第16話 団体戦開幕
個人戦同様開会式を済ませた青藍高校は、第一試合のため試合場へと向かっていた。
今回は個人戦と違い、部活のメンバー全員で場内ベンチへと移動する。
「泣いても笑っても、夏の大会はこれが最後だ。悔いのないよう、精一杯頑張ろう!!!」
「「「おおー!!!!!」」」
円陣を組み、気合いを入れ直す。
今日までの七日間、三人はそれぞれ己と戦ってきた。
個人戦の時とは、面構えが違う。
「まずは先鋒、蒼空、行ってこい!」
「はい!」
全員でフィールドに入っていく蒼空を見守る。
ここからは団体戦、個人の戦いではなくチームでの戦いだ。
誰がかけても成立しない。
「落ち着いて、いつも通りにやればいいだけだ」
"はい!"
『それでは第一試合、青藍高校対玉響高校の試合を開始します』
朝一番、最も注目される第一試合が今、幕を開けた。
「蒼空、押さえつけて時間を稼げ!あと10秒耐えれば勝ちだ!」
"は、は……い……っ"
ビーーー!!!!!
──蒼空ー来良 11ー9 蒼空WIN 青藍高校ー玉響高校 1ー2
何とか耐えきり、蒼空が勝利する。
やはり相手は蒼空のクイックターンを警戒していた。
だが警戒しすぎるあまり、距離を置くのに時間をかけすぎたのだ。
「幸先のいいスタートだ、蒼空よくやった」
"勝ててよかったです……っ"
本当に蒼空は強くなった。
その成長率は異常だ。
「次は愛果だ。同じ型のミラー対面だが、やることは同じだ。ここを凌いで大将に繋ぐぞ!」
「もち!行ってくる!」
蒼空と入れ替わるようにして愛果がフィールドの中へと消えてゆく。
この夏の大会、愛果は未だに勝ち星を挙げられていない。
それがどれだけ彼女を苦しめているか、飛翔は知っていた。
あれは三日前──。
「……ん?これ愛果のか?」
練習終わりの部室に、一冊のメモ帳が落ちていた。
いつも愛果が持ち歩いているメモ帳だ。
「せっかくだし、何が書いてあるのか見ちゃおっかな〜」
幼なじみのよしみで許してくれるだろう。
軽くぺらぺらのページを捲ってみる。
ほとんどが日常的なメモであり、後半になるにつれてIDのメモが増え始めた。
そして最後のページを見て、飛翔は声を失った。
最後のページには汚い字で自分に対する憎悪の言葉が綴られていたのだ。
「なんで私は勝てない?」「みんなに置いてかれる」「何がダメなの」「何が違うの?」
そういった、愛果の本当の声が綴られていた。
それを見た飛翔は、そっとメモ帳を閉じ元あった場所に戻す。
「そうだよな……愛果だって、悔しかったよな」
普段明るく振る舞う愛果。
しかしその裏側には、嫉妬や悔しさや悲しさが隠れていたのだ。
それに気がついてやれなかった自分に、酷く苛立った。
そしてもう二度とそんな悲しい思いはさせたくないと、飛翔はひたすら机に向かった。
残り三日で、どんな些細な情報も調べ尽くし計算し、全てやりきる。
それがコマンダーにできる、最大限のサポートだ。
「愛果……」
"ん?どしたー?"
試合が始まる直前だと言うのに、どうしてもあのメモ帳のことが頭によぎる。
この一戦、何があっても勝ちたい!
「今までのことは全て忘れろ。ここからが、本番だ!」
"……っ!らじゃー!!!"
ビーーー!!!!!
試合開始のホイッスルが鳴り響き、勝利に飢えた愛果がフィールド上に解き放たれる。
走り出した彼女はもう、誰も止められない。
「周りは俺が見張ってる!だから、迷わず撃ち続けろ!!」
"任せたよ!私のコマンダーさん!"
愛果の試合は、試合を観戦していた全ての選手を魅了した。
まるで蝶のように舞い、風のように走る。
躊躇せず相手の陣地に乗り込み、拠点を破壊し、鉢合わせるのを恐れずただひたすらに突き進む。
その姿はまるで、おとぎ話の英雄の舞踏のようだった。
ビーーー!!!!!
──愛果ー日和 20ー14 愛果WIN
一度も足を止めることなく、試合が終わりを告げる。
結果は、愛果の圧勝だった。
信じられるだろうか、愛果は何と自分の陣地にある全てのポインターに触れたのだ。
これは交戦無しで出せる、最高スコアになる。
間違いなく、愛果という名前は広まるだろう。
"やった……勝ったよ、私……"
イヤホン越しに愛果の鳴き声が聞こえる。
ずっと我慢していた分、一度流れ始めた涙は止まることを知らなかった。
"つらかったよぉ……グスッ……勝ててよかったぁ……"
今すぐにでも抱きしめてあげたい。
そして今までの辛さを払拭するかのように、何度も何度も褒めてあげたい。
この勝利は、あまりにも大きすぎた。
「これで2―2、0―2のブランクは無くなった。あとは結衣だけになったな」
ベンチで見ていた遠坂が、そうつぶやく。
蒼空と愛果が勝ったことにより、元からあったハンデは無くなった。
「長距離武器の使い手はうちの部活にはいない。結衣、なれない相手だが大丈夫か?」
「結衣なら大丈夫だ」
遠坂の質問に、飛翔が変わって答える。
結衣はもう、しがらみから開放されたのだ。
彼女を縛るものはもうない。
「……二人の間に、何かあったみたいだな」
遠坂は「ふっ」と笑うと、頑張ってこいとエールを送る。
正直今の状態の結衣が負ける姿は想像できない。
「行くぞ結衣!勝って秀英高校と戦おう!」
「ええ!みんなが繋いでくれたバトン、しっかり受けとったわ!」
意気揚々と結衣はフィールドに入る。
そしてその30分後、結衣は笑顔で帰還した。
18―6という、大勝利を持って。
「ベスト8進出だァー!!!」
蒼空、愛果、結衣、三人全員が勝ち星を上げ、玉響高校との試合は、3―2で青藍高校の勝利に終わった。
今の彼女たちに敵う相手が、果たしているのだろうか?
(と、言いたいところなんだが……)
勝ち上がったことにより、全員がよりいっそう顔を険しくする。
そう、青藍高校の二回戦の相手はシードのため既に決まっているのだ。
それは大会が始まる前からわかっていたことで……。
「始まる前から暗い顔してても意味が無い。ここまで来たんだ、最後まで全力でやりきろう!」
飛翔の声に、全員が頷く。
より一層深まった四人の絆。
彼らの絆の前に、ついに怪物が牙を剥く──。




