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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】気息奄編
25/65

Ep.25 傘と寺子屋

「あ、小傘おねーちゃんだ!」

「ほんとだ!茄子のお姉さん!」


 小傘の姿を見た瞬間に子どもたちは一気にあつまってくる。それに対して彼女は、「おどろけー!」とかやっている。ここまで来ると小傘のおどろけという言葉も挨拶のようなものに思えてきた。

 なんかもう、小傘がもみくちゃにされているようにしか見えない。


 捨てられた傘がまたこうして人と寄り添っているのは見ていて、心が暖まる様だった。



「こら!みんな、そろそろ授業を始めるぞ!」


 ガラス戸から顔を出した教師らしい女性が声をあげる。


「なあ、小傘。」

「うんー?」

「もしかして、仕事ってこれのことか、つまり、教師?」

「そだよ。」


 つまり小傘が言っていた「仕事を知っている人を知っている人」は寺子屋の子どもたちのことだったということだ。

 後から話を聞いてわかったことだが、何度か彼女自身も授業を受けていたらしい。多分その関係で俺に話を持ちかけていたのだろう。


「おや、そこにいるのは多々良じゃないか。」


 教師がこちらに気づいて手をふる。

 長い髪がさらさらとなびく姿が爽やかな女性だ。


「あの人がここの先生の上白沢慧音だよ。」


 



「ふむふむ、それでここの教師を薦めたのか。」


 授業も一通り終え子どもたちが騒がしく散っていったあと、俺達は教卓を挟んで話をした。

 俺が紅魔館の執事をしていること、記憶探しのため人里に住んでいること、小傘からの紹介でここに来たこと。


 それにしても子どもは素直で元気だ。

 授業は結構静かに聞いていたのだが、休み時間になると小傘に加えて俺やフランももみくちゃにされた。気のせいかもしれないが、途中からフランは子どもに混ざって俺をもみくちゃにしていたようだ。

 しかし、こんな状況でも一緒に楽しんでいられるようになったフランは、ずいぶんと変わったな。



 それはとりあえずにして、本題だ。


「少しの間ですが、俺としても働きたいと思っています。」


 慧音は前髪をなでる。


「なるほどな。」


 思案顔でしばらくうなる。


「しかし、君にそれなりの知識がなくては働いてもらうこともできないな。」


 知識ね・・・。

 それについては、大丈夫だ。一応これでも大学生であるし、其いぜんの成績も悪くはない。教鞭のスキルは別として小さな子どもに教えられるだけの知識は持ち合わせているという自負はある。

 

「すう・・・算術、読み書き、科学、歴史の知識は多少あります。」


 こう始めて小一時間持ち合わせている引き出しを活用して知識を披露した。

 もちろん、記憶喪失だということは前提としてあるので、これらの出展やどこで得られたのかということは、伏せて、あやふやにしておいた。


 ずっと興味深そうに聞いていた小傘とフラン、特にフランは結構唖然としていた。まあ、これまで紅魔館において活用する場などないに等しかったから知らないのも無理はない。


「・・・うむ。すばらしい!

 こちらとしても歴史ばかり教えるのも一つ覚えだと思っていたんだ。君のように知識が豊富な人がいると本当に助かる。私は歴史の知識は網羅しているのだが、恥ずかしながらそれ以外は十分ではなくてな・・・。」

「では、働いても?」

「ああ、こちらからよろしく頼む。」


 契約成立だ。


 小傘はやっほいと喜んでいる。

 フランは・・・嬉しそうだが含みのある顔をしていた。


「どうなさいましたか、フランお嬢様?」


 そわそわとして何か言いたそうな顔をする。


「わ、私・・・寺子屋で勉強したい!」

「な!」


 一同に衝撃が走る。


 今何て言った?寺子屋で勉強したい?フランが何で?

それこそレミリアかパチュリーにでも勉強を教えてもらえばいいではないか。俺の知識はそれこそこの幻想郷では役に立たないと思うのに。

 それ以前にこんなところにフランみたいなのを連れてきていいのだろうか?


「お嬢様、それは本気でございますか?」

「もちろん本気よ。」


 真剣な、そして、ギラギラ熱意に満ちた紅い目で見つめている。


 どうするべきか?

 何より無害だとしてここに来られているのだが、かといって必ずしも「事故」が起きない、もしくは、を起こさないとは限らない。


「上白沢先生、どう思いますか?」

「唐突だな。

 いや、生徒が増えることはこちらとしても願ったり叶ったりなのだが。

 ・・・何しろあの館の吸血鬼で、それに、今は家出中なのだろう?」

「家出じゃなくて外出だよ!」


 むっとした表情でフランは言い返す。

 それに対して上白沢さんは冷静である。彼女の言う通り、考えるべきは問題が起きる起こらないの可能性を考えるよりも、まずは家出の問題だよな。


「君・・・フランドールというのだったな。」

「そうよ私がフランドール・スカーレット。」

「そもそも君の保護者には許可をとったのか?」


 フランはたじろぐ。答えられないのだ。やはりその点が年齢にそぐわない、経験に乏しい彼女の弱点なのだ。


「・・・ほ、保護者なら、ほら!ここに執事がいるし!」

「ダメだ。君の保護者はよく知っている者でなくてはならない。」

「彼だって私のことはよく知っているわ!」

「何を言っている。たかだか一年で君のすべてを知っているわけではないだろう?」

「でも・・・。」

「それに、君は彼のことをよく知っているのか?」

「うぅ・・・。」

「そうだろう?

 だから家出の件を含めて、お姉さんとじっくり話し合ってからまた来なさい。許可が取れたならいつでも受け入れるようにはしておくから。」


 さすが、長く生きている先生の言葉は説得力が違った。ここはフランの完敗という以外ない。


 そういえば、フランが俺のことを知っているのか知らないのかについてだが、これは「知らない」と言う他ない。

 俺は何も彼女に話してないし、彼女に聞かれても正直に答えるつもりはないのだ。かわいそうだ、不誠実だと言われても仕方がないと思う。


「・・・わかったわ。」

「そうか。わかってくれたようで嬉しいよ。」


 やけに素直だな。

 何か企んでいるのではないかとも思ったが、あまり考えすぎるのは無粋だ。ここは納得してくれたと思っておこう。


「それでは話はおしまいだ。

 あとは授業の仕方やその他について教えておく。フランは多々良とあそんでなさい。」



 さて、一件落着だ。

 落着とは言え大変になるのはこれからなのであまり落ち着いてもいられないが・・・。




「―君に教えることは以上だ。

 まあ、わからなかったらいつでも私に聞いてくれ。大体ここにはいると思う。」


 俺の知識のお披露目と同じく小一時間ほど費やして上白沢さんからここについて、こどもとのかかわりなどなどをご教授いただいた。

 さながら教育実習を受けた気分である。

 事前に言っておくが、俺は教育学部ではない。そのため実際の教育実習とどれほど似通っているかについて論じることはできないのだ。

 それは別として教鞭をとるというのは、思いの外プレッシャーがある。間違えたことを教えてはいけない、子どもたちをまとめないといけない、自分が手本になるようにきちんとしないといけない。そう思っただけでも少しばかし気が遠くなる。

 だが、上白沢さんはおそらく人一人の人生以上の年月を教育に捧げているはずだ。それに関しては脱帽せざるを得ない。


「ありがとうございました。これから先生に恥じないようがんばっていきます。」

「うむ。お互いがんばろう。」

「それでは今日のところは帰らせていただきます。」

「・・・ああそれと、あの子のことだが。」

「あの子?フランお嬢様のことですか?」

「いや、多々良のことだ。」


 そういえば、あいつは何度か先生の授業をうけていたんだっけな?


「多々良の隣に住んでいるのだろう?何か言われなかったか?」

「何かって?例えば何ですか?」

「例えば・・・いや忘れてくれ。思い違いだろう。」


 これまでの先生からして、ない感じの歯切れの悪さだった。そう言われると気になってしまうのが人間の本性だ。

 もちろん、あまり追及すると人は嫌がるものだ。


 人か・・・。

 実のところ上白沢慧音も純粋な人間ではない。半人半妖だ。このことを知っているのも自分の知識のひとつだ。まあ、自らは明かさないところから、わざわざ表に出すような気はないと見えるのでここの部分は放置するべきだろう。


 とりあえず気になることは嫌がられても聞きたくなる。理由としては、多々良小傘という少女も一応は妖怪だからだ。妖怪がらみで留意すべきことは耳に入れておいて損はない。何せ自分の身の危険と直結するからな。


「思い違いでもいいので話してください。」


 先生に詰め寄る。

 今までにない食い付き具合に彼女は顔を渋らせる。


「追って迫るとはまさにこのことだな。わかった端的に言おう。

 君は―」


 そういいかけたちょうどそのとき、おもてのほうで爆音が響いた。

 あまりの衝撃に戸のガラスが悲鳴をあげる。


「な、なんだ!?」


 上白沢さんはそれこそ闘牛のような勢いでそとへ向かう。

 俺も続いて表へ出るとフランドールと―レミリアが対峙していた。

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