第19話 「みんなの勝利です!」
天気良好、風向きやや南。
中央のモニターには、蒼空対鴉真の戦いを一目見ようと大勢の人が集まっていた。
大衆が見守る中、ついに延長戦が幕を開ける。
「蒼空、おそらく相手は拠点に突進してくる。だから、蒼空も拠点を取りに行こう」
"分かりました!"
秀英高校は、勝つ為だけにここまでやったのだ。
今更受け手になど回らないだろう。
それにあの大男が相手だ、こちらも守りきれない。
ならばこちらも全力で点を稼ぐのみ!
「蒼空、体調が悪かったりしないか?」
"全然平気です!むしろ、軽く感じます!"
色々と条件が重なり、蒼空はこの一瞬で急速に回復したようだ。
行く途中でいくつかのポインターに触れ、鴉真に七分ほど遅れて拠点を破壊することに成功する。
──蒼空ー鴉真 13ー14 残り18分21秒
どうやらポインターを狙いに行っているようで、先程みたいにカメラと別行動している訳では無いようだ。
それなら今のうちに触れられるポインター全てに触れておこう。
そして鴉真が16点目を取った時、試合はついに動きだした。
時間を見ると、どうやら残り15分を切っているようだ。
「蒼空、ここからが勝負だ。蒼空と鴉真の点差は二点。これが何を意味するか分かるな?」
"相手のコアに、一回でも触れれば逆転できるって事ですよね?"
「そうだ。でも、無理に攻めないでほしい。痛い目には、あって欲しくないんだ」
"大丈夫です、気をつけます!"
気をつけてどうにかなる相手じゃない、という揚げ足は嫌われそうなので言わないでおいた。
残り14分、13分と時が進み出す。
そして残り12分に差し掛かった時、
「蒼空、来たぞ!」
"見えました!やっぱり近くで見ると大きいですね……"
男の飛翔からみてもかなりでかく見える。
「こんなに細くてかわいい子が勝てるのだろうか……」
"か、かわいいって……っ。こんな時に何言ってるんですか!もぅ……///"
「え?あ、声に出てた?」
どうやら声に出ていたようだ。
蒼空の集中力を切らしてしまうところだった、危ない。
「蒼空はどう戦うとか決まってたりするのか?」
"とにかく受け流して……クイックターンで決めるとか、ですかね"
「多分あのサイズ、クイックターンじゃ回りきれないぞ」
蒼空の必殺技クイックターンが封じられ、蒼空もさすがに後ずさりする。
だが、逃げ出そうとはしなかった。
『お前が蒼空か。この大会を荒らした張本人』
"私は、ただ真面目に戦っただけです!"
「そうだ!蒼空は一生懸命努力してここまで来たんだ!蒼空の悪口は、俺が許さない!」
イヤホン越しに叫んでも、相手に届かないぐらいわかってる。
だが、言葉に出さなきゃはち切れてしまいそうだったのだ。
『悪いがこれは延長戦、先程とは訳が違う』
鴉真が拳を突き上げる。
そして蒼空目掛けて巨腕を振り下ろした。
「蒼空、交わし続けろ!いつか隙が生まれるまで、コアを守り続けるんだ!」
"はい……っ!!!"
夏合宿で行った砂浜反復横跳びが効いたのか、蒼空は俊敏な動きでかわし続ける。
結衣との試合で、剣を掴んでくることは把握済みだ。
蒼空は剣を前に出さず、腰に巻いたまま交わし続けた。
隙を見せるその時まで。
既に蒼空の体は、飛び散った木の枝や石、土の塊などに傷つけられ、所々出血していた。
それでも蒼空は逃げることなくひたすら避け続けた。
そしてその瞬間は突然訪れる。
"ここだぁあああああっ!!!!!"
蒼空が懐に潜り込む。
それを追うようにして、鴉真の右拳が振り下ろされる。
が、蒼空はそれをクイックターンで受け流す。
しかしたった一回のクイックターンでは、この巨体の背後には回りこめなかった。
そう一回では。
「……………まさか……っ?!」
クイックターンで避けた蒼空に、今度は左拳が振り下ろされる。
だがなんとそれも蒼空はクイックターンで交わしたのだ。
"二回目ぇぇぇぇ!!!"
「二連続、クイックターン………だと?!」
観客席の方から、観客たちの驚きの声が聞こえる。
一度でも出来たら伝説級の技を、二度も連続で放ったのだから。
そしてそれで終わりではなかった。
鴉真は反動を利用して、トドメの両拳を振り下ろす。
女は殴らないと言っておきながら、殺す気満々の拳を蒼空に振り下ろしてきた。
「蒼空、避けろーー!!!!!」
あんまもの、食らった即死だ。
しかし蒼空はその場から動こうとしなかった。
(まさか、クイックターンを連続で使った反動で、動けないのか……っ?!)
まずい、このままでは蒼空が……。
見ていた誰もが蒼空の負けを確信した。
そりゃそうだ、こんな大男に女の子が勝てるわけない。
少し考えればわかる事だ。
「蒼空ぁぁぁぁああああ!」
拳が蒼空に触れるその瞬間、蒼空の姿が一瞬にして消え失せる。
否、弾き飛ばされたのでは無い。
「三連続………クイックターン……っ?!」
"これが、私の──"
蒼空の覚悟の一撃。
それは勝利の一撃であった。
"全力です!!!!!"
ビーーー!!!!!
蒼空が剣を振り下ろすと同時に、試合終了のホイッスル音が鳴り響く。
(試合結果はどうなった……っ?!)
会場にいた全ての人が、得点板に注目する。
果たして勝負の結末は……っ、
──蒼空ー鴉真 17ー16 蒼空WIN
「「「「「「「「「うぉぉおおおおお!!!!!」」」」」」」」」
観客席から、今日一番の歓声が上がる。
「蒼空ちゃんが勝った!勝ったよ、結衣ちゃん!」
「蒼空……ふふ、適わないわね」
「やはり大物だったか、碧乃蒼空……」
ベンチでは愛果と結衣、そして遠坂が蒼空の勝利を祝福していた。
もちろん飛翔も。
歓声が鳴り響く。
青藍高校は今、絶対王者を下したのだ。
誰もが魅了された。
誰もが賞賛した。
喜びや驚きが入り交じり、会場はこれ以上にない盛り上がりを見せていた。
「おかえり、蒼空」
フィールドから出てきた蒼空を、飛翔はそっと抱きとめた。
抱きとめていないと、今にも倒れてしまいそうだったからだ。
そんな体でよく最後まで戦えたなと思う。
「……私、勝ちました」
「……あぁ、勝ったよ。誰も、君の勝利を疑ったりしない」
蒼空の勝利を、誰が否定するものか。
「蒼空の勝ちだ」
「……違います」
ベンチから、愛果と結衣がかけてくる。
そして蒼空と飛翔に抱きついた。
全員、傷だらけだ。
蒼空はクスリと笑うと、
「全員の勝利です!」
そう、叫ぶのだった。




