第18話 繋ぐ思い
「愛果、点数はリードしてる!恐らく相手の目的は愛果の体力を削ることだ!」
"こんのー!どこまで着いてくるのよ!"
「とりあえず逃げ切ろう!捕まったら最後、滅多打ちにされるぞ!」
"ひぃ!さすが絶対王者、やることが怖すぎるよぉ!"
ひたすら逃げ続け、ついに試合終了のホイッスルがなる。
──愛果ー美羽 4ー2 愛果WIN
ここまで点数が低い試合はそうそう見られない。
如何に彼らが試合を捨ててきているかが伺える。
(いや捨ててるわけじゃないか、繋げているのか……)
何はともあれ、チームの勝利数がこれで2ー2と並んだ。
最後の大将戦、結衣が勝てばその時点で準決勝進出が決まる。
だが中堅戦でここまで分かりやすく削りに来ているなら、おそらく大将戦も安定策を取りに来るだろう。
「もしかしたら、蒼空のおかげかもな」
「ん?何がですか?」
ベンチで休む蒼空が、飛翔の独り言に聞き返す。
「ほら、蒼空のクイックターン。あれのおかげで今大会は大いに荒れてくれたんだ」
「私のせいで……」
「あー!あー、違う違う!いい意味で、だ!」
「いい意味で……?」
「そうだ。初心者がクイックターンを使ってきた、これは誰も予想できない事態だったんだ。それ故に、どこの高校も警戒するようになったんだよ」
「確かに、玉響高校の先鋒さんも警戒してました!」
「蒼空みたいなやつが隠れてるかもしれないと、みんな警戒してるんだろうね。そのおかげであの秀英高校が安定策に出てる。これはチャンスだ」
「チャンス……ですか?」
「そうさ、秀英高校を玉座から引きずり下ろすチャンスだ」
この大会が終わればきっとクイックターンの対策や、初心者に対する戦術などの研究が進んでいくことだろう。
そうなれば、二度同じ手は使えない。
今回が最初で最後のチャンスなのだ。
「おっとそろそろ始まるな。結衣、準備はいいか?」
"ええ、大丈夫よ"
審判に準備完了の合図を出し、両者揃ったことを確認した審判がホイッスルを鳴らす。
ビーーー!!!!!
たった今、大将戦がスタートした。
結衣の相手は体重100キロ超の大男 鴉真だ。
使用武器は小手と、完全にパワータイプである。
(見つかったら一溜りもないな……)
「結衣、とにかく迂回だ!相手に悟られないよう、逃げつつ拠点を狙おう!」
体力も時間もかかるが、見つかってボコボコにされるよりはいいだろう。
それに探すのに時間を取ってくれれば、作戦を切り替えた隙に背後を狙えるかもしれない。
「とにかく今は逃げることに……」
と先を走る飛翔のカメラに、相手の飛行カメラが映る。
周りに鴉真の姿は無い。
(もしかして、別行動してるのか……っ?!いや、有り得るのか。だってあいつらは……)
結衣を見つけることに全力だった。
それにポインタータイプでは無い秀英高校のプレイヤーなど、コマンダーなしでも充分戦える実力を持ち合わせている。
「くそっ、気づかれた!結衣、カメラの死角に逃げ込め!」
そうは言うものの、やはり小回りの聞く小型飛行カメラから逃げることはほぼ不可能で……。
「…………結衣、奴だ」
"……ええ、気づいているわ"
カメラが結衣を見つけてからわずか三分。
秀英高校大将 鴉真が到着した。
試合終了まで、まだあと20分程ある。
その間、果たして結衣は無事でいられるのだろうか。
「結衣、とにかく交わし続けろ。後のことは考えるな、とにかく無事にこの試合を終えるんだ」
あんな大男に小手で殴られたら、結衣のような華奢な女の子は一溜りもないだろう。
これ以上、結衣達には傷ついて欲しくない。
『隠れてないで、出てこい』
"きゃあ!そ、そんな……"
「おいおい、木が一瞬で傾いたぞ……」
想像を超える腕力。
そしてスピード。
これは本当に高校生の試合なのだろうか。
結衣は迫り来る恐怖を振り払い、ただひたすらに逃げ続けた。
『無駄だ。お前の動きは既に読めてる』
"やばっ、剣が……っ!"
「──っ!結衣、剣を離せ!」
飛翔に言われた通り結衣は握っていた片手剣から手を離す。
その刹那、先程まで握られていた剣がはるか遠くまで投げ捨てられる。
掴んだままだったら、おそらく落下の衝撃で何本か骨を持っていかれていただろう。
『これでお前を守るものは無くなった』
「結衣!とにかく武器がなきゃ受け流すことも出来ない!剣を取りに行こう!」
"で、でも彼に道を防がれて……"
『安心しろ、女は殴らない』
そう言って鴉真は、結衣の周辺をひたすら殴り続けた。
迫り来る大男の拳に、結衣はただ震えていることしか出来なかった。
間違いなくトラウマものだ。
「結衣!リタイアしてもいい!無理そうなら直ぐに教えてくれ!」
"あ、あぁ……あぁ…………"
ダメだ、もうこちらの声は聞こえてないようだ。
飛翔はリタイアボタンに手をかける。
が、その時だった。
ビーーー!!!!!
試合終了の合図が鳴り響く。
最後の最後まで、鴉真は攻撃の手をゆるめることは無かった。
徹底した制圧、終始けっして油断せず確実に勝つためだけに振るわれた拳は、結衣という一人の少女の心を粉々に破壊した。
「っ、俺は結衣のところに行く!」
「わ、私も!」
「私も行きます!」
試合が終わるなり、飛翔達はすぐさま結衣の元へと向かった。
まるで大砲の雨が降り注いだかのような荒れた場所で、結衣は横たわっていた。
「結衣!!!」
急いで抱き抱える。
外傷は無い、気を失っているだけのようだ。
「あそこまでトラウマを押し付けられたら、もう結衣は戦えないだろうな」
蒼空も愛果ももう体力の限界だ。
それに、あの怪物と二人を戦わせたくはなかった。
「……延長戦は、俺が出る」
「飛翔さん?!」
「飛翔?!」
「遠坂が、補欠に俺の名前を書いたんだ。延長戦なら、出れる」
もうこれしかない。
蒼空だって自分のトラウマと戦った。
愛果も、結衣も、自分の本当の気持ちと向き合い克服したんだ。
なのに俺はどうだ、未だに逃げているだけなんじゃないか?
覚悟を決める時なのかもしれない。
全身から冷や汗が止まらなかった。
それは鴉真に対する恐怖ではなく、己の手で人を殺しかけたというトラウマに対してだった。
だがそんな飛翔を庇うかのように、一人の少女が名乗り出る。
「──私が行きます」
「蒼空…………どうして…………?」
結衣と鴉真の試合は、蒼空も見ていたはずだ。
なのに何故名乗り出せるのか。
「安心してください、飛翔さんをフィールドには立たせませんから」
「蒼空…………」
「試合前にかけてくれた言葉、私すごく嬉しかったんです。あの一言で、救われた気がしたんです」
そんな大したことは言えていない。
むしろまともなことも言えず、逃げたとさえ思えるような一言だった。
だが蒼空にとってその一言は、最も欲しかった一言なのだろう。
「あの夜、二人で明かした秘密……。今度は私が飛翔さんを助ける番です!」
蒼空が差し伸べた手を、飛翔は握る。
それはまるで、飛翔から蒼空へのバトンパスのようだった。
2ー2で迎えた延長戦。
泣いても笑っても、これが最後の試合だ。
「蒼空、ありがとう」
"こちらこそ、ありがとうございます。飛翔さん"
互いに感謝を伝え、
ビーーー!!!!!
ついに延長戦が、幕を開けた。
次話、遂にラストバトルとなります。




