第3話:一等地からの刺客、怒りの怒鳴り込み
「ちょっとそこ、営業妨害よ! あんなボロ宿、力ずくで営業停止にしてやるクマ!」
昼下がりの穏やかな空気を切り裂くように、ペットホテル『アルカディア』の門を叩き割らんばかりの勢いで、二人の少女が怒鳴り込んできた。
一人は、金と黒のメッシュが入ったスタイリッシュなポニーテールを激しく揺らしている、豹族の少女。仕立ての良い、王都の一等地にある店特有の高級トリマー服を身に纏っている。
もう一人は、茶髪のショートヘアに丸い熊耳をピコピコと動かしている、熊族の少女だ。小柄だが、着慣れたボーイッシュな作業着の上からでも、鍛え上げられた隠れ筋肉質であることがよく分かる。
彼女たちこそ、王都一等地にそびえ立つ最新魔導機器完備の高級ペットスパチェーンの店長、シャロンと、大型魔獣担当のクゥマだった。
「おや、いらっしゃいませ。……って、ドアが壊れるのでもう少し優しくノックしてくださいね?」
受付カウンターから顔を出したフィオが、ピキピキと青筋を立てながらも、営業用の笑顔で二人を迎え撃つ。
居間からは、メリンが心配そうに、カルラが笑顔のまま鋭い視線を投げかけていた。
「ノックなんて優しくしてられるわけないでしょ! あたしは高級店『ラグジュアリー』の店長、シャロンよ! アンタたち、元々ここはウチの商業ギルドが『最高級ペットリゾート』を建てる計画地だったのを知ってて、先に買い叩いたでしょう!?」
シャロンがバンとカウンターを叩き、顔を真っ赤にしてまくし立てる。
彼女たちの商業ギルドが書類を準備している間に、俺たちが「安い物件を見つけた」と一括で購入してしまったのは事実だ。因縁があるといえば、確かにあった。
「しかも、あんな公爵家のお嬢様のカノープス・キャットまで、ウチの最新魔導マッサージ機を嫌がって、こっちのボロ小屋に逃げ込んできたって口コミが広がってるじゃない! ウチの顧客を泥棒猫(狐)みたいにかっさらって、許せないわ!」
「そうだクマ! ウチの売り上げが落ちて、上層部から大目玉を食らったんだクマ! 営業妨害で訴えてやるクマ!」
クゥマも丸太のような腕を組んで、フンスと鼻息を荒くする。
そんな中、俺は奥の作業場から、特製の木彫りクシを持ったままふらりと姿を現した。
「あの……すみません。お話中失礼します」
「な、何よアンタがこのボロ宿のマスター!? 言い訳なら聞かないわよ!」
シャロンが鋭い豹の目で俺を睨みつける。
だが、俺の目は、すでに彼らの言い分ではなく、彼女たちの『身体』に完全に釘付けになっていた。
「……ひどいな。シャロンさん、それからクゥマさん。君たち、かなり無理をしてハサミや最新機器を使っているね? 毛並みが可哀想なことになっているよ」
「……はえ?」
俺の突飛な言葉に、シャロンが拍子抜けしたような声を上げた。
「シャロンさん、連日の立ち仕事と、高級店としてのプレッシャーのせいで、肩の筋肉がガチガチだ。そのせいで美しいポニーテールの根元が引っ張られて、自慢の斑点模様の毛並みがパサついている。クゥマさんも、力任せに大型魔獣をブラッシングしすぎだ。手首の関節が歪んで、剛毛が絡まったまま悲鳴を上げているよ」
俺の目は、完全にプロのトリマーのそれに切り替わっていた。
二人の職業病によるコリや、毛並みの乱れが、まるで光って見えるかのように一目で分かってしまう。職人として、目の前でボロボロになっている毛並みを放っておくことなんて、絶対にできなかった。
「な、何言ってるのよこの変態! あたしたちは文句を言いに来たの! 毛並みなんて関係ないでしょ!」
シャロンは顔を真っ赤にして後ずさる。
「関係なくないクマ! 熊族の毛並みは誇りだクマ! でも、オレの剛毛の絡まりが分かるなんて……アンタ、ただの素人じゃないクマ……?」
クゥマが驚愕したように自分の腕を見つめる。
「ええ、うちのマスターの技術は世界一なんです! そんなに文句があるなら、どっちの技術が本物か、お世話勝負で白黒つけたらどうですか!?」
フィオがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、帳簿を差し出した。
ここに、ボロ宿vs高級スパの、異例のトリマーお世話バトルが勃発しようとしていた。
第3話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに高級スパのライバル、シャロンとクゥマが怒鳴り込んできました。
しかし、レントの純粋すぎる「職業病への心配」に、早くも調子を狂わされる二人……。
次回、ギルドが手を焼いているという「超気難しい魔獣」を連れてのお世話勝負が開幕!
レントの無自覚ゴッドハンドが、ついにライバルたちの目の前で炸裂します!
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