第15話 本当の気持ち
「やっぱりここに居たんだな」
「……探さないでって、言ったでしょ」
校舎の屋上からは、島全体が一望できる。
先日夏合宿を行った島へ向かう橋も、小さい頃よく遊んだ砂浜も、そしていつも練習しているフィールドも。
結衣は考え事や辛いことがあった時、いつもこの屋上にいた。
「今日は風が気持ちいいわね」
「……そうだな」
結衣の隣に立ち、フェンス越しに景色を眺める。
見慣れた景色のはずなのに、まるで初めて見た時のような感動がおしよせてくる。
相変わらず、綺麗な島だ。
「それじゃあ用も済んだし、私は行くわね」
「行くって、どこにだ?」
「?決まってるでしょ、帰るのよ」
屋上を出ようとする結衣の手を、飛翔は掴む。
「……何」
「何、じゃない。ID辞めるってどういうことだ」
「どういうことって……そのままの意味よ。もう飽きたのよ、ID。どうせ3人じゃ勝てっこないし、いいでしょ」
嘘だ。
本音を隠すためについている、真っ赤な嘘だ。
「……違うだろ」
「何?違くないんだけど。勝手に決めつけないでくれない?」
腕を振り払おうとする結衣を、より強い力で引き寄せる。
「悔しいんだろ、お前。蒼空に抜かされたことが」
「──っ」
どうやら図星のようで、結衣は目を見開く。
その目が段々と潤みだし、次第に視線を逸らし始めた。
「何よ、それ……。別に悔しくなんか……」
「いや、俺にはわかる。初心者に、去年自分が越えられなかった相手を倒されて、悔しくて悔しくてたまらないんだろ」
「……っ」
結衣の腕が、小刻みに震えだす。
きっと彼女の心は今、とてつもないぐらいに掻き乱されていることだろう。
辛いだろう、苦しいだろう、その気持ちは他の人には決して分からない。
「嫉妬しているんだろ、蒼空の実力に」
「っ、もう、離して──」
「──離さない!」
飛翔の声に、結衣はより一層身体を震わせる。
「あんたに、私の気持ちなんか──」
「分からないよ。分かるなんて、言えないよ」
飛翔は結衣を掴んでいた手を離す。
「でも俺は知ってる。結衣がどれだけ努力して、どれだけ頑張って!どれだけ全力だったかを!!」
飛翔の声は次第に大きくなる。
飛翔自身ももう、感情のコントロールが出来なくなっていた。
「俺だって辛いよ、悔しいよ!でも、乗り越えなきゃ行けないんだ!」
人は負けて成長する生き物だ。
負けたことがない人間なんて、この世には一人も存在しない。
誰しも負けて、負けて負けて負けて負けて、そして強くなる。
「俺は、結衣がいないIDなんて嫌だ!そんなの、俺の好きなIDじゃない!」
かっこ悪いな、俺。
でもそんなこと気にしてる余裕なんてなかった。
心の奥底に眠っていた感情が溢れ出して止まらない。
「もう一度、俺と戦ってくれ!もう一度、俺に夢を見せてくれ!俺は、……お前と勝ちたい!だから──」
飛翔は結衣の前に手を差し伸べる。
「戻ってこい、結衣!」
訪れる静寂。
永遠にも感じられる静寂を断ち切ったのは、結衣の方だった。
「……なんで、あんたの方が泣いてるのよ」
「…………結衣だって泣いてるじゃないか」
涙を拭い、結衣は飛翔の手を取る。
その手はもう、震えていなかった。
「そこまで言ったんだから、ちゃんと勝たせなさいよね!」
「……ああ!!!」
結衣の中にあったモヤモヤが晴れていく。
もう結衣の足を引っ張るものは無くなった。
あとは勝ちに行くだけだ──。




