サンセット王国の内情
「端的に言うと・・・我が国は風前の灯火なんだ」
そう始まったアリスの説明によれば、どうやらこの国・・・サンセット王国の実情は控えめに言って困窮しているようだった。
大陸東部に位置する小国であるここは、周囲を中堅国に囲まれながらも侵略されることはなく、その存続を許されてきたのだという。
その理由は主に2つ。
1つは、他国にとってこの小国がうま味に欠ける存在であったこと・・・らしい。
「この国の王女たる私が言うのも筋違いなのかもしれないが・・・まあ、ハッキリ言って他国はこの場所に魅力を感じないのだろうな」
自らの高貴な地位をサラッとカミングアウトした第2王女アリスの弁によると、ここサンセット王国は周囲を峻険な山々で囲まれ、人2人が通ろうとすればどちらかが滑落すること間違いなしの隘路だけが辿り着く唯一の方法であるという、なんとも異質な場所に存在しているらしい。
そんな艱難辛苦を乗り越えてまで、吹けば飛びそうな小国が欲しいと思う物好きが周囲には居なかった・・・というのが理由その1であるようだ。
・・・仮にこの国を攻め落としたとして、その勝者が得ることの出来るものはといえば、交通の便が雀の涙ほども整備されていない小さな土地が1つ。
彼等とてこの険しい山道はとても1年やそこらで整備できるものでは無いことくらいは重々承知だろう。
ならば捨て置くこともやぶさかでは無い・・・と、長年にわたり野放しにされていたというのがアリスの弁だった。
そして、もう1つの理由はと言うと・・・
「山々に時たま現れる『魔獣』だ」
「・・・『魔獣』?」
理由は定かではないが、どうやらこの国を囲む山々には稀にとんでもなく強い『魔獣』と呼ばれる生き物が出現するらしい。
その姿を目にし生きて帰った者は殆どいないとされるが故、正直存在そのものが眉唾物なのだそうだ。
しかし、偶にこの国を訪れる物好きな旅人などの話によれば、どうやら『シナイ山』に巣くう『隻眼の怪物』の存在は隣国は勿論・・・遙か彼方にまで轟いているらしい。
そんな化け物のお膝元たるこの場所に、兵を差し向けようとする愚かな国主もやはり周囲には存在しなかったらしく、それもこの小国が今も細々と生き続けている理由なのだそうだ。
「・・・なんとも情けない話だろ?」
それだけを端的に説明した彼女は、どうやら隣国からお目こぼしを貰うような形でどうにか生きながらえている状態のこの国の歴史を恥じているようである。
故に、自国を情けないと評した彼女だったのだが、俺は全く別の感想を抱いていた。
「そうか?誰も戦うこと無く傷つくこと無く、民が平和に過ごせているのなら言うこと無しじゃねえか?」
爺ちゃんはよく言っていたものだ。『戦ったら負け』だと・・・。
「戦争っていうのはやっちゃいけないんだよ。仮にそれをやって、結果勝てたとしても、大概は得るものより失うものの方が遙かに多いんだから」
戦いに備え物資を優先的にそちらにまわせば、畢竟・・・民の暮らしは困窮する。
経済や文化の発展は著しい遅れを強いられ、それを取り戻すのには倍の時間じゃ足りない。
そして・・・当然のことだが、命は一度失えば替えが利かない。
戦って勝つことに誉れを覚える者が後を絶たないのは人の宿命なのかもしれないが、その決定がそこに生きる人達の運命を左右する『長』の役割を務める者・・・少なくともソイツだけは、『戦わずして勝つ』方法を最後まで模索しなければならないのである。
「・・・ってことだ。だから、情けなくなんてねえよ」
俺はかつて自身が教えてもらったことを、そのまんま彼女に伝えた。
ここはきっと、自身の生まれ育った故郷とは縁もゆかりも無い場所だろう。
だが、たとえそうだとしても『真に正しき道理』とは、場所を選ばないものである。
だから、この『情けない』小国を・・・そこに住む民をこれから率いていくかもしれない彼女には、そのことを知っておいて欲しかった。
「・・・・・・・・・トール、あなたは一体?」
俺の話を聞いていたアリスは、馬小屋に閉じ込められた、まさに『どこぞの馬の骨』からは到底出てくるはずも無い話を聞かされて、俺のことを不審がっているようだ。
俺はそんな彼女の不安を取り除くべく、出来るだけ優しい声音で話しかける。
「アリス・・・心配しなくても、俺はお前にもこの国にも何か危害を加える気が無い。さっきも言ったけれど、俺は少しくらいならお前に力を貸してあげたいなと思ってるし、それが済んで俺がお役御免になったら故郷に還してくれればそれでいい。どうやら俺はお前の『召喚獣』ってヤツで・・・お前のパートナーみたいなものなんだろ。なら、ここにいる間は、出来る限り、お前の助けになるよ。それじゃ・・・駄目か?」
「・・・!ウウッ・・・!」
「わっ!また泣くのか!もう・・・何でだよ!?」
三度涙を目に浮かべた王女様に対し、オロオロする俺・・・。
・・・民草を統治する者の心構えなる文言は、耳にタコができるくらい聞かされてきたというのに、目の前の女の子から涙を取り去る方法なぞ寡聞にして知らない俺であった。
「いや・・・なんだ。その・・・嬉しくてな。本当に嬉しくて・・・スンッ、今までそんな風に対等な立場から気遣って貰ったことは無かったから・・・スンッ」
涙を拭い、鼻をすすりながら、それでも微笑を浮かべている彼女を見て・・・俺はますます何かしてやらなければ!という気持ちに駆られる。
そして、この会話の核心・・・即ち、『サンセット王国に訪れつつある危機』の内容について尋ねようと俺が口を開いた・・・その時!
「おや?まさか昨日からまだ泣いているのか!?我が妹ながら情けない!」
緩やかな足取りで現れ、邂逅早々罵倒をかましたのは勿論あの男・・・長兄ルーデルであった!
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