兄は妹を嘲笑す…。
神聖なる謁見の間・・・そこに鳴り響いたビンタの音に対し、真っ先に反応を返したのは、殴られた当人である俺では無かった。
「クッ・・・クハハハハハッ!!!」
この部屋中を木霊する笑い声・・・その出所はといえば、あの巨大虎を侍らせ立っていた若い男だった。
「おいおいっ、無様ここに極まれりだな、アリス!」
「・・・ッ!ルーデル兄様・・・」
目前の少女は、張り手の反動で赤く腫れた手をさすりながらその男を睨む。
その表情には怒りや不満といった負の感情がありありと浮かんでいた。
(「・・・?2人は血を分けた兄弟なのか?ならここは妹の気持ちを慮ってやるべきタイミングでは?」)
と思った俺。
しかし、その予想に反しルーデルとやらが妹アリスに対して発した言葉は、むしろ傷口に塩を塗り込むかのようなものであった!
「我が国が危機に対し、その命を賭して戦うべく行った『召喚の儀』・・・それで召喚したのが、まさかこんな何処の馬の骨とも分からん男だと!?ハッ!日夜剣を振ったり、勉学に明け暮れる日々を送っているお前に、まさかこんな欲求があったとはなあ?」
「・・・欲求?一体何のことを言って・・・?」
「なあに?俺は安心したよ。お前にも普通の人間と同じような欲があったことにな。だが、幾ら異性に対する興味関心を持て余しているからといって・・・人間の男を召喚獣しようとは思わなんだ!」
「なっ!?」
アリスと呼ばれた少女は、自身に掛けられたあり得ない嫌疑に対し、唖然とした表情を浮かべる。
「なるほど・・・ある意味良案ではあるのかもな。原則、召喚獣たるコイツらは主である俺達に逆らえない。そしてそれを悪用しこのように人間を召喚すれば・・・なんと!自分専用の下僕の誕生だ!」
「わ、私はっ・・・そんなこと考えてはおりません!万が一・・・私に異性に対する興味があったとて、国家の未来を左右するこの非常時に、そんなふざけた願いを叶えようとするはずが無いでしょう!」
「だが・・・現にこうして、人間の男が召喚されているではないか!?しかも・・・あろうことか全裸ときたものだ!遙か昔より『召喚の儀によって呼び出される召喚獣は、主の願いを反映したものである』とされている!そして、召喚されたのが全裸の男だ・・・いくらお前が初心な乙女とはいえ、それの意味するところが分からんわけではないだろう!」
「きっ・・・貴様あ!」
公衆の面前であらぬ嫌疑を掛けられたアリスは、いよいよもって堪忍袋の緒が切れたようだ。
最低限の礼節すらかなぐり捨て、実の兄を『貴様』呼ばわりする少女。
しかし、そんな妹の怒声さえルーデルは微風のように受け流す。
「おいおい、どうした!?良い子の仮面が取れかかっているぞ!この静粛な場で実の兄のことを『貴様』呼ばわりなど甚だ不敬!我が妹アリスよ!そこの惨めな召喚獣と共に即刻この場を立ち去るがいい!」
実の兄から数々の侮蔑を受け、遂には退去を命じられたアリス。
その目からは涙が溢れ、口角からは・・・きっと唇をかみ切ったのであろう、血が滲んでいる。
彼女はがっくりと肩を落とし、その足を馬鹿デカい扉に向ける直前・・・潤んだ眼差しで俺のことを見る。
そして・・・コレが夢や幻ではなく現実であることを認識したのだろうか・・・。
「ち、畜生っ・・・!」
とおおよそ高貴な女性が言ってはならないであろう文言を呟くと、それ以上俺に構うこと無く、一目散に扉に向かってひた走っていった。
「ククッ・・・なんたる行幸。これで俺の未来は揺るがぬものとなったわ」
妹に罵詈雑言を浴びせ、悦に入った男の呟き。
それが意味するところは俺には分からない。
だが、1つ言えること・・・それは俺はコイツが嫌いになったということだ。
ところで・・・俺は一体どうなるの?
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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