飛竜隊長エルドの回顧
先王の頃は良かった・・・そう思うことが何度あっただろう?
自身の目前に居並ぶ多数の飛竜隊とその横に侍るワイバーンを見ながら、マグリア飛竜隊の長を務める私・・・エルドは失望していた。
それは国土の更なる拡大を望んだ当代の王・・・ネロウ=マグリアによりこの隊に下された命ゆえである。
彼が戴冠の際に配下に向けて行った演説・・・そこで語られた余りにも自分勝手な野望を聞いて、度肝を抜かれたのはきっと私だけではなかっただろう・・・。
『おい!お前ら!俺は死んだ親父と違って、こんな小国の王なんかで満足する気はサラサラねえぞ!周辺諸国を軒並み平らげて、このマグリアを中央の大国なんかに引けを取らない国にしてやる!大体親父は馬鹿なんだよ!折角、ワイバーンをわんさか持ってて兵達に訓練させてるっていうのに一切使おうとはしやがらなかった!なら、何のために飛竜隊なんて作ったんだよって俺は常々思ってたんだ!だから、これからはバシバシ使っていくぞ!取り敢えず小国から攻めていくのがいいだろな!おい!この辺りで一番小さい国は何処だ!?ああ?サンセット王国?そんな国あったか?・・・まあ景気付けには丁度良いか。よしっ!全軍・・・準備に掛かれ!まずはその・・・ええと・・・サン何とか王国を滅ぼしてやれ!」
(「ナロワ様・・・ご子息は、貴方が積み上げてきた功績を・・・信用を台無しにしようとしておられます!」)
もう2度と会うことが叶わない先王に対し心中でそう語りかけるも、当然返答が聞こえてくることはない。
そんな中、今も出兵準備を着々と進める兵達が、私にはが冥府からの使者にすら見える。
(「何とか・・・何とか出来ないだろうか?」)
私は無い頭を振り絞り思考に没入した。
(「正直、今更侵略を取り止める・・・などということは不可能だろう」)
仮にもし・・・自らの権限を用いることで、今回の侵攻の要となる飛竜隊に対し「待った!」をかけることが出来たとする。
(「だが、それも幾らかの時間稼ぎになるだけで終わるだろうな・・・」)
国土の拡大に執着甚だしいネロウ王の耳に私の企みが届いたが最後・・・そう日を置かずして自身の首と胴は永遠の別れをすることになる。
その後・・・早々と決まった私の後任が、王の忠犬として唯々諾々と他国に侵攻する姿が容易に浮かぶ。
・・・結局、私1人の自己犠牲で、この事態が好転することは無い。
(「もし大規模な戦が始まれば、折角先代が苦労して気付き上げてきた『商業国家』としての信用が地に落ちてしまう!そうなればこの国が干上がってしまうのは時間の問題だ!」)
大した資源も無いこの国を、調教したワイバーンを用いることで発展させようと思いついた先代の慧眼は素晴らしいものだった。
飛竜隊の練度を高め周囲の中堅国家がおおよそ太刀打ちできないほどの軍事力を手に入れた後、先代は「我が国は如何なる国・地域に対しても中立を貫く」と宣言したのだ。
これにより、マグリア王国が『どんな者でも対等に商業に参加できる場所』として知られるようになると、それが我が国にもたらした恩恵は計り知れないものとなった。
仮に、もし暴力を用いた不当な取引が行われようものならば、我らが飛竜隊が容赦なく牙をむき、場合によっては当人だけではなくその祖国にさえ制裁を科す。
・・・この仕組みによって、我が国では才覚さえあれば商売を行うことが可能となっていたのだ。
そうして『マグリアに来れば何でも揃う』と言われるまでになった今の我が国はまさに絶頂期と言って良い!
(「・・・なのに、あの王はソレを台無しにしようとしている!」)
中立の象徴たるワイバーンを他国を貶めるための武器として使い、身勝手な野望を叶えたその先に何があろうか?
(「ッ!やはり戦など駄目だ!」)
私は決意を新たにすると、自身の副官たる男を用いて隊員達を1カ所に集める。
そして、自らが考えた渾身の策を披露したのであった・・・。
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