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joker  作者: ねきつ×あまひら。
4/7

3章


◆◇◆


 ガタガタ震える体を押さえつけ、粗蕋抄夜と黒闇陽死色、そして歌乾湖を見る。

 少し離れた建物の一番上から。

「本当に私は駄目です………。スリルを求めてるくせに駄目です…………。本当に。手をひきたい……。」

 歌乾湖の傀儡となった粗蕋抄夜を見て、恐ろしくなる。

 歌乾湖の『傀儡』はきいた相手を自分のものにできる。

 しかも、催眠効果もある。

 傀儡となった人間は目の色を失い(真っ黒。白目じゃないよ。)なんでも言うことをきく。

 ただし、死に繋がることや、心までは操れない。

 それに―――定期的にきかせなければ切れるのがはやい。

「きいたら終わりの『(ブラックアウト)』よりはましですが、はたから殺しに来てるわけじゃありませんし、『傀儡』がちょうどいい技だったのでしょう。」

 黒闇陽死色と戦うときは使うかもしれないけど。

 ヘッドフォンでも持っていくように指示を出すか。

「黒闇陽死色が他に手助けを求めればいいのですが……そんなあいているでしょうか。」

 黒闇陽死色はなんだかんだいって調べきれていない。

 黒闇陽殺戮衆を出されても困るがアンフェア過ぎる。

 しかし、リーダーがいない状態に等しいのはきつい。

「私が呼びにいってもいいのですが…強い味方になるであろう、セツとか、七つの大罪の怠惰や強欲とか………でもそれはそれで海神にアンフェアに思われかねない。」

 『傀儡』の催眠効果によって、眠っている、黒闇陽死色を見る。

「眠りには勝てないと言うことでしょうかね。」

 人間の欲求―――。

 歌乾湖がおいていった以上、人形にはなっていないと思うが。

 なっていたとしても『主人』がいないために動けないだろうし、すぐに解ける。

 自分でいくか、人に助けを求めるか。

「ビショップ、歌乾湖と最戦の約束をしたからには、黒闇陽死色は歌乾湖と戦うでしょう。ということはナイトと戦う相手がいない。」

 ポーンはなにもしないだろうし。

 クイーンは粗蕋抄夜がどうにかしてくれるとして。

 粗蕋抄夜がクイーンに取り込まれなければいいが―――。

「私が望んでいるのは戦争(スリル)。粗蕋抄夜が海神につくことは望んでいません。」

 全ては私のミスの性だ。

 私がミスをしなかったら歌乾湖は大人しく学校にいただろう。

「………………イアホン外したとか言わなければ……。」

 粗蕋抄夜は朝はイアホンをしていた。

 私と話すときも片耳だけ外していて、完全に外したのはいつからだかはよく覚えていないが、黒闇陽死色と出会った所らへんだろう。

「歌乾湖の曲は邪魔なものがあるとだめですからね………。静かな場所じゃないと……。」

 だから私は影が出来ない騒がしい場所に行こうとしたのに。

「影はどうにでもできませんが、歌は対処できた………のに。」

 イアホンしてないの?ぐらいはいっておいた方がよかったかもしれない。

 他人の目なんか気にしてる場合じゃなかったのに。

 私は悪くない。

「物語を加速させただけです……。どのみち拐われてたんです……。」

 はあ………とため息をつく。

 今回手を出したのは間違いかも知れない。


◇◇◇


 少し前に買い換えたばかりの携帯、いわゆるスマートフォンが鳴り響く。

 応答ボタンをタップして出ると、予想外の相手だった。

「もしもーしってね。こちら白陽陰名莉海。依頼なら承っておりません、ぐっばいべいびーさようならってね。」

『名莉海くぅぅううううううん!!!』

「うお!?死色じゃん!何!?」

 死色から電話がかかってくるということは殆どないのだが。

 そういえばペロペロキャンディーアイスを買うのを忘れていたことを思い出す。

 ていうか、そもそもペロペロキャンディーアイスってあるのか?

『かくかくしかじか四角い死色でしよ!』

「いや、意味わからねえってね。ちゃんと説明してくれ。っていうか、某CMパクるなよ。」

 どっかの超能力者でもあるまいし、かくかくしかじかでわからないっつーの。

『えっとぉ、しょーや君がいなくてでしね?目が覚めた時にいなくてでし!しーちゃんの顔が潰れたと同時に天才最強黒闇陽死色は悟ったんでし!さらさらさらっと皿割れたと!でぇし!』

「あー……っと。しょーやってーのは、あれか?えー、粗蕋抄夜か?」

 確か、隣のクラスだったようなないような。

『うぅ?わかんないでしけどぉ。ま、そんな感じでし!たぶん!多少違くてもどんまいけぇえるでしっ!ふひひひぃ!』

「ん、まあそうか……ってね。で、そいつが死色に関わって?死色が気を失ってたか寝てたか死んでたかして目を覚ました後にいないと。」

『でし!!』

「さらわれたと?」

『おそらくながらくしばらくでし!』

 なるほど。

 最近死色語も大分理解できるようになった故に、会話も成り立つようになってきた。

 一年前の『戦争』の時よりは、俄然。

「で、どうしてほしいってね。」

 粗蕋抄夜という名前だとすると……タロット遣いだかなんだか、そんな奴か。

 天崎兄ちゃん情報。

『あ、訂正修正でしよ。名莉海くん。』

「あん?」

『今回のことは、しーちゃんが首を突っ込んだから、しょーや君が関わってきたわけではないんでしよぉ?』

「ふーん……」

 珍しいじゃん。

 そこまでするほどの人物なのか。人材なのか。

 珍しいだけに、妬けるぜ死色。

 俺のことを男だって再認識してほしいくらいだぜ。

「どうしてほしい?」

 もう一度訊く。

『――――助けてくださいでし。』

 俺はにやりと笑った。

「了解。」

 それだけ言って、電話を切る。

 まったく、可愛すぎるぜ。俺の彼女。

「さて、と。」

 俺は一つ伸びをし、死色がいる場所に見当をつける。

 粗蕋抄夜の家付近か。って、『しょーや君』がそいつかは知らないが。

 一般人に死色が(殺す以外で)手を出すはずもないので、そうだとしよう。確信がある。

 ―――それとも遠い場所か。

 目立つ場所か目立たない場所か。

 こう見えても頭はいい方。

 消去法で何とかなる、だろう。

 まず目立たない場所。これは確定。

 常人なら絶対に、銃刀法違反の死色を目立つ場所には行かせない。

 ああ、そうだ。

 死色は自分からそんなに動かない。

 目立たない、動かない。少し逃げた?しょーや君とやらと一緒に、か。

「―――と、するとだ。」

 俺は答えを導いた。

「はい、確定。待っててね、しーたん。なんちゃって、ってね。くふふ。」


「あれ……そういえば場所言ってないでし……!――――ま、しーちゃんへの愛で見つかるでしねぇ!ふひひー。名莉海くんたらぁ!嘘だぽん嘘だぽんっ!うっーうーっうーそだぽーん。」

「変な歌作ってんじゃねえってね。」

 ていうか、嘘だぽんは黒歴史だからもう忘れてほしい。切実な願い。

「きゃぁぁああ!名莉海くんでし!やっぱ愛の力で見つけてくれたでしね!!」

「そうそう。で、しょーや君とやらがどこに連れてかれたか見当はついてるのか?」

 ふえ?と首を傾げる死色。

 まあ、いつものことだ。

「けんとう?健闘?検討?でしか?」

「見当。まあ、わからないのは知ってたぜ。」

「名莉海くんは何でも知ってましね!しーちゃんのこと!ふひひぃ。嬉しいでし!」

 喜ぶところなのかは甚だ疑問だが。

 俺は粗蕋抄夜のことはさっぱりだ。最近気にかかることは特になかった。けど。

 それはあくまでも、『俺は』の話。

 著作権なんて知らん。

 俺はスマートフォンのロックを解除して、電話をかける。

「誰でしかぁ?」

「兄ちゃん。」

 もちろん、天崎兄ちゃんだ。

 情報=天崎。白陽陰の常識どころか、色殺の常識。

「名莉海だけど。」

 何回目かのコールで出た天崎兄ちゃんに、名前を告げる。

『久しぶり。元気してたかな。してたね。うん。厄介ごとどうぞ?』

 やはりお見通しだったか。

 俺は事態を話した。

『なるほどなるほど。ま、簡単だね。こんなのネットやGPSのハッキングは要らないよ。名莉海でもわかる。』

「わかんねーってね。だから電話したんだ。」

 そうだね、と電話越しに笑う天崎兄ちゃん。

「で、どこだよ?」

『名莉海のいる場所付近なら、間違いなく海神中学校。付近じゃないなら知らない。』

 海神中学校……というと、ここからそう遠くない。

「海神、ね。なんか情報くれよ。」

『等価交換。』

 俺は心の中で舌打ちをする。

 こういうところが、天崎兄ちゃんの嫌なところだ。

 ギブアンドテイク。気持ちはわからないでもないが、たまにはギブだけしてくれればいいのに。

「粗蕋抄夜の写真でどお?」

『要らないけど……ま、今回はおまけで、それでいいよ。海神中学校ね、ここ最近不穏な動きがある。』

 そう言って、一通りの情報を与えてくれた。

 学校の教室の配置や、敵と思われる人のある程度の情報とか。

「さんきゅ、ってね。じゃ、ちっと人助けしてくるわ。ぐっばい。」

 言って、返事を待たずに電話を切った。

 振り返ると、死色は地面でのたうちまわっている。意味不明だ。

「終わったでしかぁぁああ!!!随分と長電話でしたね!?浮気は許さないでしよ、殺すでしよ!」

「浮気してねーってね。愛してる愛してる。」

 死色は笑う。

「照れるでしっ!ふひひひひっ!」

「で、しょーや君を助けに行くぞ、死色。」

「りょーっかいっ!!」

 死色は地面から飛び起きた。

「目指せ、海神中学校。」

「でし!」


◆◇◆


「ほう………白陽陰名莉海ですか。……黒闇陽死色いいカード持ってきたじゃないですか。」

 一年前にあったあの戦争で若くして生き残った人。

 黒闇陽と白陽陰で仲がいいのがいるってきいていたけど、本当だったとは。

 白陽陰名莉海は弓だっけ。

 弓とナイフが使える結構強いひ。

 たしか、ナイフを使うのがきらいで(血がつくから。)大体弓しか使わない。

 あとは――

「おっと。これはトップシークレットですね。」

 噂だが。

「むう……。」

 そして、殺し屋にしては常識人。

 私ぐらい常識人。

「均衡は保てているというところでしょうか。一先ずよかった。ということで。」

 一先ず安堵出来る。

 白陽陰といえば、私としちゃ白陽陰天崎かな。

 少しばかり情報をくれてやったり頂いたり。

 ここ最近の付き合いだったけど(私、忘れてるとおもいますが10才です。)例の戦争があってから連絡とってない。

 久しぶりに、白陽陰天崎に情報を軽く渡して、白陽陰名莉海の電話番号ぐらい聞きだせるかな……。

 白陽陰名莉海が無知だったら困る。

 聞き出せたら、少しぐらいためになる情報をあげてもいいかもしれない。

「白陽陰天崎だって知らないことあるでしょうし、意地悪で教えてもらってないかもしれませんし。無償で教えてあげてもいいですよ。」

 今回に限り、私が悪いから少しぐらいボーナスチャンス。

 白陽陰名莉海がどれぐらい強いのか、否、どれぐらい頭がいいのか知らないが。

 海神に勝てるぐらいにはなるかな。

「………どっちにせよ、最終的には粗蕋抄夜がどれぐらい頑張るかですかね……。そのへんはどうでもいいのですが。」

 粗蕋抄夜がどうなるかより、話が大きくなってほしい。

 粗蕋抄夜が海神に最終的につこうが関係ないし。

「彼氏欲しいですね。」

 柄でもないことを呟いて、海神中学の方向へ歩いていく、黒闇陽死色と白陽陰名莉海を後ろから(上から)追っていく。

「―――楽しみにしてますよ。白陽陰名莉海君。」


◇◆◇


 夢を見た。

 いや、現実であったことが夢になって再び出てきたのかもしれない。

 殺人事件。

 その犯人は僕――――

 何人もの人を一気に殺した。

 目の前に広がるのは永遠の赤。

 僕は狂気そのものなのかもしれない。

 黒いものを丸めてできた――――

 ヒトガタノキョウキ。

「――っ!違う!」

 叫んだ。

 叫んだはいいけど、だれもいない。

 僕が殺したから。

 殺したからだれもいない。

「僕は殺した――?」

「ダレヲ?」

「人間を――。」

「カゾクハ?」

「死んだ……違う、殺した。」

 どうして?

 手ににぎりしめたタロットカードを見る。

 Magician、The High Priestess、Emperor、Empress。

 The Hierophant、Strength、Chariot、The Hermit、Justice、Wheel Of Fortune。

 Lovers、Not Lovers、The Death、The Devil、The Fool――

 そして―――joker。


◇◇◇


 海神中学校の校門前に着いたとき、俺は立ち止まる。中に入ろうとした死色の首を掴み、声を潜めて話した。

「おい死色。」

「なんでし?」

「――――ていっ。」

 耳にイヤフォンをはめた。

「!?なんでしかっ!」

 静かに、と嗜める。

「お前は知ってるだろってね。えっと……歌乾湖の能力。」

「ふ?あぁ、フルート野郎でしかぁ。よくもしーちゃんを……貶してくれたでし。頃して殺してオーバーキルしないと気が済まないでしよ!」

「うん、まあそんなことだろうと思った。んで、対策としてはイヤフォンとかで多少なりとも音を聴こえなくすりゃいいそうだ。」

「なるほどぉ。それでこのぶらぶらでしか。」

 ぶらぶらって……表現がおかしいけど。まあいっか。

「う、名莉海くんは?」

「俺もするよ。俺は肉体的にはただの殺し屋だからなってね。」

 しーちゃんもでしよ?と言うが、お前は普通でも、ただの殺し屋でもないからな。

 そこは自覚を持ってほしいところだ。

「んじゃあ、とりあえず入るか。」

 言いつつ、行く途中で一般人から譲り受けた(強奪ともいう)ヘッドフォンをはめる。

「おっと。その前に、か。」

「うん?なんでーしかぁあ?」

 校門の影に隠れて、校庭で遊んでいるのか、騒いでいる声がすることを確認。

 ちらっと中を窺うと、サッカーをしているようだった。

「目標確認ってね。」

 放課後、下校する生徒は今のところ見えない。

 背負っていた弓を出し、片方の糸を解く。

「何をするんでしか?」

「まあ、見てろって。俺のかっこいいところ見れるぞ。」

 ピッキング用の金属クリップを糸に括り、簡単には外れないことを確認。

 気配を殺し、もう一度中を窺った。

 ボールが少し近い。

 好機到来、弓を釣竿のようにしならせ、クリップの先をボールに突き刺す。

 そしてわざとだと気づかれないように、引き寄せた。

 ボールは転がるように校門の外に出る。

「よし。」

「う?」

 相変わらず首を傾げている死色だが、無視した。

「おい何やってんだよ。」

「ごめんごめん。取ってくるわ。」

 シナリオ通りと言わんばかりに、校庭にいた人の一人が校外に出た。

「――――え。」

 そいつがこちらに気づくのを見て、俺は糸で首を締め上げる。

 がくりと膝から崩れ落ちる人。

「おおぉお!?」

 死色が歓声を上げた。

「大丈夫ですか!」

 俺は白々しく、その人に駆け寄った。

「…………」

 中を窺いつつ、素早く糸と、ボールに突き刺したクリップを取る。

 仲間だろう、何人かが、近寄ってきた。

「あ?どうしたんだ、こいつ。」

「さあ……わかりません。突然倒れたので。通りかかって良かった。」

 俺は言った。

「ったく、意味わからねえぜ。」

「そうですね。全くです。」

 言った瞬間。

 駆け寄ってきた三人の仲間の鳩尾を正確に、思いっきり突く。

 三人は呻いて、その場に倒れこんだ。

「はっ。ちょろいもんだぜ。」

 言って、俺は倒れたうちの二人の制服を剥ぎ取った。

「死色、これ着て。」

「ええっ、ここで着替えるでしか!?」

「普段そういうこと気にしてねーだろ。いいから。早くしないと見つかるって。」

 渋々と、着替え始める死色。

 いつもと同じ、闇色のポンチョなので、着替え自体は別にエロくもなんともないのだが。

 俺も素早く、海神の制服を着る。

 着替え終わり、着替える際にとれてしまったヘッドフォンをもう一度つける。

「イヤフォンしてるかー?」

「でし!」

「ん、おっけ。」

 準備は整った。

 いざ、潜入開始。

 ざわつく校内に入っても、俺たちが部外者だと気づく者はいなかった。

 校舎案内を見る。天崎兄ちゃんに教えてもらってはいたけど、今いち頭に入らなかったからだ。

「しょーや君がいるのは……どこかなってね。」

 指を滑らせ、怪しそうな部屋を探す。

「むーぅ。しーちゃんにはさっぱりでしよぅ。」

「……しーた、普通に喋れるか?」

「し、しーた!?な……なにごとでしかぁ!?しーちゃんでしよ!」

「いや、ほら……今、制服男じゃん……。」

 死色は小さすぎて、結構だぼだぼなんだけど。

「普通って……これが普通でしよ!ふひひーっ!」

「あっそ……まあいいや。」

 諦めよう。

 バレたら殺せばいいし。証拠隠滅は簡単。

 全部殺せばいい。死体は喋らないんだから。

「―――理科準備室が怪しい。」

 まず一つ。

 音楽室、音楽準備室。もしくは―――。

「普通教室は、あり得ない。」

と、思う。

「わかんないでしよ?相手はフルーツ野郎でし。きっと思考回路はくるっくるでし!!」

「まあそれも……考えようによっちゃアリだけど。」

 とりあえずは、音楽室あたりを探ろう。フルートだけに。

 いや、あいつが吹奏楽部だったら、皆死ぬのか?

 それは部活として機能しないな。

 そりゃあ傑作。大爆笑。

「どこ行くでしどこ行くでしどこ行くでしどこ行くでしっ!!」

「音楽室、かな。」

「らじゃーっ!」

 音楽室は四階……つまり最上階らしい。

 一段飛ばしで、すれ違う生徒には気をつけながら、音楽室へ辿り着く。

 しん、と静まり返っている音楽室。

 ふと不安になって、ヘッドフォンがちゃんとついているか確認した。

 死色は……ちゃんとついている。よかった。

 息を殺して音楽室の錠を外す。

 カチャリ、と錠を開けた時。

「おい、何してる?」

「……っ」

 振り向くと、この学校の教師だろう、怪訝そうにこちらを見ている。

「あ、えーっと……。」

 やばい、想定外だ。そういえば教師なんてやつがいた。

 我ながら馬鹿だ、大馬鹿だ。

「あのでしね?しーたんがぁ、おん?音楽室?に忘れたものあるんでしけどぉお、来たら鍵が空いてる?はれ?開いてたでし!」

 と、死色が珍しくまともにフォローしてくれた。

 教師は、ふむ、と言ってこちらに来る。

 さすがにバレるかもしれない。そう思い、俺は鍵に向き直った。

「本当だな。どれ、まあ、忘れ物したなら取ってきなさい。」

「はあぁあい!ありがとうございましぃい!」

 俺らが中に入ると、教師も中に入る。

 ―――面倒だ。

「忘れ物ってのは―――。」

「おやすみ。」

 俺は首の後ろを突く。

 どさっと倒れる教師。俺、今日殺人してないぞ?偉くね?

「かああぁあっこいいでしね!名莉海くん!てゆーか!今のしーちゃん、役に立ったでしか!?でしかでしかぁ!?」

「ああ、助かった。俺としたことが教師の存在忘れてたぜ。」

 邪魔にならないところに教師を放り投げ、気配を探る。

 ―――やっぱ、準備室か?

 そう思った時。

『その声わぁ……黒闇陽……死色たん……だね?』

 唐突に声が響く。

「う?うう、この声、聞いたことありましよ!フルート野郎でしね!!」

「ってことは、歌乾湖かってね。」

『誰か増えたのかな……?兎に角、よくわからないけど…。』

 どうやら、前がよく見えないらしい。まあ、どこに潜んでいるかもわからないし。

「しーちゃんには……効かないでしよっ!!」

 途端、死色は音楽室の椅子の影、否、椅子に大剣を突き立てた。

 椅子は破壊音を響かせ、死色の剣に耐え兼ねて壊れる。

「…………。表に出て戦うのわぁ……好きじゃない………んだよ。」

 ずず、と影から身を出す―――歌乾。

「はぁん。そういう技ね。」

 俺は納得したように頷いた。

 と、同時に弓を準備した。

「さて、と。名莉海くん、戦いの合図、よろしくでしぃっ!!」

「おーけーおーけー。任せとけ。」

「―――?」

 不思議そうに首を傾げた歌乾を他所に、俺は笑いながら言った。

「任務開始―――ってね。」


◇◆◇


「粗蕋抄夜君。」

 誰かに声をかけられた。

 低めの男の人の声。

「そろそろ目を覚ましてくれないと話が進みません。」

「………。僕は寝てないよ。」

 目をひらくと、天井が見えた。

 寝てたのか……?

 ずっと起きていたような気がするのに。

「おはようごさいます。粗蕋抄夜君……いいえ、抄夜君でいいでしょうか。」

 起き上がってみるとそこは教室だった。

 教室といっても机は3つしかなく、人が寝れるような簡単なベッドがいくつかある。(僕はそこで寝ていました。)

「ここは海神?」

「ほう………意識がなかったのによくわかりましたね。」

「学校といったら海神か僕の中学校しか知らないからですから……それに。」

 手がロープで縛られてる。

「こんなことされるのは母校じゃあり得ないと思いますし。」

「母校ですか…………。」

 机に座っている男の人を見る。

 僕の学校の制服じゃないし………近所で何度か見たことがある制服。

「………で、貴方の名前は?」

「雅です。」

「雅さん………僕に何か用でもあるんですか?」

「用ですか?………迎えに来た。というような感じです。」

「はい?」

 迎えに来た……?

 むしろ、拐われたに等しいと思うんだけど……。

「単刀直入にいいます。仲間になりませんか?」

「嫌です。」

 即答した。

「………そうですか。しかし。抄夜君。君は、普通中学校に通っていい身分なのでしょうか?―――少年院など、もしくは牢屋に行くべきではないでしょうか?」

「……………よくわかりません。」

 なんで、今更になって僕の秘密を知ってる人が増えてくるんだ……?

 どこかに情報屋でもいるのか?

 それとも、五月ばれというやつか?(五月じゃないけど。しかも、五月ばれだったかも不明。)

「わからないですか……残念です。私達は君を待っていますから。いつでも。」

「………。」

「それにしても湖が帰ってきませんね。あぁ、貴方の仲間が来たのかも知れませんね。」

「仲間?」

 ……死色のことかな?

 死色とはそこまで仲良くしたつもりはないし、助けてくれるとかそんな都合のいいことがあるとも思っていない。

「湖は戦うのが好きですからね………。どこかで待っているのかもしれません。」

「仲間とかいないよ。」

「仲間はいないのですか?では、なおさら私達の元へ来たほうがいいと思いますよ?」

 一人はさみしいですからね。とつけたす。

「さみしい……?一人は気楽ですよ。とても。」

「一人暮らしなんでしたっけ?………私と暮らします?いいですよ。一人ぐらい。」

「嫌です。」

「頑なですね。………もっと脆いと思っていました。」

「脆いですよ。僕は。」

 僕は脆い。

 ちょっとつつくだけでガラリと崩れ落ちる。

「そうですか。ふふふ――」

「気持ち悪いです。」

 とかいいつつ、絶対とられているであろうタロットカードを探す。

 やっぱ箱はとられてるか。

「カードはここにありますよ。抄夜君。あぁあとケータイは封磨に二つとも預けてありますので。一つは封磨のですし。相子ということにしておいてください。」

「封磨……?」

 死色が刺した人かな?

 つまり、湖のおにいちゃん?

「封磨はもうすぐで帰ってくると思うんですけどね。……そろそろですかねぇ。」

「そんなこと言われても困ります。」

「蜜柑は絶対に来ないとおもいますが、封磨がこんなに遅いと少々心配ですね。」

「蜜柑………?」

「あぁ、蜜柑にはあってないんでしたっけ?そのうち会いましょうね。案外仲良くなれるかもしれませんし。」

「そうですか……。」

 話しながら考える。

 蜜柑でも封磨でも湖でも他の誰かが来る前に手を打ったほうがいいかもしれない…いや、いいに決まってる。

 でも、縄が邪魔で何もできない。

「そういえば紅咲がいっていたんですけど、ビショップってなんですか?」

「ビショップ?あぁ、湖のことですか。――チェスの駒のことですよ。ポーンに――ルークに――ナイトに――ビショップに――クイーンに――キング。」

「あなたはキングですか…?」

「まさか、動けないキングなんていりません。私は……そうですね、クイーンというところでしょうか。」

 クイーンは女じゃないの。とつっこみたいところだが、話が拗れてしまっても嫌なのでスルー。

「ポーンが蜜柑。ルークは封磨。ナイトは新汰(あらた)。ビショップは湖。クイーンは私。といったところでしょうか。………キングが空いてますよ。」

「だから、嫌だって言ってるでしょう。」

 キングが空いているといったと言うことは、逆説的にいくと他は空いていない。

 つまり、海神――雅さんの仲間はその人たちだけと考えてもよさそうだな……。

 5対1か………。

「きついかな……。」

「はい?」

「いいえ。お気にせず。」

 紅咲に電話を入れたいところだけど、ケータイがないし。

 これならケータイをパクらなきゃよかったな。

「……………?」

 扉の外からがちゃがちゃと音がきこえ、暫くして扉が開いた。

 Open the door?

「雅さんー。封磨かな?」

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