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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】気息奄編
27/65

Ep.27 執事と教師

 教務に就くことになって今日が初日だ。なににおいても最初は肝心であり、同時に緊張するものである。俺も例にもれず、そのため昨晩はあまり寝られなかった。仕方なく授業の題材の予習を一通りこなし終えたところで、ようやく寝るさことができた。


 さて支度もできたところでその前に、寺子屋に立ち寄る前に小傘のところに行くことにした。

 昨日あの後、なんやかんやあって小傘にお礼をするのをすっかり忘れていた。今朝はそのお礼のためである。お金は紅魔館のおこづかいからなので、純粋に俺からの贈り物とはいかないのは悔しいところではある。しかし、教師の給料の前借と思えば、さして少し悔しさは紛れる。



「小傘ー!小傘いるー?」


 無反応だ。


「・・・まあ、いいか、仕事から帰ってからでも。」

 

 別にお礼といってもすぐに腐るようなものではないからな。

 そう思って品を戻しに振り返った時だった。


「ぬわあああぁぁーー!!」


 少し向こうの畦道に空から紫のもの降ってきた。


「・・・へぎゃ!」


 落ちた瞬間蛙が潰れたような声がする。


「大丈夫か、小傘?」


 彼女はうつ伏せになったまま首だけをこちらに回した。顔はもう泥やら擦り傷やらで汚い。

 しかし、これだけで済んでいるのはさすが妖怪だという他ないな。


「・・・あー、君か。驚いてくれたようで嬉しいよ・・・。」


 確かに驚いたのはたしかだ。


「しかし、小傘。俺を驚かせるためにわざわざ空から落ちてくる必要はないのではないか?」

「いや、君を驚かせるために空から降ってきたのではないんだよー。」


 もしかして、誰かにスペルカードでやられたとか?


「そうでもないよー。私はあのシステムよくわからないし、それに私は戦いたくないよ・・・。」


 そうなのか?

 じゃあ、今後の宝船の件とかその後とかの時は、いやいや戦っていたということだろうか?


「そうじゃなくってー、何かよくわからない高速で飛んできた黒い物体に吹き飛ばされたんだよ。」

「なんだそれ。フライングフィッシュってやつか?」

「フライングフィッシュ?何それ?」

「見た目は水悽動物っぽくて、目に見えない早さで飛んでいる・・・まあ、妖怪とか怪異みたいなものだな。」

「いや、違うよー!私より大きい感じだったし、それにほれ!」


 泥だらけの握りこぶしを俺の目の前につきだして、開いて見せた。

 その手のひらにあるのは一枚の黒い大きな羽根だった。


「飛ばされる直後に咄嗟に握ったんだ、そいつを。そしたら、ブチィ!って言ってこれが・・・。私の手のひらには一枚しかないけど、多分そこらに他にも落ちてると思うよ。」


 確かに少し遠くにちらほらと黒いものが落ちている。

 黒い羽根・・・サイズは格段にそれとは違うが、カラスの羽根のようだった。


 このサイズからして人並みの大きさはある。それ以前にとんでもない早さで飛ぶカラスなんて、俺は知らない。知っているとすれば、カラス天狗という妖怪が当てはまる。

 人里にカラス天狗。確かこの世界の天狗たちは閉ざされた社会のなかで生活していたはず。だから、滅多に天狗と遭遇することはない、のだったかな?


 だとすると、人里と関わりを持っている妖怪の中で、可能性があるとすると―


―射名丸文。


 まあ、これは憶測だからわからない。

 それに昨日フランの騒動もあったことだから、できればそうであってほしくない。そんな変わったことがあれば必ず記者はネタにするに違いないからだ。彼女たちの抱える問題を大衆ゴシップみたいに軽いノリで語ってほしくない。


「・・・どうしたのー?」

「いや、何でもない。

 全く、交通事故を起こすなんてけしからんやつもいたものだ。」

「ホントにねー!」


 それから俺は小傘をおぶって彼女宅に運び、お礼の品を渡して、いよいよ寺子屋に向かうことにした。




 小傘のこともあったが、それでもかなり早くに寺子屋についた。


「おはようございま・・・」


 準備で使うことになっていた部屋では、あられもない寝間着姿で上白沢さんが寝ていた。

 まさか、こんなところで寝ていようとは・・・。


 とりあえず戸を閉め直して、教室で支度した。



「いやはや、恥ずかしいところを見られてしまったな。」


 それから数分後、彼女はあわてて支度して現れた。顔では冷静を装っているが慌てすぎていたせいか、銀色の長い髪が方々乱れたままだった。


「上白沢さんは自宅に帰って寝ないんですか?」

「自宅・・・?

 ああ、ここが私の自宅なんだ。」

「・・・なるほど。」


 だとすると、大きな家だ。

 外の世界の学校みたいに特別な設備を備えているわけではないから、建てる分には外の世界の学校までの苦労や技術やお金は必要ではないと思う。それでも俺の家の3倍ある。


「それはそうと、昨晩授業の用意はしたのですが、ここに通うみんなはどのくらいまでができるのでしょうか?」

「ふむ・・・、君が今日教えることになっている算術に関していえば、バラバラだな。」

「つまり、習得度別に分けた方がいいですね。

 では、足し引きあたりを習得中なのが左2列。足し引きができて掛割算を習得中なのが中央2列。足引掛割ができて、発展的な内容をするのが右2列ということにしてもいいですか?」


 彼女は顎に手を当てて思案してから話を続ける。


「・・・うむ、そんな感じで大丈夫だろう!他の細かいことはその都度君に任せる。

 では、よろしく頼んだ。」


 俺が話し終えてすぐ頃から、ちらほらと教室に訪れる子供たちが現れた。

 子どもたちと一概に言ってもその年齢は様々で、小学校低学年みたいな子から中学生みたいな子まで幅広い。


 彼らは教室に入ってすぐおはようございますとだけ声をかけて不思議そうな面持ちをして適当な位置に着席する。

 見知らぬ人間が見知った先生と教卓にいるのだから不思議そうにするのは当然だ。しかし、彼らの面持ちの裏に秘められた気持ちとしては、やはり昨日のフランの件があるのだろう。あんなおぞましいことをする悪魔を止めた人間が何をしにここにきたのか?

 みんながみんなではないにしろ、大半の顔からはそのようなオーラを感じることができた。



「さて、大体そろったようだな。

 では授業を始める前に新しい先生を紹介する。」


 上白沢さんから肩をぽんと叩かれた。


「・・・えっと、今日から少しの間みなさんの勉強を教えることになった者です。

 どうかよろしくお願いします。」


 先ほどからしていたざわつきとは一辺して、しん、と静まり返る。


「・・・あ、と。

 慣れてないので、上白沢先生みたく上手く教えられないかもしれませんが―」


 そういいかけたとき一人の少年が手をあげる。


「先生、昨日のあの妖怪と知り合いなの?」


 やはりその質問からだろうな、とは思っていた。


「はい、そうです。俺は彼女の従者をしています。」


 あれほどのことがあった後で誤魔化すのは無理がある。正直に話した方が都合がいい。子どもたちに衝撃を与えるのは覚悟だが。

 静寂から今度はささやきが飛び交う。


 様子をみてなのか、上白沢さんは手を叩いて注意を促した。


「はいはい、それでは先生も紹介したしもう一人紹介するぞ。」


 入ってくれという彼女の音頭でがらりと引き戸を開けたのは、一人の小さな少女だった。


「彼女は今日からここに通うことになった西行寺ゆゆこだ。」


 ・・・西行寺!?

 これがあの西行寺幽々子?

 金髪で小学校低学年ほどでショートボブで切れ長の目をした少女が、白玉楼の幽々子か?


 もう一度彼女の顔をみて確信を得る。


 いや、違う!

 そもそも冥界と現世への結界が緩むのはまだ先のことだ。それに彼女がこんなことをするメリットはどこにもないと思う。だとすると、一番の可能性は自らを偽って、つまりは、偽名を使っているしかない。

 そして、その正体は・・・八雲ではないだろうか。

 西行寺幽々子を知っていて、金髪の少女。


 彼女はおそらく八雲紫・・・・ではないな。


 冬に差し掛かっているこの時期に、冬眠に入るこの時期に、必要性があったとしてもこのようなことを活発に行うとは思えない。前提として、個人的な感想であるとは言っておかなければならないが。

 それに何より、以前に紅魔館に来ていたとき、彼女に感対して不信感、不可思議感、奇妙さ、奇抜さ、それらを含めた「胡散臭さ」を感じた。

 しかし、今こうしてやってきた少女からは胡散臭さよりも、不吉さが通り越して瑞兆を感じさせる。



 だから彼女は―八雲藍だろう。


「わたくしは西行寺ゆゆこです。よろしく。」

「うむ、それでは空いている席に座ってくれ。」

「わかりました、慧音先生。」


 そういって後ろに空いた席に向かってあるいていく。

 一瞬、ちらりとこちらを見たが、あれはまるで観察者の目をしていた。




「それでは今日は彼に授業をしてもらう。しっかり言うことを聞くんだぞ。」


 元気な声で返事が返ってくる。

 上白沢さんはそうとうに信頼されているようだ。


「じゃあ、今日は算術を教えます。まずは、自分の程度に応じて席をかわってください。席は・・・―



 幻想郷の教育というのは外の世界ほどきっちりしているわけでもなく、教えることも授業時間もまちまちだ。授業時間に限って言えば随分と短い。

 外の小学校では45~50分の4、5時間が一般的だが、ここでは休みを含めて日に2時間程度だ。

 それでもはじめての俺がくたびれるのには十分だった。

 ただ授業に対して彼らは真摯でわりとやり易かったのも確かである。授業が終わってから、個人的におしゃべりしにくる子達も多かったので、こちらとしてはかなり安心できた。



「それじゃあ先生、バイバイ!」

「ああ!また明日!」


 秋の終わりでも真昼の太陽はやはりまぶしかった。

 手を降った後、しばらくは目を閉じて外の明るさにならす。


「お疲れ様だな。

 初日だから今日はこれで終わりにしよう。

 ・・・・そうだ!これから一緒に食事でもいかないか?」

「こちらこそありがとうございました。

 そうですね。ご飯に行きましょう。


 さて、帰り支度もかねて教室に戻ったのだが、そこでは小傘と黒髪の女性が言い合いをしていた。


「変な言いがかりをするなって言ってるだろうが!駄ガラス!」

「はん!そういってほしくないなら、正直に話すものですよ!」


 小傘がかなりの剣幕で怒っている。これまで明るくて元気で能天気なイメージの顔は見る影もなく、怒りにまかせてつりあがっていた。


「何してんだ?」


 俺の一声に黒髪の女性はギクリとして近くの窓から逃げるようにして出ていく。


「覚えておくことですよ、小傘さん!絶対後悔しますからね!」


 出る間際にそういう風に吐き捨てていった。


「何があったんだ?」

「別に、何でもないよ。」


 怒りが抜けきらないのか、彼女の眉間はシワがよったままである。


「さっきのは新聞屋の射名丸か?」


 上白沢さんが一歩前に出る。


「そうだよ。」

「本当に何もなかったのか?」

「ないよ。

 あったとしても別に先生には関係ないことだよ。」

「・・・。」


 少しばかりの沈黙があった。

 しかし、ここで追求しても籠城戦になるだけだとはんだんした上白沢さんは、諦めて話を変えた。


「・・・そうだな。

 これから私たちは食事にいくのだが、一緒に来ないか?」


 追求されないことを知った小傘は、やっと元の明るい顔に戻る。


「うん!いくいくー!!

 私は定食屋さんに行きたいなー!」

「定食か。君は何が食べたい?」


 どうと聞かれても俺はここについて何も知らない。だから彼女たちに従う他ない。


「定食にしましょう。うんと美味しいところへ!」

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