俺はこの娘の味方になる!
「・・・まさか、そんなことになっていたとは」
昨日、彼女が『謁見の間』(というらしい)から涙ながらに出て行った後、俺がどういう経緯で馬小屋を寝床にすることになったのかを話してやると、アリスは顔をしかめながらそう言った。
「あの後・・・私は暫く自室に閉じこもっていたのだが、後に貴様のことが気になって兵に尋ねたのだ。そしたら・・・「あの方は『客室』でお休みになっておられます」と言うものだから、なら明日にでもこちらから伺おうかと思っていたのだが・・・」
『客室』ねぇ・・・。
まあ、木の雨露や洞窟なんかを寝床にすることなんて日常茶飯事だったから、居心地そのものに文句を言うつもりは無い。
だが、こっちの意思などお構いなしに召喚された(しかも全裸で!)かと思えば、人に非ずと謂わんばかりの扱いを受けたことに関しては、正直・・・文句の1つも言ってやりたい気持ちではいたのだ。
(「でもなぁ・・・」)
1日経ち、冷静さを取り戻したのであろうアリスのなんとも申し訳なさそうな顔を見ていると、とてもそんなことをしようは思えなくなってしまう。
「本当に申し訳なかった!」
・・・ましてや頭まで下げられれば、いよいよその気も失せるというものだ。
「いいよ、頭を上げてくれ」
「・・・ッ!だが!」
「これ以上、女の子が頭を下げる姿なんて見たくないんだよ。頼む」
「・・・そうか」
ようやく顔を上げてくれたアリスの顔を俺は改めてマジマジと見る。
その化粧っ気の一切無い顔は、やはり昨日より幼く見える。
(「多分・・・俺の2つか3つ下ってとこだろうな」)
年齢は15もしくは6の少女が、早朝に一心不乱に朝稽古とは・・・
もしかしてこの国は、相当切羽詰まっているのだろうか?
それこそ、女子供・・・ましてや彼女の様に高位の階級を持っているであろうと思われる者まで、戦いの準備をする必要を迫られる程に・・・
「なあ・・・アリス」
「な、何でしょう?」
何故か急に下手に出ようとするアリス。
どうやら、昨日の自身の行動に対し余程思うところがあるようだ。
「えーと、色々聞きたいことがあるんだけど・・・取り敢えずへりくだるのは止めて?」
「えっ?」
「俺としてはアリスにこれ以上思うところは無いんだ。謝ってもらったしね。だから、ここから先は『対等』・・・ってことでお願いできないかな?」
「『対等』・・・ですか・・・」
「ん・・・あれ?もしかしてマズい?」
もしかして召喚獣である俺とその主たる彼女が『対等』では、外聞が悪いのだろうか?
「いえ、あ、いや。貴方がそう望むなら、そうしよう」
なんとも歯切れの悪い返事だが、もし何か不都合があるようなら言ってくれるだろう・・・。
そんなことより、俺には彼女から聞き出したいことが山ほどあるのだ。
このように話すことの出来る時間がどれほどあるのか分からない以上、知るべき情報に優先順位は付けておくべきだ。
そして俺には『対等』な関係が持つ意味合いよりも遙かに聞き出したい情報が幾つもある!
「えーっと、取り敢えずもう一度自己紹介はしとこうかな。トールだ。よろしくな、アリス」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
昨日一度名乗ってはいるのだが、一応もう一度俺の名前を伝えておく。
先程から一度たりとも俺の名前を口にしなかったので、もしかしたら俺の名前を失念したのかもしれないと思ったが故である。
(「まぁ、きっとあの時のアリスの精神状態はメチャクチャだっただろうからな」)
『召喚獣』とかいう獣を呼び出そうとした結果・・・フルチンの男がでてきた挙げ句、そのことを理由に兄から罵詈雑言浴びせられれば、その全裸男が一度名乗った程度の名前など忘れてしまっても不思議では無い。
「で、早速なんだけど、なんで俺は・・・というより『召喚獣』とやらは呼び出されたんだ?何かお前の兄貴は「我が国の危機に対し・・・」とか言ってたけど?」
俺が彼女にそう問うと・・・ソレを聞いた彼女は目を丸くする。
「・・・どうした?・・・もしかしてあれか?部外者には言えないとか、そんな感じか?」
まあ、もしあの兄貴が言っていたことが大げさな誇張でも何でもないのなら、何処の馬の骨かも分からない男に、国家にとって重用な情報ベラベラ喋るわけにはいかないのかもしれないが・・・
「フフッ・・・」
「・・・?あれ、もしかして俺・・・何か変なこと言ったか?」
「いや・・・私はてっきり、元の場所へ帰還する方法を問うてくるものだと思っていた」
「・・・ん、まあそれも勿論重要なんだけどな?」
「なら、なぜきさ・・・いや、トールはそれを尋ねない?」
「・・・どうしても呼び慣れないようなら無理しなくていいからな」
そう言いながら、俺は彼女の問いに対する答えを考えていた。
見知らぬ土地にいきなり連れてこられたかと思えば、碌に人扱いすらしてもらえず、遂には馬と一夜を過ごすはめになったのだ。
そんな無礼千万なヤツらに対し力を貸してやりたいなどと思えるほど、俺は悟ってるわけではない。
だが・・・自身の目の前で涙し、また努力する女の子に対し、何も思わないほど落ちぶれてもいないつもりだ。
だから・・・強いて言うなら・・・
「そうだな・・・何となく、力になってやりたいと思ったからかな?」
「力に?誰の?」
鈍いな。ここでお前以外の名前が出てくる可能性なんてあるか!?
「誰のって・・・ここにいるのは誰だよ?」
「・・・っ!」
ようやく俺の言葉が通じたのであろう。
その真意に気付き、何故か両目に涙を蓄え始めた彼女に、俺は慌てて質問を再開する。
・・・もう一度言うが、時間は限られているのだ。
この娘が泣き止むのを待ってやる時間すら、正直・・・惜しかった。
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