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第16話:公式決戦の果たし状、ふたたびの怒鳴り込み

「ちょっとレント! そこを動きなさいよ! 今日こそ公式に決着をつけてやるんだから!」


 第1章で世界を滅ぼす破壊神――古代竜をも手懐けた大騒動から数日。

 ペットホテル『アルカディア』の玄関扉が、ふたたび凄まじい勢いで蹴り開けられた。


 現れたのは、金と黒のメッシュが入ったスタイリッシュなポニーテールを怒りで逆立てたシャロンと、大きな木製の大型魔獣用ブラシを担いでフンスと鼻息を荒くしているクゥマだ。

 二人は王一等地にある高級ペットスパ『ラグジュアリー』の公式な『お世話勝負の果たし状』を手に、顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのだった。


「あら、シャロンちゃんにクゥマちゃん。今日もいいお天気なのに、そんなにトゲトゲしてどうしたのかしら?」


 厨房から出てきたカルラが、聖母のような笑顔でお盆を抱えながら首をかしげる。

 受付カウンターのフィオは、すでにぴきりと金の狐耳を立て、臨戦態勢で帳簿をパチパチと叩いていた。


「どうしたのかしら、じゃないわよ! ウチの悪徳上司のバルトスが流通妨害を仕掛けたっていうのに、アンタたち、なんで古代竜を味方につけて平然と営業を続けてるのよ! おかげでウチのギルドの面目は丸潰れ、あたしたちの立場も大ピンチなんだから!」


「そうだクマ! 上層部から『あのボロ宿を公式な勝負で叩き潰せ』って、この魔導ギルド公認の果たし状を持たされたんだクマ!」


 クゥマが突き出した果たし状には、大層な魔法の刻印が押されている。

 顧客を奪われ続けた高級スパの商業ギルド上層部が、いよいよ面目を保つために、街の広場での衆人環視を伴う『公式なお世話勝負』を仕掛けてきたのだ。シャロンたちはギルドの命令に従う形でやってきたのだが――。


(あ、あたしはギルドの命令だから仕方なく来たのよ! べ、別に、またあのゴッドハンドで肩を撫で回されたいとか、そんなハレンチな理由じゃないんだからね……っ!)


 シャロンはあの日、レントに耳の裏の秘孔をカリカリと愛撫された瞬間の、脳が蕩けるような甘い快感を思い出してしまい、果たし状を持つ手がガタガタと震え、顔が耳まで真っ赤に染まっていく。


「オレも、あのフェザータッチのマッサージがもう一度……じゃなくて、熊族の誇りを証明するために勝負に挑むクマ……❤」


 クゥマも赤面しながら熊耳をへにゃりと寝かせ、目は完全にハートマークになっていた。

 ギルドの面目を保つため(本当はレントに会いたいだけ)のツンデレな怒鳴り込み。


 ◇


「お世話勝負、ですか。俺は構いませんよ。……だけど、それより二人とも」


 奥の作業場から出てきた俺は、果たし状の文面ではなく、彼女たちの『身体』をプロの目でじっと見つめていた。


「ひどいな……。シャロンさん、ギルドの上層部に怒られたせいで、肩の筋肉が前よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている。クゥマさんも、無理な大物お世話を強要されたんだろう? 手首の関節が歪んで、剛毛が絡まりまくっているよ。職人として絶対に放っておけないな!」


 俺の目は、すでにギラギラとした純粋すぎるプロの目に切り替わっていた。

 怒鳴り込んできたライバルたちの職業病と毛並みの乱れ。それを放っておくことなど、職人のプライドが1ミリも許さない。


「さあ、勝負の前に今すぐ俺のクシで最高美に整えさせてくれ!」


 俺は特製クシを構え、ギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせて二人にじりじりと迫る。


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! アンタにそんな真剣な目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に結婚になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑が勝負の前から容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んだら本当に嫁入りになっちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、新しく洗濯したばかりの巨大なふかふかシーツを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! うちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! マスター、あいつらは果たし状をダシにした、ただの不器用な逆ナン不審者です! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺は果たし状を持ったままズルズルと居間へ引きずられていくのだった。

 第2章の開幕を告げる、いつもの可愛い修羅場。

 しかし、突きつけられた果たし状により、ボロ宿ペットホテル『アルカディア』は、王都の住民全員が注目する『公式なお世話決戦』へと巻き込まれていくのだった――。


第16話をお読みいただき、ありがとうございます!

今回からいよいよ第2章【ライバル襲来! 誇り高き獣人の仕来り】が本格始動しました。

ギルド上層部の面目を保つため(本当はレントの手つきが忘れられないため)、公式な果たし状を持って怒鳴り込んできたシャロンとクゥマ。

後半は、お約束のメイン3人による高速阻止&抗うライバルたちの悶絶ツンデレ劇をテンポよくお届けしました。


次回、街の広場で行われる公式決戦の準備がスタート!

ギルド側が用意した「誰も言うことを聞かない最難関の魔獣」とは一体……?


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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