トール到着!
「ふう、間に合った」
どうやら、開戦する前に辿り着くことが出来たようで、俺・・・トールはホッと胸をなで下ろした。
「それにしても『ワイバーン』って何かと思ったら・・・」
謁見の間で行われた説明では、終ぞワイバーンなる存在の詳細が語られなかった。
ゆえに、未知の能力を備えたこの場所特有の生物を想定していたのだが、いざ蓋を開けてみたら・・・何てことは無い。
「俺のお仲間じゃねえか!」
自らの故郷にも姿形の似通ったのが・・・それこそ掃いて捨てるほど生息している。
だから正直、これなら猛虎の方が得体の知れない分、ナンボか恐かったまである。
しかし、それにしても・・・
(「まさか、竜に乗れる者がこれ程いるとは・・・!」)
今、目の前に広がる光景・・・それは自らが育った場所ではあり得ないものだった。
自身を『生物を超越した存在』であると位置づけ、ゆえに高いプライドを持つ竜・・・彼等が誰かを背に乗せるなど、余程のことが無い限りあり得ない・・・それが俺の故郷での常識だったのだ。
しかし、所変われば変わるもの・・・。およそ数百はいるであろう『ワイバーン』なる飛竜・・・その全てに鞍が敷かれ、あまつさえ人間に手綱まで引かれた状態での騎乗を許している。
(「これがカルチャーショックってやつか・・・」)
俺がここに来てから一番の衝撃を受けている一方で・・・
「な、何だアイツは!?」
「宙に・・・浮いてる!?」
「というより・・・今、向こうから飛んで来なかったか!?」
自分以外の人間はといえば、敵味方問わず俺の存在にこそ衝撃を受けていた。
そう・・・俺は今、宙に制止しているのだ!
王城から全速力で飛んでおよそ10分ほど・・・。
視界に映った一触即発の状況をどうにか止めようと声を荒らげた俺は、マグリアの進路を阻むように空中で手を広げ制止しているところなのだ。
(「正直、マグリアの処遇をどうすれば良いのか、アリスと相談したいところではあるが・・・)」
どう考えても、コイツらを前にしてやるようなことでは無い。
(「取り敢えず・・・ここで大人しく撤退してくれるようなら、こちらも危害を加えない方向でいくか」)
俺はそう方針を定めると、向こうの指揮官と思われる白いワイバーンの搭乗者に話しかけた。
「おい!聞こえるか!俺はトール!そこにいる女の子の召喚獣だ!ココはサンセット王国の領土・・・そして、お前らの家はずっと向こうだ!もし迷子だっていうなら俺がパパとママのいる場所まで送り届けてやる。だけど・・・もし、そうじゃないって言うのなら、少々痛い目を見ることになるぞ!」
「「「なっ・・・何だとぉ!?」」」
突然現れた不審な男からの、半ば挑発めいた提案に対し、それを聞いていた相手の兵達からは怒気を含んだ声が上がった。
まあ、それも当然と言えば当然である。準備万端整えてこの国を侵略しようとやって来た彼等を『迷子』と揶揄し馬鹿にした挙げ句、暗に「俺1人でお前らくらい倒せるぞ!」と宣言したのだから・・・。
(「もし、この程度でキレて襲いかかってくるようなら、どの道アイツらとの交渉なんて夢のまた夢だ」)
俺としては自らのこの発言に対する反応を見て、今後も付き合っていくことになるかもしれないマグリア王国の度量の大きさを測りたかったのだが・・・果たして、向こうの指揮官の返答は?
「・・・トール殿、貴公の心配には及ばん。私達は迷子では無く、また帰る場所も分かっている。私達は今日、この国に対し降伏を促しに来たのだ。今から我々はサンセット王の元に出向く。そして彼が私達の提案を呑んでくれれば、私達がココで戦闘を行うことはないだろう。だからトール殿・・・どうかそこを通してはくれないだろうか?」
(「・・・こりゃなんとも。思いのほか丁寧な返事が返ってきたな」)
なるほど・・・この程度の挑発に乗ることも無く、それでいて出来る限り戦いを避けるべきという意思も見てとれる。
どうやら、目の前で白いワイバーンを駆るこの男・・・少なくともコイツはある程度話の分かるヤツのようである。
しかし・・・そんな彼も、侵略という目的そのものを変更するつもりは無さそうであった。
「・・・そうか。なら仕方ねえな」
「分かってくれたか。トール殿が話の分かる御仁で助かった。無駄な戦いは出来る限り避けたいからな」
そう言った指揮官の表情からは幾らか強張りが抜ける。
きっと彼は俺の返事を「了承」の意味でとったのだろう。
しかし・・・それは大きな誤りだ。
「おいおい、何言ってんだ?俺は退くなんてひと言も言ってねえぞ!」
「・・・は?」
その身にしっかりとした理性を宿す指揮官の彼ですら、この返答には唖然としたようである。
「勘違いすんなよ!俺が仕方ねえと言ったのは、『仕方が無い・・・戦うか』ってことだ!ココを通してやるつもりなんてねえよ!」
「・・・トール殿」
そう言った指揮官は、改めて俺の様子を観察しはじめた。
これといった武器も無く、着用しているモノはといえば『召喚の儀』の後・・・厩舎に放り込まれた際に貸し与えられた粗末な衣服の上下のみ・・・。
『自らを召喚獣と名乗り、事実目の前で浮遊するという奇っ怪な能力を所有してはいる・・・が所詮は只の人間。我々の敵では無い!』・・・おおよそそんなことでも考えているのかもしれない。
だとすると・・・ヤツは甚だ思い違いをしていると言わざるをえない!
「最後の通告だ。そこをどいて欲しい」
覚悟の籠もった指揮官の言葉・・・それに対し俺は冗談交じりの口調で返す。
「・・・嫌だって言ったら?」
「押し通る!」
「そうか、なら・・・」
かかってこい
「・・・っ!全員、目の前の男を蹴散らし進むぞ!目標はサンセット王都!」
「「「おおおおお!!!」」」
指揮官の決断に、後方にて今か今かとその指示を待ちわびていたマグリア兵達が声を上げる。
そして、直後・・・前方からワイバーンの群れが迫ってきた!
「トッ・・・トールウウウウウウウウゥ!!!!!」
自らの下方から聞こえる悲鳴にも似た声・・・。
その出所を見てとり、ニッ!と笑顔を返すと、俺は正面に向き直った。
(「お前らに、格の違いを教えてやる」)
確かに俺は人間だ。
牙も無い・・・爪も無い・・・優美な翼も尻尾も無い。
(「だけどな・・・それでも俺は、『竜』なんだよ!」)
俺は力を解放した!
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