聞きたかった声…。
「降伏勧告・・・だと?」
随分とおかしなことを言うヤツだな・・・と、私は思った。
周辺国家への侵略を謳い、今こうして多くの兵を引き連れやって来た者の要求としては・・・ハッキリ言って行儀が良すぎるのだ。
(「正直・・・今、戦えば確実にこちらが確実に負けるだろう・・・」)
ワイバーンの存在は知っていたものの実物を目にしたことの無かった私は、飼い主たるエルドの指示を守り優雅に地に伏せっている白い竜を見て、自らの認識の甘さを悟った。
光沢のある白い皮膚はとても美しいだけではなく、それでいて硬度や厚みも兼ね備えてるのが見て取れる。
仮に今私の手元に弓があり、玉砕覚悟で一射放ったとしても、おそらくあの身体に傷を付けることは出来ないだろう・・・。
(「しかも、実戦となれば地上から遙か上空を飛ぶ彼等に向かって矢を放つことになる」)
そうなれば、重力の分だけ威力が減衰した矢で彼等にダメージを与えることはいよいよ不可能だ。
つまりそれらの事実は、この戦いでサンセット王国側が勝つことは『絶対に』あり得ないということを意味していた。
(「そして・・・きっとマグリア側もそれを分かっているに違いない」)
彼等はきっと上空から私達の数は勿論、装備なども見て取っただろう。
ゆえに、私達と戦ったとしても負けることなど無いと分かっているはずだ。
(「にも拘わらず、彼方の方から交渉の申し入れをしてくるとは・・・」)
先程まで、彼等が交渉のテーブルに載ってくれる可能性を極めて低く見積もっていた私は、逆にあちら側から提案を持ちかけられたことに困惑した。
「エルド殿・・・降伏勧告とは?」
私は自らの動揺をおくびにも出さず、彼に先程の発言の真意を問う。
我が国の兵に損害が出ないのは、こちらとしても願ってもないことではある。
だが、『降伏』の意味するところが「これからこの国の民はマグリアの奴隷だ!」といったものなのだとしたら・・・
(「その時は・・・犬死に覚悟で戦うしかない」)
私はそう覚悟した。
果たして、エルドの返答はいかに・・・?
「私達マグリア側に、この国に住まう民の命や生活を害する意図は全く無い。只、この国の主権を速やかに明け渡して貰いたい」
「・・・それはつまり、貴国の属国になれということか?」
今からこの国の領土を火の海にする・・・などと、ホザかないでくれたことには取り敢えず胸をなで下ろしたが、彼等の要求は決して楽観視出来るものでは無い。
(「なにせ今のマグリアの国王は、自らの父親が積み上げてきた『信用』という財産を容赦なく切り捨て国土拡張に執心する愚か者だ!」)
そんなヤツに主権を託せばこの国が・・・民がどうなるか分かったものではない。
「おおよそ・・・その解釈で間違いありません」
エルドは私の理解に対し肯定を示す。
「エルド殿・・・こう言ってはなんだが、私は今の貴国が・・・というより貴国の王が信用できない。噂によればマグリアの現王ネロウ殿は国民の安寧よりも自らの野望を優先する人のようだからな。なので1つ問いたい・・・もし、我々が貴君の言った条件を呑んだ場合、我が国の民がこれからも健やかに暮らしていけると、どうやって保障してくれるのだ?」
「そ、それは・・・」
私の問いに対しエルドは言葉を詰まらせる。
それは即ち、彼が持つ権限では到底そこら辺の裁量を決めることなど不可能だと暗に認めているようなものだ。
「・・・エルド殿、私は貴君の人となりを信用していないわけではない。だが、今の貴方の提案を承諾することは出来ない」
「それは、たとえ・・・これから私達と戦うことになってもですか?」
「そうだ」
「断言します。貴方達では我が飛竜隊には勝てない。間近でワイバーンを見て分かりませんか?彼等の皮膚をその程度の武器で傷つけることなど出来ようはずもないことが・・・」
「なっ・・・なんだとぉ!?」
私の後ろで静観していた将の1人が声を怒らせる。
思わずエルドの前に詰め寄らんばかりの彼を手で制し、私は会話を続けた。
「確かに・・・難しい戦いになることでしょう。そのことを否定する気はありません」
「・・・なら!」
「ですが・・・!」
私は後方を1度振り返り兵の様子を窺う。
ここにいる誰もが初陣。ましてや相手はマグリアの飛竜隊だ。ゆえに緊張や恐怖もひとしおに違いない・・・。
しかし、そんな兵達の目には、未だ闘志が宿り続けている。
だから、私も彼等の代表として、胸を張ってこう答えられた・・・!
「我が祖国を・・・サンセットの国民を守るためなら、この命・・・惜しくはない!」
「・・・!そうですか。私は少々貴国を侮っていたようです」
私達の覚悟の程を見たエルドは諦観の表情を浮かべると、これ以上話すことは無いといった様子で一礼し、白いワイバーンの方へと去って行く。
愛竜の翼を頼りに鞍に跨がり、その身体がゆっくりと上昇を始めるさなか・・・エルドは私達に言う。
「・・・ですが、残念です。あなた方の戦意は十分すぎるほどに伝わってきましたが、私は貴方たちと戦う気はありません」
「・・・?」
「飛竜隊全員に告ぐ。これより前方的集団の上を通過・・・戦闘の一切を回避しサンセット王都に向かう!」
「「「なっ・・・なんだとお!?」」」
(「そっ・・・それはマズい!」)
飛竜隊の長・・・エルドによる残酷な指示。
彼等は私達の上を悠々と通過し、そのまま王都を奇襲するつもりだった!
(「今、我が国の兵力の大半はここにいる!もぬけの殻状態の王都に飛竜隊が攻め入れば、我が国は・・・あっという間に陥落する!」)
何としてもそれは阻止しなければならない。
しかし・・・だからといって、私達では彼等を止めることなど不可能だ。
大空を羽ばたく鳥を遮るものなど何も無い・・・。
そして、ワイバーンの飛行速度に私達は到底追いつけない。
それは即ち・・・この国の終焉が間近に迫っていることを意味していた。
エルドの白いワイバーンは既に遙か高くまで上昇し、もはや弓ではどうすることも出来ない。
(「・・・ここまでか」)
私は・・・諦観と共にそう呟いた。
「飛竜隊!これより全速力で王都へ向かう!私に続・・・」
「ちょーっと待ったあ!!!」
その時だった。
聞き慣れた声を・・・聞きたかった声を耳にしたのは!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これからも、鋭意作成し続けたいと思いますので、応援の程、宜しくお願いいたします!
また、感想・レビュー・ブクマ・評価・コメントなどもらえると、作者は本当に喜びます!(ガチ!!!)
ぜひ…清き一票を!!!




