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怪奇異譚~KAIKI・ITANN~  作者: 荒野ヒロ


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大きな大きなフロストフラワー

またほそぼそと投稿再開~

すごく寒い真冬の話です。

 水蒸気がつぎつぎに凍結し結晶となったものは、花が咲いたように見える。それを霜の花(フロストフラワー)と言います。

 寒い北の地でまれに見られる現象で、それはそれは美しい景色になるのです。都会の喧騒に疲れた人は一度──そうした風景を眺めて、心を自然の中に解放してみたらいかがでしょうか。


 そんな案内をSNSを使って呼びかけたのがうちの故郷です。

 大学を卒業し故郷に戻ってきた私は、観光案内をする1人として働いていました。

 たいしてやりたいこともなかった私は、都会のあらゆるわずらわしさから解放されて、故郷の自然に触れたときは、心が満たされた気がしたものです。


 冬場は寒く、1時間も外にいたら、たちまち凍えてしまうような気候ですが、霜の花を見たいという人が観光で訪れることも増えてきました。

 霜の花以外にも、樹氷や、降り積もった雪などだけでも、都会の人たちには珍しいのでしょう。寒い寒いと言いながらも楽しそうなお客を見るのは、私の喜びになりつつありました。




 そんな仕事について2年ほどたったころに、1人の女性が観光にやって来たのです。たった1人でこの町に来る人は多くありません、それに1人で来られる方はたいてい男性でしたので、すこし驚いたのを覚えています。


霜の花(フロストフラワー)を見に来ました……」

 そう言った彼女の表情は暗く、まるでここにいるのに、心はどこか遠くにあるみたいに見えました。

 彼女は案内は不要だと言って、どこで霜の花を見ることができるのか、といったことだけを尋ねて、その日は去って行ったのです。




 それから数日後、別の人を案内するために、早朝の川に向かいました。

 寒い、寒い日です。今日なら霜の花も見つけられるだろう、そんな期待を抱いて2名の男女をつれて行きました。確実に霜の花が見られるわけではないので、そこは運しだい。

 車で移動し、川の手前にある駐車場に車を停めると、すでに1台の車が停まっており、先客がいることを知りました。

 あたりには販売所もないので、この季節でここに車を停める人は霜の花を見に来た人でしょう。

(先日の人の車かな?)

 そう思いましたが、別に不審にも思いませんでしたし、私は2人をつれて川岸を散策しはじめました。


 キラキラと光を反射する場所を求めて歩いて行くと、こんもりと盛り上がった白い小さな山のあいだに霜の花の群生地がありました。

「きれいだね!」

 2人のお客は大満足で写真を撮ったり、しゃがみ込んで霜の花を見ています。

 すると男性の方が立ち上がり、上流の方へと歩いて行きます。そして離れた場所からこんなことを言ってきたのです。


「ガイドさん、あんなに大きな霜の花が咲いてますよ!」

 ははぁ、それはたぶん樹氷のことだろうと考えながら、男性の方へと近づいて行くと、日の光を受けてキラキラと輝く樹氷に似た、大きな霜の花が咲いていました。

 それは霜の中に樹木があるわけではなく、確かに水蒸気のみが固まってできたように見えました。


「そんなまさか……」

 こんなに大きな霜の花など見たことも、聞いたこともありません。

 地面から生え出た霜の花──いえ、霜の木に近づいて行くと、川岸いっぱいに敷かれた霜の花の下に、青いブルーシートのような物が見えました。

「誰かが置いていったテントか何かかな……?」

そう思って近づいて行くと、男性が「うわわわわっ……」とその場にへたり込んだのです。


 何かと思い近寄って霜の木の根本を見ると、そこには凍り付いた女性の顔がありました。

 霜の花に包まれたその女性は、数日前に私のところにやって来た女性です。

 霜の木は()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、まっすぐに空に向かって伸びていました。

 まるで口から彼女の魂が抜け出て、その魂が凍り付き、霜の木になってしまったかのようでした。

 川岸に寝そべり、彼女は何を想いながら空を見上げていたのか、それは私には想像もできません。

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