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第10話 互いの秘密

夏合宿四日目。

青藍高校ID部は今日も、朝からトレーニングに励んでいた。


「はぁ!」


「(カチッ)……よし、いいタイムだ」


右手に握られたストップウォッチを見て、飛翔がそう言う。

今飛翔が行っているのは、結衣が自分の拠点から相手の拠点まで走り抜けるタイムの計測だ。


「1分12秒、かなりいいペースだ」


今回は障害物も何も無い平地での測定だが、約500メートルをこのタイムならかなりいい方だ。

夏合宿前の記録と比べると、早くも3秒もタイムが縮まっていた。


「一旦休憩しよう。少し早いけど、お昼休憩にしちゃおうか」


「もうお腹ぺこぺこよ……私は先別荘に戻ってお昼の準備しておくわ……」


「ありがとう、じゃあ俺は愛果達を呼んでくるから」


確か愛果達の方は勝田先輩がみていてくれてるはずだ。

二人の練習場所に足を運ぶと、そこには顧問 遠坂の姿があった。


「なんだ、来てたのか」


「勝田から連絡があってね。今後洗濯や料理などの仕事は私に任せてもらって構わない」


「いいのか……?その、家の方とかは……」


「それは、私に「早く結婚しろ」と言っているのかね?」


やばい、地雷踏んだ。


(というかこいつに関しては、しようと思えばできるだろ……。ただ縁がないだけで……)


とりあえず弁明した後、遠坂を含めた四人を連れて別荘へと帰還する。

先に戻った結衣は、既に全員分の昼食を並べておいてくれていた。


「やっぱり遠坂先生だったんですね、帰ってきたらご飯できてたのでびっくりしました」


「おや、ちゃんと私の分も取り分けられてるとは、気が利くじゃないか」


「だってこんな量作るの、遠坂先生ぐらいですから……」


結衣の後ろには、明らかに大団体用の鍋が……。


「食べ盛りなんだから、いっぱい食べて力をつけろ!沢山食べて沢山寝る、これが一番大切な事だ」


なんともまあ極論だが、言ってることは間違ってない。

それに、この暑さで食事を怠れば体調を崩す恐れもある。

遠坂の参加は、色んな意味で助かった。


「それで、どうだい調子の方は」


「みんな、早速成果が出始めてるよ。この調子なら、ベスト8も夢じゃない」


全員だいぶ仕上がってきたように見える。

特に伸びたのは、やはり蒼空だった。

これなら四月に入部した新一年生との間にあった二ヶ月分のブランクは解消されただろう。


「みんなの成長を見て、自分もまたフィールドに立ちたくなったんじゃないか?」


……またその話か。

その話をされる度、あの日のことがフラッシュバックするからやめて欲しい。


「もうその話はしないでくれ」


頭が痛む。

一生分のトラウマを植え付けられた。

もう二度と、フィールドには立ちたくない。


「勿体ないよ、君にはIDの才能が──」


「執拗いんだよ!やらないって言ってんだろ!」


限界を迎えた飛翔は声を張り、遠坂を睨む。

凶変する飛翔。


「お前も知ってるはずだ、俺が──っ」


10年前のあの日、何をしたのか。

そう叫ぼうとして我に返った。

その場にいた全員の視線が飛翔に集まる。


「──っ」


先程までの楽しい空気は一転。

その場の空気に耐えられなくなった飛翔は、逃げるように走り去った。


「飛翔さん……」


蒼空の不安そうな声も、飛翔の耳には届かない。


午後練の時間になっても、飛翔が帰ってくることは無かった。



「……ここにいたんですね」


「……蒼空か」


「お隣いいですか?」


岩陰に腰かける飛翔の隣に、蒼空がちょこんと座る。

恥ずかしさと気まずさで居心地が悪い。

訪れる静寂を断ち切るように、蒼空が口を開く。


「……私、前に不登校だったこと教えましたよね」


蒼空が転校してきた日の放課後、蒼空は自分が不登校だったことを飛翔に話した。

蒼空のような子が不登校だったことが驚きで、今でも覚えている。


「私昔からこういう性格なんです。周りの目とき空気とか読めなくて、どこか変わってるってみんなから言われてました」


波の音以外が消された世界で、蒼空の声だけが飛翔の耳に届く。

蒼空の指は、震えていた。


「いつしか私を笑い物にする人達が現れ始めました。最初はいつも通り気にしてなかったんですが、次第にエスカレートしていきとうとう私も限界を迎えました」


まるでいじめじゃないか、と思ってしまう。

たしかに蒼空の性格は変わっている。

だからといって、笑っていいものではない。


「段々と私は周りの声が怖くなりました。もしかして今笑ってた子達、私を見て笑ったのかな、とか、そんなことしか考えられなくなって……」


蒼空の表情が崩れ出す。

彼女は今、自身の最も恐れていることを、最も知られたくないことを話しているのだ。

その勇気に、飛翔は心動かされた。


「……今から10年前、俺は一人の人間を殺めかけた」


蒼空に変わり、飛翔が話し出す。

蒼空は全て話してくれたのに、自分が話さない訳には行かなかった。

……この話を人に話すのは、初めてだ。


「不慮の事故だった。使っていた片手剣の備品が破損し、尖った部分が露出した状態になっていたんだ」


話していく度、あの日のことが鮮明に蘇る。

あの日は、雨が降っていた。


「俺はそれに気づかず、相手の選手と交戦した。そして俺の片手剣は、相手の首元を掠めたんだ」


その時初めて気づいた。

自分の握っている剣に、不備があることに。

だけどそれに気づいた時はもう、手遅れだった。


「相手の子は首元から出血し、一命は取り留めたものの、深いトラウマを植え付けてしまったんだ」


相手の子の選手生命を奪ってしまった。

その責任を取るために、飛翔はコマンダーとしてIDを続けることを選んだ。

それが唯一の償いであり、自分を正当化する為の逃げ口だった。


「……お互い、災難でしたね」


お互いの弱さをさらけ合い、慰め合う二人。

時には弱音ぐらい、吐いてもいいじゃないか。

そうして数時間軽く言葉を交わした後、二人は別荘へと帰還した。


今宵の月は、いつもより綺麗に見えた。


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