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第12話:ギルドの嫌がらせと、小さな迷子

「……え? 今日の分のハーブやお肉の納品が、すべてキャンセル?」


 翌朝、厨房から戻ってきたカルラが、珍しく困惑した表情で首をかしげていた。

 受付カウンターにいたフィオが、すぐにぴきりと金の狐耳を逆立てる。


「おかしいです。街のなじみの商人さんたちとは、今月分の仕入れ契約を完璧に結んでいたはずですよ。それなのに一斉に供給を止めるなんて、裏で何か大きな力が働いているとしか思えません!」


 これこそが、高級スパ『ラグジュアリー』を牛耳る悪徳商業ギルド、バルトスによる最初の嫌がらせだった。

 王都の流通網に圧力をかけ、アルカディアに魔獣用の極上フードの食材や、お世話に必要なハーブ類が一切届かないように仕向けたのだ。食材や備品が尽きれば、どれほど大繁盛していてもホテルは営業停止に追い込まれてしまう。


「あ、あのバカ上司……! 本当に汚い手を使いやがって……!」


 門の影からその様子を見ていたシャロンが、高級トリマー服の拳をぎゅっと握りしめて悔しそうに歯噛みしていた。

 雇われの身である彼女たちには、ギルド上層部の決定を止める権限はない。しかし、正々堂々とした技術勝負ではなく、裏工作でレントたちの宿を潰そうとするやり方に、シャロンもクゥマも激しい怒りを覚えていた。


「どうするクマ……? このままじゃ、あのボロ宿の魔獣たちがご飯を食べられなくなっちゃうクマ……」

「べ、別に心配してるわけじゃないんだからね! でも、あいつの手、本当に凄かったから……あんな汚いやり方で潰されるのは、あたしのプライドが許さないのよ!」


 ◇


 仕入れがストップし、ボロ宿に少しだけ緊迫した空気が流れる。

 だが、オーナーである俺はといえば、庭のベンチでいつものように特製クシを丁寧に磨き上げていた。


「みんな、心配しなくて大丈夫だよ。近くの『聖なる森』に行けば、新鮮な野生のハーブや、魔獣たちが大好きな極上の木の実がたくさん採れるからね。ちょっとみんなでピクニックがてら、採集に行こうか」


「さすがマスターですぅ! 私、お弁当の準備をしちゃいますねぇ!」


 メリンがふかふかのウールを弾ませて大喜びし、カルラも「それなら私も腕が鳴るわね」と優しく微笑む。フィオも「転んでもただでは起きない、それが『アルカディア』です!」とすぐに帳簿に採集ルートを書き込み始めた。悪徳ギルドの嫌がらせなど、レントののどかなスローライフ精神の前には1ミリも通用していなかった。


 そんな俺のプロの眼が、今日も門の影から、心配そうにこちらを覗き込んでいたシャロンとクゥマの姿を正確に捉えた。


「……あ、シャロンさんに、クゥマさん! 今日も偵察ご苦労様!」


「ひゃっ!? だ、誰が偵察なんか……! アンタたち、食材が来なくて困ってるんじゃないの!?」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ二人とも! シャロンさん、ギルドへの怒り(心労)のせいで、肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが泣いている! クゥマさんも、オレたちの心配をしてくれたせいで(無自覚)、背中の剛毛の絡まりが限界突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない! 今すぐ俺にブラッシングとマッサージをさせてくれ!」


「いやぁぁ! 来ないで! 今のアンタにそんな職人の目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に嫁入りになっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的なプロのオーラに身体がすくんで逃げ出せない。


「ク、クシの誘惑が強すぎるクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んだら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマも腕で防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、新しく洗濯したばかりの巨大なふかふかシーツを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! うちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! マスター、あいつらはただの心配性な不審者ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、厨房から出てきたカルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間へ引きずられていくのだった。

 悪徳ギルドの嫌がらせすら、いつもの可愛い修羅場に変えてしまう『アルカディア』の仲間たち。

 しかしこの後、森へハーブ採集に向かった俺たちは、草むらの中でシクシクと泣いている、とんでもない「小さな迷子」と出会うことになるのだった――。


第12話をお読みいただき、ありがとうございます!

悪徳商業ギルドの上層部による、卑劣な流通妨害(仕入れキャンセル)がスタートしました。

しかし、レントのポジティブなスローライフ精神と、カルラ・メリン・フィオの頼もしさの前には嫌がらせもどこ吹く風。相変わらずシャロンたちを巻き込んで可愛い修羅場を展開しています。


次回、森へハーブ採集に出かけたレントたち。

そこで出会う「小さな迷子」とは……? 物言わぬ可愛らしい魔獣との、新たな出会いをお楽しみに!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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