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第13話:聖なる森のピクニックと、草むらの小さな毛玉

「わぁぁ……! 見てくださいマスター、お日様の光がとっても気持ちいいですぅ!」


 木々の隙間からきらきらと木漏れ日が降り注ぐ『聖なる森』の中を、メリンがふかふかのウールを弾ませながら楽しそうに歩いていた。

 悪徳ギルドによる仕入れ拒否を受けて、俺たちは急遽、森へ野生のハーブや木の実の採集にやってきたのだ。


「本当に、空気が美味しくて最高のピクニック日和ね。はい、レントさん、水分補給に冷たいハーブ水をどうぞ」


 カルラが優しく微笑みながら、水筒を差し出してくれる。

 フィオも「転んでもただでは起きないのが『アルカディア』です! ギルドの嫌がらせのおかげで、仕入れ値ゼロの最高級野生ハーブが手に入りまくりですよ!」と、すでに背負いカゴいっぱいに詰まった薬草を眺めて、金の狐耳をピコピコと忙しなく動かしていた。


 元冒険者である俺にとって、この森は慣れ親しんだ場所だ。魔獣たちが大好きな『マモンの実』や、毛並みの艶を出すのに最適な『ブルーハーブ』の群生地なんて、一目で見抜くことができる。


「よし、ハーブもたくさん採れたし、そろそろお弁当にしようか。カルラが作ってくれたサンドイッチ、楽しみだな」


「ええ、とびきり美味しいのを用意してきたわ」


 俺たちが大きな木の根元にシートを広げようとした、その時だった。


「……ピュ〜、シクシク……ぷすぷす……」


 近くの茂みの奥から、かすかに小さな、泣き声のようなものが聞こえてきた。

 それと同時に、何かが焦げたような、香ばしい煙の匂いが鼻をくすぐる。


「……ん? みんな、ちょっと待って。向こうの草むらから、何か聞こえる」


 俺は特製の木彫りクシをポケットに忍ばせ、足音を殺してそっと茂みをかき分けた。

 そこには、手のひらにすっぽりと収まってしまうほど小さな、トカゲのような形をした生き物が、丸くなってシクシクと震えていた。


 全身は綺麗な緋色の鱗に覆われているが、寂しさと怖さのせいか、その鱗はどこか乾燥して元気がなく、くすんで見える。シクシクと泣くたびに、小さな口から「ぷすぷす」と可愛いもらい火(小さな炎の弾)を吐き出していた。


「あわわ……トカゲさんですかぁ? 口から火が出てますぅ!」

「違いますメリン、あれはトカゲじゃなくて……『チビミニ・ドラゴン』の赤ちゃんだクマ!」


 いつの間にか、心配(ツンデレ監視)で森までこっそり後をつけてきていたシャロンとクゥマが、驚きのあまり物陰からガバッと飛び出してきた。


「ちょっとアンタたち! 何でこんな森の奥に、絶滅したはずの古代竜の幼体がいるのよ!? 危ないわ、怒らせたら口から大火力を吐き出されて、この森ごと焼き尽くされちゃうクマ!」


 シャロンがポニーテールを逆立てて大慌てで叫ぶ。

 だが、俺の目は、すでにその小さな赤ちゃんの『身体』を完全に捉えていた。


「いや……この子はそんなに狂暴じゃないよ。ただ、お母さんとはぐれて寂しくて、おまけに……長旅のせいで全身の鱗の裏側が、ガチガチに凝り固まって痛いんだな」


 職人として、こんなに小さくて健気な生き物が、身体を痛ませて泣いている姿を見過ごすわけにはいかない。

 俺は「怖くないよ」と優しく声をかけながら、そっと手を伸ばした。


「ぷ、ぷきゅ……っ! ガルル……!」


 赤ちゃん竜は威嚇するように小さな牙を見せ、ぷすぷすと火花を散らした。しかし、俺はその小さな炎を恐れることなく、極上のフェザータッチで、彼女の緋色の鱗の隙間に指先を滑り込ませた。

 長旅の緊張と乾燥のせいで引きつっていた、首の付け根と、まだ未発達な小さな翼の裏側のツボを、骨格に合わせてグッと優しく指圧する。


「ぷきゅ、ぷきゅぅ……にゃ〜〜〜ん❤」


 次の瞬間、赤ちゃん竜はトカゲの形をしているにもかかわらず、まるで猫のようにとろけきった甘い声を漏らした。

 野生のプライドも恐怖もすべて一瞬で消し飛び、俺の手のひらの上で完全にお腹をごろ〜んと見せ、もっと撫でろとばかりに尻尾をパタパタと激しく振り始めたのだ。


「な、何が起きたのよぉぉ……!? あの世界の破壊神とも呼ばれる竜族が、一瞬でただの甘えん坊トカゲに……!?」


 シャロンが目を見開いて絶句し、クゥマも「ありえないクマ……」と腰を抜かしていた。


 レントの手技によって完璧に血流が整えられた緋色の鱗は、太陽の光を浴びて、まるで極上のルビーのように神々しい輝きを放ち出している。


「よしよし、いい子だね。もう痛くないよ」


「ぷきゅぅ……❤」


 赤ちゃん竜は、安心したように俺の親指を小さな前足でぎゅっと抱きしめると、幸せそうな寝息を立てて、俺の手のひらの上でおねしょ(おねしょならぬ、可愛いもらい火のぷすぷす)をしながら、すやすやと眠りについてしまった。


「はわわ、可愛すぎますぅ……!」

「本当に……でも、レントさん、この子をこのまま放っておくわけにはいかないわね」


 カルラが優しく微笑みながら、俺の手の上の小さな毛玉(鱗玉)を見つめる。


「ああ。お母さんが見つかるまで、俺たちのホテルで大切に預かろう」


 俺が満足げに特製クシを撫でていると、テンションが上がった俺のギラギラとした職人の目が、今度は近くで口をあんぐりと開けていたシャロンとクゥマを捉えた。


「……ん? そういえば二人とも。さっきから見ていたけど、森の茂みを歩いたせいで、シャロンさんのポニーテールに細かいトゲ植物が絡まってる。クゥマさんも、驚いた拍子に変な力が入って手首がガチガチだ。職人として絶対に放っておけないな! 今すぐ俺にブラッシングとマッサージをさせてくれ!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! アンタにそんな真剣な目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に嫁入りになっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的なプロのオーラ(快感の予感)に身体がすくんで逃げ出せない。


「ク、クシの誘惑が森の中でも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んだら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマも腕で防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、ハーブ採集用の大きなカゴを俺との間にバッと割り込ませて物理的な壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! うちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! マスター、あいつらはただのストーカー不審者ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと引きずられていくのだった。

 悪徳ギルドの嫌がらせを乗り越えるための一歩が、とんでもない「神獣の赤ちゃん」との出会いへと繋がってしまった『アルカディア』。

 手のひらの上で眠る小さなチビ竜を連れて、俺たちの賑やかで可愛い修羅場のピクニックは、のどかに続いていくのだった。


第13話をお読みいただき、ありがとうございます!

森へハーブ採集に出かけたレントたちが出会ったのは、なんと絶滅したはずの古代竜の赤ちゃん(チビ竜)でした!

世界の破壊神とも呼ばれる竜族ですが、レントのゴッドハンドにかかれば一瞬で「ただの甘えん坊トカゲ」として大陥落。


そして後半は、心配で尾行してきていたシャロンとクゥマを巻き込み、お約束の高速阻止&抗うツンデレ劇をたっぷりお届けしました。


次回、このチビ竜の赤ちゃんを連れてボロ宿へ戻ったレントたち。

しかし、この赤ちゃんを大慌てで探している「とんでもない大物(親竜)」が、王都の空に現れる……!?


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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