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第17話 恐れていた過去

「ちょっと御手洗に行ってきますね」


昼食を食べ終えた蒼空は、御手洗に行くため一旦離席する。

モニターでは、現在やっている試合が中継されていた。

相変わらずすごい人の数だ。

一般人も試合の観戦が許可されているためだろう。

蒼空が人混みを通りかかったその時だった。


「おい、青藍高校の試合見たか?」

「あぁ見たぞ!あの蒼空ってやつ、強くね?」

「あれで初心者らしいぞ」


(あ、私の話してます……)


ふと通りかかった人混みの中で、誰かが自分の噂をしているのが聞こえた。

まるで有名人かのように話され、蒼空は少し照れる。

だが……


「俺は蒼空ってやつは気に食わねぇな」

「なんでだ?」

「そりゃ、綺羅を倒したからだよ。あいつは初心者に負けていいような相手じゃない」

「俺も母校の玉響高校に勝って欲しかったわ〜。初心者のくせに、でしゃばんなって感じだよな」

「今回の大会はみんな蒼空、蒼空ーって、運がいいだけだろ」


ドクンッ、ドクンッ──。


鼓動が早くなり、次第に呼吸も乱れ出す。

蒼空はその場から逃げるように、走り去った。

封印されていた、あの頃の記憶がフラッシュバックする。



「お前、変なやつだな」

「空気読めなすぎだろ、誰が好きなんお前のこと」

「蒼空ちゃんといると虐められるから、もう話しかけないで」

「お前のせいで──」

「お前が──」

「蒼空ちゃんの──」



「ううう……っ」


胸が苦しいほど痛む。

目の前がチカチカとし始め、御手洗に着くなり吐き出してしまった。


(もう、ここから出たくないな……)


だが蒼空の替えはきかない。

蒼空がいないと、青藍高校は試合するできないのだ。


「みんなのためにも、頑張らなくちゃ……」


不安な思いはさせたくない。

その一心で、蒼空は必死に笑顔を作った。

いつもの蒼空を、全力で演じた。


「ただいまです!さあ打倒秀英高校、頑張りましょ!」


「相変わらず蒼空は元気ね」


「蒼空ちゃん、今日もいい笑顔だよー!」


大丈夫、気づいてない。

せめてこの試合が終わるまでは、自分を殺さなくては。

青藍高校一同は、試合会場へと向かう。

今朝同様円陣を組み、各校試合の準備を進める。

準備を終え蒼空がフィールドに入ろうとしたその時、飛翔は蒼空を呼び止めた。


「……何があったんだ」


「…………え?」


蒼空の作り笑いは、飛翔にはバレていた。

そう分かった瞬間、蒼空は大粒の涙を流す。


「昼休みに、私、聞いちゃったんです。私の勝ちをよく思ってない人たちの声を……」


恐らく蒼空のトラウマが掘り起こされてしまったのだろうと飛翔はすぐにわかった。

自分もトラウマを抱えている一人の人間として、その辛さは痛いほどわかる。

もし可能なら蒼空に「試合なんていいから休め!」と言いたい。

だが、


「……私、戦えます。戦わせてください!」


蒼空の答えは「戦う」だった。

それはこの試合のことを指しているのか、それとも自身のトラウマと向き合うことを指しているのか。

おそらく両方だろう。

だがプレイヤーが戦いたいと言った以上、コマンダーにできる仕事はただ一つ。


「頑張ってこい、蒼空」


「……はい!」


彼女を勝利に導くだけだ。


「蒼空」


"はい?"


「誰になんと言われようが関係ない、蒼空は普通の女の子だよ。俺はいつだって、蒼空の味方だ」


ビーーー!!!!!


聞きなれたホイッスルが鳴り響き、ついに秀英高校との試合が始まった。

蒼空の相手は、なんとポインタータイプだったのだ。

珍しすぎる配置に、見た当初飛翔は混乱したが調べていくうちにその理由が分かった。

今年の彼らはなんと、ほとんどがポインタータイプで編成されているのだ。


「いいか蒼空、あいつらは自分たちの陣地に足一本入れさせない気だ」


"足一本も……それはどういうことですか?"


「ポインターはお互いの陣地に10個ずつ点在している。つまりポインターだけでは10点以上は稼げないんだ」


そう、10点以上稼ぐには、コアか拠点を狙う必要がある。

だがもしそのコアと拠点を封じられたらどうなるか。

結果は簡単だ、最高得点を狙ったとしても10ー10で引き分けになる。

どうして相手の戦い方が分かるか、それは相手側の視点に立てば一瞬でわかる事だった。


「あいつらは、勝つ必要が無いんだ。引き分けで終われれば総合点で勝てるんだ」


"あっ、確かに!こっちは既に二人分不戦敗扱いなので、チームの勝利数は0ー2何ですよね?なら、一回でも引き分ければ負けることは無いですね……"


「そうだ。彼らはチームの勝利数が2ー2で試合を終わらせ、延長戦に持ち込むのが狙いなんだ」


"なんでですか?"


「延長戦はお互い最高勢力のぶつけ合いだ。つまり、今のうちに全員削っておけば……」


"延長戦で弱った相手を倒すだけで勝ちになる……!"


「そう、おそらく彼らは蒼空との戦いを引き分けで終え、残り二人を削りに来るはずだ」


そう、彼らは別に急いで勝つ必要が無いのだ。

つまり簡単にまとめると、


試合開始前の時点で、青藍高校は0ー2のハンデを負っている。

先鋒で引き分ける(得点の変動なし0ー2)

中堅、大将戦で負けても延長戦にもちこめる。

(二敗しても2ー2となり、同点で延長戦に)

ならば急いで勝ちに行くのではなく、延長戦に備えて選手の体力をできるだけ削りにいく。


「なんて悪質な戦い方なんだ……っ」


おそらく勝てばよかろう主義なんだろう。

だが、それはこちらに作戦が勘づかれていなかったらの話。


「いいか蒼空、さっき言ったことは相手に作戦を悟られていなかった時だけ使えるんだ」


"えーとつまり……今話してた作戦は全部チャラって事ですか?"


「そうだ」


"ええー!"


この作戦は、おそらくポインターをできるだけ多く触れた後、中央で待機すると言った流れなのだろう。

ならば、相手が中央で待機する前に、陣地に入り込めばいい。


「蒼空、ポインターは全部無視しろ!全力で迂回するんだ!」


"はい!"


そして蒼空は全力で相手の陣地を駆け抜けた。

拠点が見える位置まで接近し、飛翔の指示を待つ。


「いいか、まだ拠点を破壊するな。試合が終わるギリギリまで待つんだ」


おそらく相手は蒼空が陣地内に入っていることを知らない。

ならば、相手が中央から拠点まで帰って来れる時間を切った瞬間、拠点を破壊すれば逆転されることは無い。

そう、飛翔の考えた作戦は完全に秀英高校と真逆の作戦だった。


「よし、一分を切った!拠点を破壊しろ!」


"はい!"


──蒼空ー茅野 10ー2 残り42秒


これならもう拠点までたどり着くことは出来ない。

そして逆転されることなく、


ビーーー!!!!!


試合は終了した。


──蒼空ー茅野 10ー3 蒼空WIN


正直掛けだった。

点数の変動がないこちらを疑い、陣地に入られていたら負けていた。

でもそんな安定策を狙ってくる相手が、自ら動くとは到底考えられなかったのだ。


「あの秀英高校から勝ちを奪っちゃったよ!どうしよう結衣ちゃん!」


「どうしたもこうしたもないわよ、今の私たちが秀英高校より強いってだけよ」


「相変わらずすごい自信!でもでも、私も負ける気は無いよ!」


自信満々の二人を前にして、飛翔は安心する。

始まる前は子鹿のように震えていた二人だが、いざ始まってみると強気な態度を示していた。


「さああと二本だ!ここから先、かなり乱暴な試合が続くと思うが、二人とも無理せず頑張ってくれ!」


「任せて!」

「負ける気がしないわ!」


チームの士気は、最高潮まで上がった。


青藍高校の勝利まで、残り二勝──。


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