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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】気息奄編
23/65

Ep.23 愉快な唐傘おばけ

「おしゃべりしようって言っても、まずはお互いについて知らないとね!」


 小傘が提案する。


「しかしながら、俺についての事情は大体話してしまった。それ以外となると、俺のこの半年間の記憶なんて仕事のことばっかりで大しておもしろくないぞ?」


 ふむ、と彼女は鼻をならす。


「だったら私の話を聞いてよ、私の生い立ちについて!話しちゃうよー何でも。君は合いの手役ってことで。」

「お前のおしゃべりは歌や踊りなのか?」

「テンションだよ。ライブにせよ、おしゃべりにせよ、気分が乗らないと次から次に話そうと思わないじゃない?」


 まあ、わからないでもない。

しかしながら、彼女は妖怪だ。

 生い立ちについては決して明るい気分で話すものではないはずだ。それでも、明るく振る舞おう、話そうとするのは彼女の頑ななポリシーということなのだろう。


「さてさて、私、多々良小傘は唐笠お化け、傘の付加神。」

「確か付加神って、物が100年間使われ続けて、神力を持ったりとか、その手前で捨てられて、持ち主を恨んで妖力を持ったりするやつだっけ?」


 にこりとして首を縦に大きく振る。


「そう。ただし私は後者だけれどね。」

「しかし、傘が100年間手前までも使われるなんていうのは、かなりすごいことなんじゃあないか?」

    

 彼女は難しい顔をする。

                                            

「むう・・・・。確かにそうかもしれない。」


「・・・でも!私は酷い捨てられかたをしたのよ!」


 彼女は怒る。


「かつて私は純粋に傘として幾人かの手に渡りながらも大切にされていたわ。

 そんなある日のことよ。当時持ち主だったおじいさまが参拝の帰りに間違えて傘を持って帰ったの。

 まあ、おじいさまはかなりお年を召していたし、目を患っていたから、悲しかったけど仕方ないことだとは思えたの。」


 老眼と色盲。

 おそらく、彼にとっては愛着のある小傘を持っていったつもりだったかもしれない。きっとそれについては以降亡くなるまで、小傘だと思い込んでいたのだろう。

 彼には悪意はなく、ただの錯誤だった。


 しかし、悪意も錯誤もそんなことは被害者の側からすれば状況に変化を持たせることはない。



「数日しても取りに来られないから、おじいさまのことは諦めた。それについては仕方ないって思えたの。

 だから、新しく私を使ってくれる人を探したの。」


 そして、彼女は怒りつつも強張った、悲しみを押し殺した顔になる。

                         

「・・・でもね!「気持ち悪い。」って「変な傘!」って。道行く人は私を笑ったわ。」


 多々良小傘、彼女の傘としての見た目は紫色である。

 作られた当時は紫色は高貴な色とされ重宝されたのかもしれない。しかし、時代は無惨にも移り変わって行く。きっと、その時代の流れの中で、価値観すらも変化していったのだろう。


 いつの間にか彼女は社会に認められなくなった。そして、彼女は孤独になった。


「何日も経って風や雨に吹かれて、気がつけば小さな水溜まりの側にいたわ。

 水に反射する私の姿は、泥まみれで、壊れてて、汚くて、きっともう誰も見向きすらもしてくれない。

 それなら、私は「足」がほしい。

 そんなことをぼうっと思ってると・・・」


 うつむくいて黙ってしまった。


「思ってると・・・?」


  彼女は俺の声にはっとして、再び笑顔をつくる。普段とは違う、まさに作りものの笑顔だった。


「私は多々良小傘になった!」


 彼女は人を少なからず恨んでいる。

 しかしこうして人里に居座り、俺と話しているのは、きっと人を怨みきれないからだ。

 人に愛されたその過去が、その温もりが、忘れられなかったのだ。


 きっと彼女が愉快で楽しく振る舞っているのは、その影響もあるのだろう。


「でもでも、捨てられて妖怪になったことは悲しいことだけれど、今はこうしておしゃべりもできるし、人も驚かせるから楽しいよ!」

「そうなのか。まあ、状況に絶望するよりは随分健全だな。」

「そうそう!私は健康で元気なのだ!」


 嬉しさのあまり彼女は立ち上がった。



「・・・そういえば、君は紅魔館の執事なんだよね?」

「ああ。」

「エクレアっていう吸血鬼の妹の執事なんだよね。」

「確かに彼女は甘いもの好きだが、エクレアじゃない、レミリア・・・お嬢様だ。」

「ふーん?それでエクレアの妹って金髪赤目で宝石みたいな羽の女の子なんだよね?」


 お前、本人の目の前で名前を間違えてみろ。八つ裂きで済むかどうか。


「そうだが、それがどうしたんだ?」


 小傘は不思議そうな顔をして、玄関を指差す。


「その妹ってあの子?」


 お茶を盛大に吹き出す。

 玄関にいたのは間違いなくフランドール・スカーレットだった。

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