幕間:とある男と老婆の会話
「・・・やはり!」
「ああ、間違いなかろうて・・・」
コロシアムで行われた決闘。
そのまさかの番狂わせを特等席で見ていた男と老婆は、疑惑が半ば確信に変わったことを確認しあった。
「オババよ」
「なんじゃ・・・ジュン坊」
男の呼びかけに対し、彼を幼き頃のあだ名で呼ぶ老婆・・・。
正直・・・とうの昔に成人を迎えた子供がいるにも係わらず、未だ自らが幼かったときの愛称で呼ばれるのは勘弁して欲しい男だったが、いかんせん彼女には頭が上がらない。
古い付き合いというのも一長一短だな・・・と思いつつ、男は老婆に問いかける。
「言い伝えでは・・・この後どうなる?」
「どうなるじゃと?知れたこと。お前も分かっておるじゃろう」
「・・・なら!」
「そうじゃ・・・天上の方々が、我らに『王』を遣わした・・・それ即ち『厄災』の前触れにほかならん!」
「ハハッ。自分が子供の頃から聞かされてきたお伽噺が、まさか事実になるなんて・・・」
ついこの間まで、あんなのは協会が権威付けの為にでっち上げたホラ話だと思っていた男だったが、もし過去に戻れるのならばそんな能天気で浅はかな思考のもと『召喚の儀』を執り行った自らの頬をひっぱたいてやりたいとすら思う。
だが・・・過去をやり直す権利なぞ存在するわけがない。
例えそれが、一国を統べる者であろうと・・・。
「ならオババ、我々が出来ることは・・・?」
「良くか悪くか、彼はアリスによって召喚された。そしてアレを見る限り双方互いを気に入っておるようじゃ。ここからよっぽど下手をうちさえしなければ、まあ・・・この国が存続できる可能性は決して低くはないじゃろて・・・」
まだ年若い少女なれど品行方正、文武両道を地で行く彼女が、自身の召喚獣たる彼を蔑ろにするような行いはしないだろう・・・。
こちらの振る舞いは以後気を配るとして、取り敢えず現状彼の気を損ねるようなことはせずに済んでいる・・・自身の思考をそこまで巡らせた上で一安心だと胸をなで下ろす老婆であったが、それに反し隣の男の顔色はといえば青・・・を通り越して白くなってしまっているではないか!?
「おい・・・ジュン坊?どうした?」
まるで死人を思わせるような顔になってしまった男を怪訝に思った老婆はそう問いかける。
すると、話そうか話すべきか迷う素振りを見せた男はやがてその重い口を開いた。
「あ、あのな・・・オババ。実はアンタに1つ言っていなかったことがあるんだけど・・・」
「ン?言っていなかったこと?」
そうして男が召喚獣たる彼を昨晩『客室』に放り込み、干し草を与えて一晩過ごさせたことを説明すると・・・老婆の表情もまた男と似たり寄ったりのものとなったのであった。
「・・・このタワケが!!!」
この特等席がせり上がっており、構造上他の誰からも視認できないのを良いことに老婆は男を杖でぶった!
「まさかこの歳で・・・しかもこの座について臣下に打たれることになろうとは」
「なら打たれるような行いをせんことじゃ!全く愚かを通り越して最早呆れた。今日はお前が馬と一緒に寝るがよいわ。いいな!?」
「えっ?嘘・・・だよな、オババ?」
「まあ、彼がそんな狭量な心の持ち主だとは思わんが、旗色が芳しくないのは事実。これからは気持ちを入れ替え、用心せねばならんぞ!」
「・・・それは分かった。それより、さっきの馬小屋の件、あれ冗談だよな?」
「この世界に『王』が舞い降りた。そしてここがその中心じゃ。これから先一瞬たりとも気を抜いてはならん。渦の中心は安全だと高をくくって呆けておれば、あっという間に吹き飛ばされてしまう。以後ワシらの浅慮な行いはこの国の滅びと心得よ!」
この国の主たる男にそれだけ言うと、老婆は自らの背丈ほどある杖を上手に使いこの場を辞する。
そして残された男は頭上に輝く金冠の存在を確認するように撫でると、こう呟いて後に続いたのだった。
「はぁ・・・馬小屋かぁ・・・」
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