突然の来訪…
「・・・眠れない」
兄ルーデルとの戦いを制した私・・・アリスはその日の晩、疲労こそあれど中々寝付けない夜を過ごしていた。
今日のように緊張や不安を四六時中抱えながら過ごす1日は予想以上に心身に応えたようだ。
自身の心も身体も・・・一刻も早い休息を欲しているのは間違いない。
しかし、それでも尚私の目がさえてしまうのは・・・
「・・・トール」
浅黒い肌をした私の『召喚獣』たる彼が、自らの目の前で起こした『奇跡』に対し、大いに興奮しているからに他ならない。
目を瞑ると脳裏に浮かぶのは、『決闘』にて兄様の召喚獣・・・『猛虎』を吹き飛ばした彼の姿。
白い閃光が彼の右拳から炸裂したかと思うと、その光線は目の前の『猛虎』に食らいつき・・・そして吹き飛ばす。
そして想像の中の彼は高々と拳をあげると、こちらに向かって笑いかけながら真摯な眼差しで言うのだ。
「アリス・・・お前のことは俺が守る」
「・・・はっ!?」
まただ。
現実で起きた事象を都合良く改変し、自身が言って欲しい言葉を紡ぐ彼を妄想しては目を開ける。
そんなことをもう何回も繰り返しただろう・・・?
(「一体・・・どうしてしまったんだ、私は?」)
今、自らに宿っている不思議な感情・・・その扱いに戸惑う夜を悶々と過ごす私の部屋に・・・突如、コンコンッとノックの音が響いた。
「・・・!何だ!?」
疲れをとるという名分の元、食事も採らず自室に戻ったが故にまだ夜更けとは言いがたい時刻ではある。
だが、これでも私はこの国の王女だ。私室に戻り寝間着に着替えた私への訪問が許される者など両手で数えられるほどだろう。
しかし、火急の用件ともなれば当然その限りではなく、手空きの者が起こしに来るという可能性は十分にあり得る。
(「もしや・・・マグリアが動き出したか!?」)
今、この国にとって1番の懸念事項たる北の隣国を思い浮かべた私は、頭を直ぐさま切り替えると扉の向こうに呼びかける。
するとそれに対し、返ってきたのは聞き慣れた声だった。
「姫様。夜分遅くに申し訳ありません」
「シオンか?どうした?」
私の身の回りの世話係たるメイドの彼女。
その声に切迫したものが無いことに気付き、一つ胸をなで下ろすと共に、
(「だが、一体何のようだ?」)
と直ぐさま訝しんだ。
今日の疲労度を考え政務を早めに切り上げた私は、寝室に引っ込む際シオンに対し・・・「これ以降の用件は全て明日に回すから」と言伝ておいたのだ。
常日頃2人きりのときは気さくに接してくれるな彼女だが、だからといって自らの仕事を疎かにするような人ではない。
にも拘わらず、こうしてやって来たということは・・・シオンの裁量では断りきれない用件が出来たということだ。
さて・・・その用件とは?
「イリス様がお来しです」
メイドたる彼女の口から出た人物の名・・・。
それは黒いローブの老婆のものだった。
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