主の『願い』
一応、手加減はしたつもりだった。
だって見渡す限り人のいない場所など無いし、この『コロシアム』なる建物の構造も分からない。
そんな俺の本気の一撃が、もしまかり間違って重要な支柱の一本でも砕いてしまい、結果、皆揃って石の下・・・なんてことになれば大惨事だ!
だから威力は全力の10分の1程度に抑え・・・また方向もキチンと制御した。
ヒューーーーンッ!!!
そして大幅に減衰された俺の一撃・・・『龍の顎』をくらった巨大ドラは、その爪や牙の破壊力を一切見せる暇無く吹き飛ばされたのであった!
「・・・え?」
そう呟いたルーデル・・・その横を『猛虎』が凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
それでも尚その勢いは留まるところを知らず、ヤツが入場してきた相手方ゲートを真っ直ぐに突っ切りまだ進むと、ついに俺からはその姿が視認できなくなってしまったところで・・・
ズーーーンッ!!!
と低い音が鳴り響いた!
「「「・・・・・・・・・」」」
審判の試合開始と共に観客から発せられた嵐のような歓声・・・それらはホンの一瞬でその行き場を失い、以後声の1つすら上がらない。
審判たる男すら唖然とした状態で動かなくなってしまっていたので、俺はそんな彼に声を掛けた。
「なあ、審判さん?まだやるの?」
「・・・えっ?」
「いや。試合はまだ続行?もしそうなら、行ってトドメを刺してくるけど?」
「あっ・・・いや!」
未だ戸惑いの表情を浮かべる彼は『猛虎』が吹っ飛んでいった方をチラリと伺い、未だあのトラが戦闘可能な状態かを見にいくべきか迷う仕草を見せる。
だが・・・やがてその主たるルーデルの右手の甲が淡い光りを放ち始め、やがてそれが消失するのを視認したところで、その必要が無いと判断したようだ。
「試合・・・終了っ!!!」
その声とともに横に設置されていたドラが鳴らされる。
そして、勝者の名前が高らかに宣言された!
「勝者・・・第二王女アリスが召喚獣、トール!」
・・・その瞬間、嵐は再び轟いた!
「「「ウオオオオオオオオッ!!!!!!!」」」
取り敢えず右拳を高々と掲げ、少しの間、勝利の余韻に浸った俺はルーデルの方を見る。
「う、嘘だ・・・」
歓声に遮られ碌に声を拾えなかったが、あの絶望を貼り付けた表情と唇の動きから馬鹿兄の呟いた言葉は容易に分かった。
(「人を散々罵ってくれたんだ。同情には値しない」)
と溜飲を下げた俺は、ようやくご主人様たるアリスの方を振り返る。
すると、
「・・・って、なんでお前も固まってるの!?」
なんと、アリスの方も勝負開始直前の、あの祈るような仕草のまま呆けているではないか!?
「おい、アリス!見てたか!?終わったぞ!勝ったぞ!おーい?」
「・・・・・・・・・ハッ!トール・・・トールか・・・・・・・・・トールッ!!!」
「ウオッ!?どうした、大丈夫か?」
「あ、ああ・・・トール・・・」
「終わったぞ、勝ったぞ。これで良かったよな」
「・・・本当に勝ったのか?あの『猛虎』に・・・ルーデル兄様に・・・?」
「ああ、勝ったぞ。な、心配いらなかったろ」
「そうだな・・・心配は・・・いらなかった」
「ん?どうした?」
「トール・・・アレは・・・あの業は一体何だ?」
何・・・か。ソレを一口に説明するのは中々骨が折れる。
まあ簡潔に言うと・・・
「アレは奥義その1『竜の顎』だ」
「え?『竜』?」
「そ。『竜』」
俺を育ててくれた竜王たる爺ちゃん。
『その吐く息は大地を溶かし、尾の一振りは空を割る』と言われる『五龍』の『黒』たる彼から教授された一子相伝の技の1つだ。
込めた『闘気』を圧縮しそのまま放つだけという何ともシンプルなもの故、極端な話・・・足先からだろうがツムジからだろうがケツからだろうが放つことは可能なのだが、俺は拳に力を溜めるイメージに慣れているから、もっぱら使うときは腕に頼っている。
(「って言ったところで、アリスにはチンプンカンプンだろうから言わないけど・・・」)
「・・・フフッ」
・・・と自らの技について回想していると、唐突にアリスから笑い声が聞こえた。
「ん、どうした?」
「いや・・・そうか・・・竜か・・・」
「ん!そうだ!竜だ!竜がネコなんぞに負けるか!」
「ネコじゃなくて『猛虎』・・・虎だ。といっても、あんな技を打てるトールにとってはどちらも大差ないのかもしれないな」
「そうだぞ。だからなアリス・・・」
「ん?何だ?」
「竜の力を身に宿すこの俺を召喚したお前の『願い』は、決して誰かに馬鹿にされるようなもんじゃ無い!」
「・・・っ!」
昨日、ルーデルに言いたい放題言われた挙げ句、見境無く男を手中に収めようとする淫売かのように扱われたアリス。
そう言われる要因となっていたのは『召喚獣は主の『願い』を反映したものである』という言い伝えだろう。
だから、俺はその時傷ついたであろう彼女の心を少しでも癒やしてあげたかった。
故に告げた言葉であったが、それを聞いたアリスはといえば・・・
「ウッ・・・ウウッ・・・」
またもや大泣きしてしまったのであった!
「おい、お前・・・昨日今日とどんだけ泣くんだよ?」
もう流石に涙も空だろ・・・。
「そ、そんなこと言われても・・・ウウッ・・・」
「ほれ、もうそろそろ観客に手でも振ってやったらどうだ?」
「・・・え?」
そういうと同時に俺がもう一度高く手を突き上げると・・・
「「「ウオーーーーーッ!!!」」」
周囲から割れんばかりの歓声と、それに匹敵する拍手がとんできた。
「・・・ハッ!」
途端にネコを被り、王女としての振る舞いを取り戻そうとするアリス。
(「いや・・・もう、何もかもが遅いような・・・まあ、いいか」)
目を赤く腫らしながら、それでも笑顔で手を振る彼女を見て・・・俺は微笑ましい気持ちになった。
「さあ、帰るか。主様」
「ああ、帰ろう。トール」
ここに来るときはあんなに重そうだった彼女の足取りは、すっかり元に戻ったようだ。
俺と主は歩を並べ、2人並んで悠々と『コロシアム』を後にしたのだった。
「ああ、言い忘れていた。トール」
「ん?」
「ありがとう・・・本当に、ありがとう」
感謝の言葉を、そこに残して・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!
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