『格』の違い
「・・・っ!何だ!?」
その異変に気付き、真っ先に声を上げたのは、やはり白いワイバーンの搭乗者たる彼だった。
「おい・・・どうした?何故進まない!?」
きっと指揮官の男は自らが手に持つ手綱を通じ、「進め!」と指示を送っているのだろう。
・・・にも拘わらず、今までアレだけ従順だった白いワイバーンは彼の言うことを聞く様子が無い。
「な・・・何故だ?何故動かない!?」
・・・その後、自身の後方から上がってくる同様の声を聞き、この不可解な現象が自らにのみ突発的に起こった異変では無いと気付いた彼は、この段階になってようやく視線をこちらに返してきた!
「きっ・・・貴公!一体何をした!?」
不安や恐怖・・・そして怒りゆえに、先程とは打って変わった荒々しい口調でこちらを問い詰めてくる指揮官。
別に隠すつもりも無かった俺は、あっさりと自身のとった行動を白状する。
「なあに・・・コイツらにちょっと『格』の違いを教えてやっただけだよ」
「何・・・?格・・・だと?」
「そう・・・ワイバーンだか何だか知らないが、所詮ソイツらは人に飼い慣らされる程度の存在だ。そんなヤツらが俺より『格』が高い訳がないからな。ちょっと思い知らせてやった」
「・・・貴公・・・貴公は一体何を言っている?」
「分からないか・・・まあ、そうだわな」
『黒』の竜王たる爺ちゃんから薫陶を受けて育った俺には、爺ちゃんの亡き後・・・その光景を名乗れる程度の『格』が既に備わっている。
そんな『竜王の後継』たる俺と張り合えるだけの『格』を持つヤツがこんな所で人に飼われているわけが無い。
(「・・・といっても、今や俺もそっちの側か。ハハッ」)
か弱い女の子の召喚獣・・・いわば『僕』として生きている自らの境遇を思い出し苦笑した俺は、未だ愛竜を思うとおり動かせず苦虫を噛みつぶしたような表情を見せる指揮官に対し言葉を紡いだ。
「さて、勝負あったようだけど一応聞いておく・・・まだやるか?」
「・・・っ!勿論!この程度で退くほど我が隊は落ちぶれてはいない!」
そう言った指揮官は、自らの腰に佩いていた弓に矢をつがえ始める。
(「なるほど・・・まだ戦意は衰えないか」)
と、俺はマグリア兵達の戦士としてのあり方に賞賛を送る。
しかし、その一方で・・・どうやら彼等が大きな誤解をしていることに気付いた。
(「分かってないな。『格』の違いを見せつける・・・ってことの意味が」)
どうやら指揮官殿は、俺が何か特殊な方法でワイバーン達の動きを止めているとでも考えているようだった。
きっと、開口一番・・・自分が『召喚獣』を名乗ったがゆえに、きっとソイツら特有の能力とでも思っているのだろう・・・。
だから彼は弓を使って俺にダメージを与えるなり、そうでなくとも気を逸らすことで、この奇妙な能力を解除しワイバーン達の制御を取り戻そうとしているのだろう。
「指揮官さん・・・もしそれで俺を撃ってこようっていうなら、こっちももう手加減しないぞ?」
正直、あの程度のものが当たろうが俺が大したダメージを受けることは無い・・・。
だが、それはともかく・・・相手が戦意を持ってかかってくると言うのであれば、応じないわけにはいかない。
「無論!」
弓を引き絞り、狙いを定める指揮官・・・そんな彼の戦意に、未だ陰りの色は覗えない。
(「なら、仕方が無い」)
俺はそう割り切ると、少なからずマグリア兵に死人・・・ないしは怪我人が出てしまうことを覚悟の上で・・・奥の手を実行した!
「皆・・・着陸だ」
そう俺の指示が出た瞬間・・・見渡す限り全てのワイバーンが「クオッ!」と甲高い声で鳴き・・・そして徐々に降下していった。
「うおっ!?」
「おい!どうした!?」
「エルド隊長!ワイバーンが言うことを聞きません!勝手に降下し始めています!」
「なっ・・・なんだとお!?」
隊長エルド(ようやく名前を知った)の愛竜である白いワイバーンも例外に漏れることなく、静かに降下していく。
自身の意に反し、その一方で俺の指示通りに動くワイバーンは、もはや俺の手足と言っても過言では無い。
そんな彼等の背に乗りながら弓で俺を射る・・・などという芸当が当然出来るはずも無く、エルド達飛竜隊の面々は、自らが空中に投げ出されないようワイバーンの手綱や胴を掴むことに必死になっている。
・・・結局、飛竜隊の全員が怪我することなく着陸に成功すると、俺はもう一度ワイバーン達に指示を送った。
「お前ら・・・こっちに来い」
そして・・・再び一声鳴いたかと思うと、彼等は続々と自らの主たるマグリア兵の元を離れ・・・やがてその全ての個体が残らず俺の背後についた。
「そ・・・そんな・・・」
飛竜隊の面々から絶望の声が上がるのも無理は無い。
自らが手塩に掛けて育てたのであろうワイバーン達・・・その全ての個体がまるで俺の配下であるかのように振る舞っているのだから・・・。
「さて・・・もう一度聞こうか、エルドとやら。まだやるか?」
俺がエルドにそう問いかけると、俺の後方で優雅に羽ばたいている無数のワイバーン達・・・その全ての眼が一斉に『かつての』主人達の方を向く。
その瞬間・・・マグリア兵達はきっと悟っただろう。
このワイバーン達の主が・・・自分達では無くなってしまったのだということを。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。降参だ」
長い兆候の末・・・自らの失策を悟った隊長エルドは、ここでようやく白旗を上げた。
自らが携帯していたあらゆる武器をその場に放棄すると、両手を挙げて投降する意思を見せる。
「ふう・・・終わったな」
俺がそう呟いた瞬間・・・
「「「ウッ・・・ウオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」
一連の成り行きを見ていたサンセット王国の兵達から大歓声が飛んだ!
「なんか・・・元気いっぱいだな」
これなら後のことは任せて良いと判断し、俺はようやく自らの主たる少女・・・アリスの元へ向かい声を掛けた。
「アリス・・・コレで良かったか?」
自分達が収める国の一大事を、1人の怪我人を出すこともなく解決することが出来たのだ。
俺はてっきりアリスがまたもや、お得意の嬉し泣きを披露するのでは無いかと内心ヒヤヒヤしていた・・・のだが・・・
「・・・ああ、ソーマ。ありがとう」
俺の問いかけに対し、力なく返答を返してきたアリスの表情・・・
それはまるで・・・敗軍の将のようであった。
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