なのにどうして許してくれないの!?」


 レミリアは無言のまま怒りの表情を固めている。


「答えなさいよ!」


 フランドールは右手を卵でも潰すかのように握った。

 その瞬間、レミリアの頭部が吹き飛ぶ。

 そして、吹き飛んだ瞬間霧にでもなったように残骸が蒸発し、彼女の頭部が巻き戻されたように再生する。


 この異常な光景にはさすがの上白沢さんでもゾッとして後ろに引く。


「咲夜さん、やっぱりまずいですよ。これ以上は・・・―」

「フランお嬢様が人里に来られなくなる、でしょう?」


 当たり前だ。

 こんなことをしていたら悪意の有無の関係なく、二度とここには顔を出せなくなる。何せ力を持っていることを誇示すること、イコール、いつでも人を殺せると示しているからだ。特に妖怪、さらには夜の王たる吸血鬼ならなおさら。


「別に私といたしましても、レミリアお嬢様も、もしかしたら、フランお嬢様としてもよろしいことではありませんか?」

「咲夜さん・・・それはどういう!?」


 いいかけてハッとする。


 ・・・そうだった。

 彼女たちは妖怪なのだ。

 妖怪だということは、正しく人間ではない。どんなに歩み寄ろうとも平行線のままなのだ。

 例えば、八雲紫。

 彼女は人と妖怪がともに生きる世界を実現させた。でも、それは人と妖怪とが仲良く平和に暮らすということではなく、人も妖怪もどちらとも淘汰されないということなのだ。

 人は妖怪を恐れ、妖怪は人を襲う。

 不覚にも「知っていたはずの知識」を忘れてしまっていた。


 人間の目を気にするよりも、紅魔館の主の行く末を見守る方が大切。

 咲夜さんはこういう主張なのだ。


「妖怪にとって人間へのしたしみを持つことは、つまるところ人間からの恐怖によるしがらみを失うことになるのです。それでは妖怪としての意義を失ってしまいます。」

「じゃあ、俺や咲夜さんは・・・!」

「あなたのことは知りませんが、私は人間でありながらスカーレット家に忠誠を誓いました。

だから、私の命はスカーレット家のもの、人間でありながら人間としてのしがらみを捨てたのです。だから、不必要に人里とは関わっていません。」


 こうしている間にもフランは自身の思いをレミリアにぶつけている。


「逆にあなたはスカーレット家に囚われているだけです。だから、あなたは紅魔館の人物であり、私たちの許す範囲で人里と関われる・・・。」


 そして、冷淡に、冷徹に、冷酷に続ける。


「しかし、フランお嬢様はそうはならないのです。

 人と深く関われば関わるだけ、妖怪としての意義を失ってしまう。レミリアお嬢様が心配なされていることは、色々おっしゃってはいましたが、その根幹としてフランお嬢様の身の上のことであるのはあなたもご存知でしょう?」


 そんなの・・・、そんなことはわかっている。


「特にあなたのおかげで妹様はずいぶん明るくおなりになりました。しかし、その分妖怪の意義について弁えておられないことがより明るみに出ました。」

「弁えてない内は危険だと・・・そういうことですか?」

「そういうことでございます。」


 俺からしたらどうしても納得いかない部分はある。

 でも、納得しなければならなかった。レミリアのことを思うと、フランの幸せを願うなら・・・。



 思いのまま息をためる。


「やめろ!フラン!!」


 空気が固まる。

 フランはレミリアの「目」を潰そうとした手を止めた。


「・・・もう、やめるんだ。」


 フランは信じられないと言いたそうな顔をする。

 レミリアも予想外だった風に目を見開いている。





 結果から言って、どうやらフランを止めることはできたようだ。あまり穏便な方法だったとは思わない。少なくとも彼女を傷つけたのは確かだった。

 しばらくして、今まで口を閉ざしていたレミリアが


「帰りましょう?」


 優しい口調でフランに呼び掛けた。

 フランはなにも答えない。でも、もう抗う気持ちは持ち合わせてなかったのだろう。その場から去って行くレミリアの後ろを自ずからついていっていた。

 そして、彼女は紅魔館に帰ることとなった。


 でも、俺が止めたことがあまりにも信じられなかったのか、そのことに失望したのか、その後も脱け殻のような顔をして咲夜さんの引く荷台に揺られて人里から離れていった。


「これでよかったのかな?」


 始終見ていた小傘に問う。


「さあ・・・わからないよ。

 私は唐笠といっても出自は付加神だから。人に使われなければこうなれなかったから、私の場合は逆に人との関わりのなかで妖怪としての意義をみいだしているよ。そこが彼女たちと違うところかな?

 それでもあえて言うならば、これでよかったんだよ。彼女の将来を思うならね。」

「小傘・・・。」

「そもそも君のやったことは正しいか間違っているかなんて二分した言い方なんてできない。」


 小柄な彼女は傘を翻す。


「君は従者としての役目を果たしたんだよ。」


 もう、後ろのほうでは籠っていた戸を開ける音がしていた。

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