飛竜隊の急襲
「嘘だろ・・・」
自らが視界に捕らえたもの・・・それが間違いなくマグリアが誇る飛竜隊であると確信し、私は思わずそう声を漏らした。
ほんの一瞬・・・夢であって欲しいと願った。
しかし・・・そんな儚い希望に逃避するより先に、今の自分にはやらなければならないことがある・・・そう気付いた私は、即座に声を張り上げた!
「敵襲!敵襲!前方、空よりワイバーンの群れを確認!」
長時間歩き通してようやく与えられた休憩に弛緩していた空気は、私が張り上げた声によって一瞬で霧散する!
「なっ!?」
「ホントだ!もうあんな所まで!」
「そ、そんな・・・。ならこの先はもう壊滅したというのか・・・」
急ぎ応戦する準備を進めながらも、各々からは戸惑いの声が聞こえる。
(「確かに、私もこの先の村々がどうなっているのかは気になる」)
だが、それを考えるのは目前の敵を退けてからだ。
私は愛馬シュメーケンに跨がると陣形の先頭に向かった。
「姫様、危険です!どうかお下がりを!」
自身の前に突如、私が現れたことに驚いた将の1人が声を掛けてくる。
しかし私はその意見を即座に却下した。
「いや。まずは交渉を試みたい」
「こ、交渉ですか!?」
「ああ・・・ここで戦闘を始めてしまえばいよいよ後戻りは出来なくなる。もし協議次第でこの戦いを回避できるのであれば、それに越したことはない」
私がそう言った後の将の表情は『何を悠長なことを・・・』という感情を隠し切れていない。
『敵が目前にいるのだ。話し合いの段階など、とうの昔に過ぎている!』・・・きっと彼はそんな風に思っているのだろう。
それも一理有ると私は認めつつ、しかし・・・尚も交渉の可能性を閉ざす気は無かった。
(「トールは言っていた。私は『戦わずして勝つ方法』を最後まで探さなければならないと・・・」)
それは彼が以前馬小屋で話していたことではあったが、この土壇場の状況で私はようやくその意味を少し理解できたような気がした。
・・・もしこんな状況で戦いが始まってしまえば、こちらの『損害』は計り知れないものになるに違いなく、そしてその『損害』は・・・即ち『兵の命』は、どうやっても取り戻すことが出来ない。
出来ることならば・・・私は兵を1人たりとも死なせたくなかったのだ!
「全員・・・武器を下ろせ!」
一番後方の兵にまで聞こえるよう、私は声を張って指示する。
兵達は一瞬、敵が間近に迫っているにも係わらずこのような命令が出たことに首を傾げるも、第2王女たる私の指示であると認識した者から、上空に向けた弓矢や剣・・・槍を下ろし始めた。
(「交渉したいと申し出る側が武器を構えていては警戒されるからな・・・」)
ここまでの大群を連れてきておいて今更ではあるのだが、それでも出来る限りのことはしておきたい。
私も兵達に指示した後に自ら鞍を降り、そして腰に佩いていた剣を地面に置いた。
(「彼等は交渉に応じてくれるだろうか?」)
その不安は勿論ある。
そもそも彼等がここを攻めてきたのは、勝てるだけの自信を持っているからに他ならない。
本来、国同士の話し合いとは、双方が拮抗するだけの武力を持っていてはじめてもたれるもの・・・。
ほぼ間違いなく優位であろう彼等は、本来、交渉のテーブルに着く必要は無いのだ。
だが・・・それでも私は一縷の望みに賭けてみたかった。
「・・・来たな」
遂にワイバーンの羽ばたく音が耳に聞こえるまでの距離になる。
すると・・・
「姫様、先頭の一騎がこちらに向かって参ります!」
「ああ、そうだな」
数百はいよう飛竜隊・・・その一番前を跳んでいたワイバーンがゆっくりと下降してきた。
「な、何だあれは!?」
「デカい!それに・・・白だと!?」
そのワイバーンは通常のモノより一回り大きく、そして本来緑色をしている筈の体表が白く光り輝いている。
明らかな特異個体に兵達のざわめきが大きくなるも、私は決して動じまいとする。
(「武力では劣っている。譲歩は避けられない。だが・・・それでも舐められてはいけない!」)
この虚勢は、咄嗟にそう思ったがゆえであった。
バサッ!バサッ!
ようやく着陸した白いワイバーン。
その上から降りてきた壮年の男は私を視界に捕らえると、慇懃にも頭を下げた後・・・自らの正体、そしてその目的を伝えてきたのだった。
「私はマグリア飛竜隊長エルドと申します。今回私達はあなた方サンセット王国に対し降伏勧告に参りました」
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