愚兄からの申し出…
「・・・ッ!兄様!」
(「クソッ・・・肝心なところで!」)
悠々とした足取りでこちらに歩いてきた第一王子ルーデル。
その表情はニヤついており、とても泣いている妹を慰めようとする兄の顔には見えなかった。
まあ、例え顔を見ることが出来なかったとしても、コイツがそんな殊勝なことをしようとする可能性が皆無であることくらい、昨日この国に足を踏み入れた俺ですら分かっただろうが・・・
「なんだ?やっぱり男が恋しくなったか?」
「そういうことではありません。私はただ、彼と会話をしていただけです」
「会話?ハッ、笑わせる!一体どこから呼び出したのか知らないが、全裸で登場したことといい、その浅黒い肌といい、それだけ情報があればコイツの正体なぞおおよそ察しはつく。どうせ一山幾らの奴隷なのだろう!そんな山猿と会話するなど耳が汚れるぞ!悪いこと言わん・・・止めておけ」
「ど、奴隷・・・!?山猿!?兄様、それは失礼が過ぎます。彼にはトールという名前が・・・」
「ほう・・・もう名前を付けたのか?いよいよもってお気に入りと見える」
「付けたのではありません!彼には元々名前があったのです!昨日も一度名乗っていたではありませんか!?」
「ハッ!知らんなあ!昨日の儀でコイツについて知ったことと言えば、服を着る習慣すら持ち合わせていないほど文化の劣った地域出身か、もしくは余程扱いの悪い主人に仕えていた哀れな下僕か・・・もしくはその両方なのだろうということくらいだ!」
「・・・兄様。今の発言、流石に聞き捨てなりません!彼に・・・トールに謝罪、及び発言の撤回を!」
怒髪天を衝くとはきっと今のアリスの表情のことを言うのだろう。
眉間に大きく皺を寄せ、その整った容姿から可愛らしさと言った概念を完全に消失させた少女は昨日散々やり込められた実の兄に対し1歩も引かない姿勢を見せる。
(「アリス・・・」)
俺を侮辱されたことに対してそこまで親身になってくれている・・・それが純粋に嬉しかった。
しかし・・・そんなアリスの憤りも兄にとっては微風に等しいようだ。
ルーデルはハッと小馬鹿にするような苦笑を1つ入れた・・・かと思うと、
「いや・・・待てよ・・・?」
と呟き、そのまま考える仕草を見せる。
そして短い思考の末・・・名案を思いついた様子の長兄は・・・
「よしっ!なら、こうしよう!」
とアリスに提案したのだった。
「アリス!今から俺と『決闘』しろ!」
(「・・・は?何?デュエル?」)
今の今まで不思議と意思疎通に事欠かずに済んでいた俺は、ここにきて始めて概要すら理解出来ない単語を耳にすることになる。
デュエル・・・とは、一体なんぞ?
「なっ・・・!兄様!正気ですか!?」
キョトンとしている俺に対し、アリスは驚愕の表情を浮かべつつ、実の兄に対し発言の真偽を問う。
「ホホウ、俺の気が狂っているように見えるか?安心しろ。俺はいたって正常だ」
「正常!?どこがです!?昨日の今日で『決闘』など・・・!そもそも兄様だって『彼』を完全に御しきれるわけではないでしょう!それでもし・・・トールに何かあったら・・・!?」
俺の名前が出てくる・・・そして、『何かあったら・・・』というぶっそうな表現も持ち出される。
ここまで情報が出そろえば、なんとなく狂った兄上が妹に対し何を持ちかけているのかは想像がついた。
(「決闘とはおそらく・・・召喚獣同士の一騎打ちのことだろう」)
そう考えればルーデルが何故余裕綽々の態度でいられるのかも説明がつく。
馬鹿兄の召喚獣とやらは・・・おそらくあの巨大虎だ。
他の兄弟達と思われる男女のソレに比べて一際強い光を放ち、その獰猛さも群を抜いていたあの猛獣・・・
その化け物と『山猿』こと俺を戦わせれば、勝負の行方は明らかだと踏んでいるのだ。
「なあに。所詮召喚獣、死にさえしなければ時間経過で回復はするさ。死にさえ・・・しなければな」
「・・・っ!?」
兄の助言を聞いたアリス・・・その表情が凍り付く。
きっと彼女は兄ルーデルの真意を悟ったのだろう。
まあ、これだけあからさまに言われれば気付かない方が難しい・・・。
ルーデルは・・・俺を殺すつもりだ!
「そうだな・・・よし!もしお前が『決闘』で俺に勝つようなことがあれば・・・俺は次期国王から辞退し、お前を推薦しよう!それでどうだ!?」
「!!!」
ソレを聞いたアリスの・・・その溶けることの無い氷柱と化していた表情にヒビが入る。
そして一瞬の苦悶と・・・俺への視線。
彼女が自身の欲を押さえ込むのに、掛かった時間は一瞬・・・。
アリスは毅然とした表情を作ると、兄に対して返答を口にした!
「いや・・・お断わ・・・」
「よし!乗った!」
「りする・・・って、え?」
兄弟の会話に強引に割って入る第三者の声。
ソレが据えた匂いのする馬小屋から発せられ・・・2人の会話を強引に引き留めた!
「・・・ククッ!そうか!おいおい、どうやらお前の召喚獣は乗り気のようだぞ!余程自身があるのか、コイツは!?ハハッ!」
「ト、トール!?お前・・・意味が分かって言っているのか!?決闘は戦いだ!召喚獣同士の真剣勝負だ!もしかしたらお前が命を落とすかもしれないんだ!」
笑いを堪えながらどうにか会話を継続させる兄と憂いの表情を浮かべた妹。
俺は兄の方を無視すると、妹に向かってこう宣言した!
「大丈夫・・・俺に任せろ!」
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