馬小屋での邂逅
もし、2日前の自分にこの現状を伝えられたとしても、絶対信じることは無いだろう。
俺はそう胸を張って言える。
『召喚の儀』なる催しにて見知らぬ地の見知らぬ一室に連れてこられた俺・・・。
主たる少女・・・アリスによって置き去りにされた後、全裸で起立した1人の男の処遇についての短い話し合いがあり、その後最低限の衣服を着せられた末、多数の兵隊に周囲を囲まれながら連れてこられた場所・・・
それはなんと厩舎・・・すなわち馬小屋であった!
「んな馬鹿な」
自らの境遇に思わずツッコんでしまった俺を誰が責められよう・・・。
王(と思われる)を中心に腹心達(これも予想)と行われた短い話し合い・・・その結果がコレなのだとすると、彼等にはいよいよ俺を人間扱いする気が無いらしい・・・。
正直、こちらとしては用件が無いのであれば即刻帰還させて欲しいのだが、この馬鹿デカい城から追い出される訳でもなく、曲がりなりにも(本当に曲がりなりにも)屋根のある一室を与えられたということは、アイツらはまだ俺に何か利用価値があると踏んでいるのかもしれない。
(「なら、もうちょっとマトモな場所を提供してくれても良いと思うんだよなぁ・・・)」
だが、その願いが聞き入れられることは当然無い。
結局その日は、隣室の住人達(馬)と同様の食事・・・即ち山ほどの干し草を与えられ(食えない)、固い地面の上(貰った干し草を敷くとちょっとはマシになった)で一夜を過ごすことになる。
そして俺は、翌日の早朝・・・誰かの軽快な足音によって目を覚ました。
「・・・ん?」
目を擦りながら日差しの位置を確認すると、その角度はまだ浅い。
ここが何処だか未だに判然としないゆえに太陽の所在だけで断定することは出来ないが、きっと早朝なのだろう・・・。
軽快な足音以外に聞こえるのは、遠くの森から響く鳥の声のみだ。
(「なんだ?こんな朝早くから?」)
そう思った俺は、自身を阻む鉄柵の向こうに目をやる。
ありえない・・・とは思うものの、ここでの俺の存在は完全なる異分子。恐怖や嫌悪の対象として害しようとする輩がいないとも限らない。
(「まあ、もっとも・・・それはアッチでも同じか」)
心ばかりの警戒をしつつ、俺は柵の間からそっと外を窺った。
すると・・・厩舎から距離にして50メルほど離れた場所で、ただ1人剣を構えている女の姿が見える。
「アレは・・・!」
昨日とは異なり、装飾などを一切廃し動きやすさを優先した地味な服装。
だが、その端麗な顔立ちが変わるわけでも無い。
流石にもうその目に涙は見えなかったが・・・
「間違いない。あの娘だ」
俺の主たる女の子・・・アリスがそこにいた。
「まさか・・・アイツ、剣が使えるのか?」
俺は驚く。
自身の故郷近辺で女の剣士なんてものは存在しない。
戦いは男・・・家事は女と言う風にハッキリと役割分担がされているからである。
(「・・・もっとも、幼なじみのアイツは別か」)
・・・と一部例外を思い出すものの、物心ついた頃から共に野山を駆けまわった野生児を『普通の女』の枠の中に入れるつもりは無かった。
「んん・・・構えは堂に入ってるな」
少女の姿勢・・・それは少なくとも一朝一夕に出来るものでは無い。
だが・・・それと剣を使えるかどうかはまた別の話だ。
(「さて・・・実力の程は?」)
俺に値踏みされているとは当然知る由も無いアリスは正眼の構えから素振りを始めた。
「・・・・・・・・・」
何というか、ちゃんとサマにはなっていることに俺は再度驚く。
少なくとも素人では無い・・・そう言える程度の実力はありそうだ。
「だが・・・綺麗すぎる」
おそらく、まともな対人訓練というものをやった経験が少ないか、もしくは皆無なのだろう。
(「目の前に敵の姿が見えていない」)
その程度のことは数秒見れば分かった。
剣筋は流麗・・・演舞としては十分。
だが、実戦で使えるとは到底思えない・・・そんな印象を受けた。
(「惜しいな」)
おそらく、まともな指導を受けたことが無いのだろう。
仮に実戦経験が無くとも、もしちゃんとした指導者に教導して貰うことが出来ていれば、もうちょっと使えるものに仕上がっていたに違いない。
だが・・・おそらく性別が、もしくは彼女の特異な肩書きが、それを許してはくれなかったのではなかろうか・・・。
だが、そんな不遇な境遇にも係わらず・・・彼女は独学で剣を学び、こうして鍛錬を欠かさず行っていたのだろう。
演舞としては見応えのある彼女の太刀筋からでも、それは十分に分かった。
俺は昨日の彼女の涙・・・そしてあの一室からの去り際の言葉を思い出す。
「「畜生」か・・・」
そのひと言にどれだけの思いが込められていたのか・・・俺には知る由も無い。
だが何となく・・・並大抵のモノでは無かったのだろうな、とは思った。
「・・・ハアッ!」
最後の一閃を華麗に決めたアリスの声が、厩舎まで届く。
彼女は肩に掛けたタオルで汗を拭うと、今度は服を仰ぎ涼を得る仕草と共にこちらに近づいてきた。
「・・・!腹が見えとる!」
汗ばむ健康的な女性の身体についつい目が行ってしまうのは男として仕方が無いことではある。
だが・・・半ば盗み見るようなことはしてはならない!という自制が働いた俺は咄嗟に顔を背けた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・
来たときとは打って変わり、芝を擦る重い足音が近付いてくる。
そして・・・
「・・・えっ?」
(「・・・?」)
厩舎に幾分近付いた彼女の足音が止まると同時に発せられた声に対し、咄嗟に首を元の位置に戻すと・・・
「あ・・・」
アリスは・・・こちらを凝視し、そして・・・
「な・・・な・・・貴様ぁ!何をしている!?」
と、先程のかけ声に勝るとも劣らない声を上げたのであった!
・・・いや、それはこちらが聞きたいんです。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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